平成19年1月2日(火)昨夜から雨が降り始め、
今日は、しっとりしたお正月になりました。
初夢を話題に、お昼に集まった親戚一同と、賑やかに
お屠蘇を年の若い順にいただき今年の抱負を語り合いました。
屠蘇とは、 一年間の邪気を払い長寿を願って正月に呑む薬酒 で、
酒やみりんで生薬を浸け込んだ酒。 正式には「屠蘇延命散」と言い「屠蘇」と書きますが、 これにも意味があります。 ひとつに「屠」は「屠(ほふ)る」、「蘇」は「病をもたらす鬼」 という意味で、すなわち鬼退治。 あるいは「屠」は「邪気を払う」、「蘇」は「魂を目覚め蘇らせる」という意味など、 微妙に違う解釈がいくつかあるようです。 いずれにしても邪気を払い無病長寿を祈り、 心身ともに改まろう、という願いを込めていただく、 お正月ならではのセレモニー酒です。 この習慣は中国で始まったと言われています。 これも諸説ありますが、 三国時代の魏の名医・華蛇が考案したという説が有力。 唐代に仙人が考案したのだ、という説もあります (仙人の住んでいた洞窟が「屠蘇庵」なので「屠蘇」という)。 日本には平安時代に伝わり、 嵯峨天皇の頃に宮中の正月行事として始められ、 江戸時代には一般に広まりました。
凧上げと羽根突きでしょう。
こま回しやまりつきは正月以外でも行われるが、
凧上げと羽根突きは正月だけの遊びですね。
実は、この二つの遊びは陰陽道を踏まえた
正月の魔術であるともいわれている。
特に凧上げは、陰陽師が嗣子相伝してきた秘儀であったらしい。
まず、羽根突きについて。
「羽子板」は「こき板」で、
「こき」とは「扱き」「放き」であり、強くしごきこすること。
「突き」は打ち突き放すという意味である。
何をか? 羽根を です。
羽根あるものとは鳥であり、鳥は「酉」の事。
つまり、羽根突きとは…
「酉」を力強く撃ち放ち合う儀式(のちに遊技化)でした。
何のためにか? 春を呼ぶために。
「羽根突き」は、元々は 「正月を招き迎える魔術」でした。
この意味は、後で明らかにしましよう。
さて、
凧上げですが、「たこ」上げというが、これを辞書で引いていくと、
別名「いか。いかのぼり」とある。
ともに長い足が特徴で、その姿からの命名であることがわかる。
実は、「いか」が古くからの呼称で、関西でそう呼ばれていた。
それに関東が対抗して呼んだのが「たこ」という名である。
では、「いかのぼり」とは何か。
また辞書を見ると、「紙鳶」や「紙老鴟」と漢字が当てられている。
紙で出来た「トンビ」である。
凧は中国起源だが、もともと足のない形だった。
これを安定させ、トンビのように空高く上げるために足が付け加えられ、
いかの姿となったわけだ。
ここからが本題である。なぜ正月にいかを空高く上げるのかだ。
実は、「いかのぼり」の姿は、陰陽五行説の「火」気の象徴なのである。
ここで、陰陽五行説の説明が必要ですね。
世界は陰陽の二気から成り立っていると言う考えです。
陰陽は交合し、天においては太陰(月)と太陽(日)となり、
地においては木・火・土・金・水の五気となって万物を形作った。
五気は世界のすべてに流れる原理であるという考えです。
干支(えと)と複合して、方位、年月日、時間など
ありとあらゆるものの支配原理であるが、とりわけ季節を支配している。
また、
五気はじゃんけんのように循環的な相互優劣関係(相剋・そうこく)と、
循環的な相互生成関係(相生・そうじょう)をもっている。
(注1)相生と相剋
相生 木→火→土→金→水→木 前の気が後の気を生む
相剋 木→土→水→火→金→木 前の気が後の気を剋す(殺す)
季節の五気(五時)については、
春・夏・秋・冬にはそれぞれ木・火・金・水の気が配当される。
そして春夏秋冬の、それぞれ終わりの半月ほどには土気が入る。
四季の始まりを告げる立春など四立の前、
約18日間が土用という季節なのである。
(注2)五時と五気と月の十二支
春 木気 寅・卯・辰(1~3)月
夏 火気 巳・午・未(4~6)月
秋 金気 申・酉・戌(7~9)月
冬 水気 亥・子・丑(10~12)月
土用 土気 辰・未・戌・丑の各後半、約半月間
手元にある2007年の暦で言うと、
立夏が新暦5月6日(旧暦4月20日)で、
立秋が8月8日(旧暦6月26日)。
そのうち、
新暦7月20日から8月7日まで(旧暦閏6月7日~6月25日)の
18日間が土用となる。
土用中の丑の日、7月30日(旧暦6月17日)が
例の「うなぎ」の日である。
夏は火気である。夏の土用は燥いた土気となる。
これを中和するため、湿った土気である冬の土用を取り込むのが、
土用の丑の意味であるらしい。
丑とは、12月であり牛であるが、「う」がつくものならと、江戸時代に
平賀源内が一計を案じて「うなぎ」をPRして一般に食するようになった。
さて、話を戻そう。
冬は水気であり、春は木気である。
しかし、冬の土用が立春前にやって来る。
土気は金気を生む(「土生金」の相生)。
そしてその金気は木気を殺す(「金剋木」の相剋)。
木気は植物の性であり、農耕を支える気である。
そこで、春である正月を無事に迎えるため、
金気を封じることが必要になってくる。
金気を制するのは火気である(「火剋金」の相剋)。
火気をさかんにすることによって、
木気を剋する金気の作用を殺すことができる。
事実、そういう迎春戦略が練られたのである。
火気は字のとおり「炎」である。
そして炎は三角の形をとる。
これが「いかのぼり」の形である。
いかのぼりとは、火気の象徴なのである。
もう一つある。
三合(さんごう)というものだが、
五気は、それぞれの四季の領分以外でも働いている。
火気は、夏(旧4~6月)を領分とするが、
その気の始まり「生」は正月(1月)にある。
そして次第にさかんになって、夏の5月に「旺」を迎え、
立冬前の9月に「墓」となり、消える。
(注)三合 火気と土気の 「生」→「旺」→「墓」
火気 夏 寅→午→戌(1→5→9月)
木気 春 亥→卯→未(10→2→6月)
だから
正月に火気を持ち出すことは、陰陽五行の理によくかなっている。
三合で言えば、
木気は10月に「生まれ」、2月の「旺」に向かって育ちつつあるもの。
火気は自ら「生まれ」ることによって、木気を扶翼し金気を剋殺している。
火気の性は「炎上」と言って、(燃え)上がるものである。
火気の姿である三角形のいかのぼりを空高く上げることは、
まさに火気をあおり、金気を制し、ついには木気をさかんにすることになる。
さらに
子どもが「いか」を上げる。
その時に、「いか」を見るため、目線を空に向けると自然と口が開く。
ここにも陰陽魔術が隠されているとのことです。
子どもは「土気」で、口を開くと「金気」が生じるが
(「土生金」の相生。「口」は金気)、
視線の先には「いかのぼり」=「火気」があり、
空高くから子どもをじっと見下している(「視る・見る」は「火気」)。
火剋金、すなわち火気が金気を剋殺している図が、
正月における子どもの「凧上げ」の姿なのだそうです。
以上の凧上げに比べ、羽根突きは直截的である。
初めに述べたように、
「酉」を文字どおり強く撃ち放とうとするものであるからだ。
酉とは8月のことで「金気」の「旺」である。
つまり、「金気」を打ち砕こうとしているのである。
ここにも「木気」の敵である「金気」を撃ち、春を招き呼ぶ姿がある。
五行は自然に循環する。すなわち、季節はめぐる。
しかし、季節の推移を自然とともに引っ張り寄せたり、
邪魔なものは撃ちやるというのが昔の流儀であった。
そういう季節や自然に対する戦略が
「年中行事」の本義だったらしい。
陰陽師とはそういう戦略家であった。
だからこそ、「凧上げ」は秘儀として意味は告げられず
都の男童に託されて行われてきたのであるが、
それが室町後期から江戸時代には技法だけが一気に流出・流布し、
意味はよくはわからずに 庶民の間にも
「正月の凧上げ」として流行することになったのである。
陰陽五行説の五気には「五行配当表」というものがあるのだが、
これが日本でどう解釈されたのかを解明することは至難である。
吉野裕子氏の解釈を理解し、その意味を踏まえて…と試みたが、
まだ、私は未熟な知識で、要領を得ず、確証が得られない。
たとえば「鳥」であるが、
実は「金気」とも「火気」ともとれるのである。
おそらく、
解釈の仕方の時代変化があるだろうし、
また時代事情に応じた 対応解釈?
(この場合は「金気」で、あの場合は「火気」という物)
があったのだろうと想像するが、
未熟者の私には不明。如何ともしがたい。
[主な典拠文献] 吉野裕子『ダルマの民俗学』岩波新書
もっとも、最近は、「ゲイラカイト」と呼ばれる「洋凧」が席巻している。
奴凧や、手作りの四角い竹製のは あまり見掛けない。
羽子板で、羽根突きするよりも、
バドミントンをする子どもの方が多いとも聞いた。
今日は、雨が降り、ドンヨリした一日でしたが、
明日は、もう 雨は降らないでしょう。
早速、戸外で、子どもたちと一緒に、明日は、
凧揚げや羽根突きを楽しみ 春を招き幸運を呼びましょう。