新型コロナウイルスの感染拡大を警戒する中、新しい働き方としてインターネットを利用したリモートワーク(遠隔勤務)なるものが広がっている。いずれ主流になるのかもしれない。
そうすると、打ち合わせや会議のための出張が激減するようにも思える。先方と顔を合わせて、とことん話し合う働き方はなくなるのだろうか。
私が現役の頃の出張は、要件が済めばとんぼ返りしたものだ。移動は在来線、寝台車、特急、新幹線、飛行機、船、長距離バスなど行先に合わせて選んだ。
そうした移動の中で忘れられない光景がある。
朝一番、飛行場を飛び立ってすぐ大空から見た鳥取県の大山。雄々しかった。
赤名峠(島根県)での雪景色も印象深い。新卒採用で山陰の高校を訪問しての帰りだった。突然大雪となり、私の乗った長距離バスは足止めされた。
山あいを走るディーゼル車の鮮やかな色。快適な九州在来特急の車内。操縦席が見えるローカル空路の客席。美しい田園地帯、海面の輝き…数え切れない。
在来線では、修学旅行の小学生と電車内で乗り合わせた。土産に買ったもみじまんじゅうの箱を友だちに見せて「お母さんに食べさせたい」。私の耳にも優しく響く言葉だった。
あの時その時、スマートフォンがあれば写真が撮れたのになあ、と思う。時代の変化、詮ないことだ。スマホなどなかったから心に残っていると、自分にいい聞かせる。
岩国市 片山清勝(80) 岩国エッセイサロン会員