はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

紙芝居は楽しい

2022-10-16 20:39:17 | はがき随筆
 「とんとむかし」と話が核心に近付くと子供たちの瞳が輝いてくるのが分る。僕はその姿に「うんだもー(あらまあ)」と心がほんわかとなった。
 物語はふるさとに伝わる「しびの鬼むこ」。母が機転を利かして鬼から娘を取り戻す話。紙芝居を始めた当初、「今の子供たちに紙芝居なんて」とも思ったが、喜んでもらったことが意外だった。
 こうして機会あるごとに「紙芝居の読み聞かせ」をしている。身近な伝説を絵にまとめて身近な人に演じ、輝く瞳や希望を持つ子供たちとじかに接するところが魅力である。
 鹿児島県さつま町 小向井一成(74) 2022.10.8 毎日新聞鹿児島版掲載


木陰

2022-10-16 20:31:57 | はがき随筆
 家近くの交差点。公民館から一本の木が斜めに伸び、横断歩道手前に、影を落とす。夏は信号待ちの人々がほっとする一畳ほどの木陰だったが、建物の建て替えと共に姿を消した。
 ふる里の駅から海までの1㌔の道。途中、川があり、橋のたもとに石碑と大きい松が2本。夏、海に行く村の子たちは、この木陰で休み、また歩く。海水浴客で満員のバスが土ぼこりを立て、追い越していった。
 あの木も数十年、立派に人の役に立ち、道路整備で消えた。少年の日、あの松にうるさいほど鳴いたセミの声は、今は私の右耳に棲む。
 宮崎市 柏木正樹(73) 2022.10.8 毎日新聞鹿児島版掲載

藤棚の剪定

2022-10-16 20:24:49 | はがき随筆
 我が家には門から続く塀の一部に、高さが約2㍍で、幅と長さが2.5㍍の藤棚がある。あちらこちらで枝が伸び、棚からはみ出すので剪定鋏で切り取っているが、次から次と伸びるので剪定が大変である。足元の庭石には高低があるので、ヨタヨタ歩きの私はころばないように注意して剪定鋏を使用している。
 5月になるとブドウ状の房をして紫白色の花が百個ばかり垂れ下がっている情景は見事である。
 でも我が家は通り道から入り込んだ奥にあるからの通行人が立ち止まって鑑賞することがないのはもったいない。
 熊本市東区 竹本伸二(94) 2022.10.8 毎日新聞鹿児島版掲載

もう無理

2022-10-16 20:17:36 | はがき随筆
 この夏、妹の孫娘2人を3週間預かった。彼女たちのパパが単身赴任先で救急搬送され、ママからのSOSに応えたのだ。
 4歳と7歳のエネルギーはすさまじい。朝から走り回り、跳ね回り、大声でしゃべり、歌い、夜寝てもゴロゴロ動き回る。けがや病気のないよう片時も目が離せない。こちらはヘトヘトで8月末に兵庫県まで送り届けた後、バッタリ倒れそうだった。
 二度と引き受けまいと思ったが、彼女たちは一度も「ママに会いたい」と言わなかった。幼いなりに気を遣っていたのだろうと思うと、いじらしさに泣きそうになった。
 鹿児島市 種子田真理(70) 2022.10.8 毎日新聞鹿児島版掲載

夫へ

2022-10-16 20:11:32 | はがき随筆
 今日は夫が逝って3か月目、もうこんなに過ぎたのか。
 2年半も入院生活をしていたのに、それはそんなに長く感じなかった。
 コロナのために、顔も見られず、洗たく物だけが行ったり来たり。
 そして今朝、ふと運転していて気がついた。
 今朝は、夫に〝行ってきます〟の一言もいわずに出てきている。
 でも、こう思おう。いつもの調子でいいんだよ。それでいいんだよ。これでおれも少しやすめるよ!と。
 ありがとう。
 宮崎県えびの市 市後崎ユキミ(74) 2022.10.8 毎日新聞鹿児島版掲載

奇数日は左から

2022-10-16 20:04:16 | はがき随筆
 白内障、緑内障の目薬を1日5回ほど点眼。1.7.23日など奇数の日は左から、偶数日は右からさすことにしている。目覚めてすぐ「今日は何日か」と脳に記憶させ、どっちから点薬か考えるのがそもそもの狙い。
 たかが目薬で、と他人さまからは笑われそうだが、後期高齢者街道を爆走中の身としては、朝から「今日は何日か、予定はなかったか」と考えるのが、ボケ防止に大切と、いつの間にか習慣づいた。たまに新聞の日付を見て、「しまった。今日は逆だった」と気づくことがあっても実害はなく、ご愛嬌で済むのがいいところ。
 熊本市東区 中村弘之(86) 2022.10.8 毎日新聞鹿児島版掲載

農家の朝

2022-10-16 19:58:31 | はがき随筆
 父の実家は農業をしていて、子供の頃泊まりに行ったことがある。町に住んでいた私にとって、そこは別世界だった。早朝、まだ薄暗いのに一番鶏が「コケコッコー」と鳴き始める。それからだんだん明るくなり、あちこちから小鳥の声が聞こえてくる。牛が「モー」と鳴く。泊まったのは夏だったが、部屋が明け放してあるので、外から涼しい風が入ってくる。その爽やかで気持ちのよいこと。空気は澄んで太陽に光がキラキラしている。まさに自然と共にある生活だった。あの頃の夢のような世界は帰ってこないが、私の心の中にしっかりと生きてい
 熊本市中央区 北村孝博(71) 2022.10.7 毎日新聞鹿児島版掲載

夫のおかげ

2022-10-16 19:51:15 | はがき随筆
 暑くて寝つけなかったのでクーラーの設定温度を下げ冷え過ぎて風邪をひいた。コロナでは? もんもんと日を送っていたら胃の具合も悪くなって診察を受けたら逆流性食道炎。
 回復の兆しが見えた矢先、偽痛風を発症して左膝下から爪先まで腫れて痛いの何の。まる5日間、動けなかった。通院の際、車に乗り込むまでに四苦八苦。平らな所は足を引きずればよいが、階段は夫の支えなしには上り下り不可能だった。
 世の中広しといえど、この私めに手助けしてくれるのは夫以外にいない。頼もしい存在の必要性を痛感した。
 鹿児島市 馬渡浩子(75) 2022.10.6 毎日新聞鹿児島版掲載

台風の夜

2022-10-16 19:45:26 | はがき随筆
 子どもの頃、台風になると父は決まって出勤した。古い木造の社宅に雨は容赦なく雨戸を打ち、風はすき間を鳴らす。あちこちで雨漏りもした。仕事とはいえ、台風のたびに親子3人心細く不安な夜を過ごした。
 いつだったか、今度のは大型だと聞き、3人で車庫に置いた軽自動車に避難した。狭い車内でラジオをつけっぱなしにして、どれくらい過ごしたのだろうか。バッテリーが上がってしまい、帰宅した父が怒っていたのを覚えている。
 自分たちの身を守るため母なりに考えてそうしたのだろう。
 今となっては笑い話だ。
 宮崎県延岡市 楠田美穂子(65) 2022.10.5 毎日新聞鹿児島版掲載

健康寿命

2022-10-16 19:38:36 | はがき随筆
 先日、テレビで「平均寿命」と「健康寿命」との発表を見た。平均寿命のみを記憶していたが、その差があまりにも大きいので驚いた。考えてみれば、友人たち数人も病院や施設に入り、長く会っていない。常々みんなして、「ピンコロが一番だね」と話していたが、思うとおりにいくものではない。この歳になると、体調不良の日々があれば、「もしやこのまま」なんて考える半面、「生命力ってこんなものではない」と開き直る。40年近く続けてきた早朝散歩。四季折々の大空の風景は「頑張って」と応援してくれてるようで、秋風は背中を押してくれる。
 熊本市中央区 原田初枝(92) 2022.10.4 毎日新聞鹿児島版掲載

くっつき野菜

2022-10-16 19:31:08 | はがき随筆
 昨年、初めて牛蒡を植えた。収穫は大変だが、きんぴら、煮物とおいしくいただける。余りは冷凍してぜいたくに食べた。
 この夏、丸い塊に淡い紫の花弁をつけた。春先に伸びた茎に虫が大量発生し、根元から切った。その後に伸びた茎が育ち、8月になって花が咲いたのだ。
 ある日、畑を耕していると、服が引っ張られる。花が枯れて実になったのが、くっ付き虫のように服についている。ほぐした種をまくと芽が出てきた。孫娘が来たら「くっつき野菜だよ」と教えてあげよう。そしたら、牛蒡を食べてくれるかな。
 背に肩に牛蒡の種のある一日
 鹿児島県霧島市 秋野三歩(66) 2022.10.3 毎日新聞鹿児島版掲載

普通のヒマワリ

2022-10-16 19:24:37 | はがき随筆
 ヒマワリが咲いたと各地のテレビが知らせる。ウクライナでも見ごろを迎えたとヒマワリ畑が映し出されて安堵した。
 ヒマワリを見ると初めて見た洋画「ひまわり」を思い出す。侵攻が始まってから映画と重なり、また映画を見たいと願った。
 思いが通じてテレビで放映された。同じシーンで同じ感動を受けた。広大な畑一面にヒマワリが咲き揺れる光景は音楽ももの悲しく切なく響き、何かを語りかけているようだ。
 ウクライナの国花ヒマワリは「普通のヒマワリ」の名があると知った。現在の悲劇が終わり普通の平和な国の未来を願う。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(68) 2022.10.2 毎日新聞鹿児島版掲載

古いおもちゃ

2022-10-16 19:17:33 | はがき随筆
 「このおもちゃはもう捨てよう」と部屋の片づけをしていた時、私の15年ほど前のビデオを偶然見つけた。片付けがすすまないことを分かりながら見た。
 それはクリスマスプレゼントでもらった調理台や電子レンジ付きのおままごとセットを、組み立てようとしている動画だった。驚くことに、捨てようと思っていたおもちゃだったのだ。まさかこのタイミングで見つけるとは……。あの頃貼っていたピカピカのシールも古くなり、色落ちしていた。部品もない。
 15年後の私は何をしているのだろう。断腸の思いでお別れしたおもちゃのことは忘れない。
 鹿児島市 豊永未優(21) 2022.10.1 毎日新聞鹿児島版掲載

夕やけこやけ

2022-10-16 19:09:18 | はがき随筆
 大津街道を阿蘇路に向かってひた走る。途中、ハーレーのツーリング隊に出会ったり、少しずつひんやりと心地よい空気に変わる。夕暮れの中のススキの海は幻想的な美しさで、帰ることを忘れて3人で見入った。帰りの山道では一瞬にして霧に囲まれることもあったが、気丈なチャコは気後れもせずハンドルを切った。10年前、がんで逝くまでの5年間、闘病しながら仕事をこなし、最後まで母と妹のさっちゃんのことだけを心に残した。自慢のお母さんだと言ってくれていたさっちゃんが1月に急逝した。草むしりしか能のない母をひとりぼっちにして。
 熊本市東区 黒田あや子(90) 2022.10.1 毎日新聞鹿児島版掲載

戦争を知らない

2022-10-16 19:01:35 | はがき随筆
 私は戦争を知らない。体験を話してくれた父母たちもすでにない。毎年8月が来ると過去の戦争について学び平和を願う。今年映画「蟻の兵隊」を見た。戦争は人の身も心も破壊する。男性の無念を思うととてもつらい。やがて日本は戦争を知らない者ばかりになる。私たちは先人の思いを決して忘れず、戦争は絶対にしてはならない。
 コロナや暑さで疲弊している昨今、しかし住む所も食物もある。戦時は全てを失う。ウクライナ状況も終わりが見えない。世界は一触即発の様相、将来を危惧してやまない。取り越し苦労であると信じたい。
 宮崎市 小金丸潤子(72) 2022.10.1 毎日新聞鹿児島版掲載