こどものゴリラたちが、木の上で楽しそうに木の実を食べている。木の下には片腕のないゴリラの子が1匹。オスのゴリラが母ゴリラを連れ去ったときに腕を食いちぎったのだ。すると、木に登れないその子に、木の上の子たちが木の実を落としてあげた。この話を妻から聞いた次の日の「はがき随筆」に、上手に虫を捕っていた園児が、捕れない子の空の虫カゴにバッタを1匹入れてあげた話が……。ぼくたち大人は、働くことに一生懸命で何かを失くした。そして、大人たちの多くは、何かを失くしてしまったことさえ思い出せずにいる。
鹿児島県霧島市 久野茂樹(70) 2020/4/17 毎日新聞鹿児島版掲載