私の会社員生活は41年間だ。
そのうち12年間が営業だった。営業を経験させてもらったことは、
いろいろな意味で勉強になった(この歳になると、すべてに感謝
だ)。
もう30年以上前になるかしらん、営業時代、Tさんという、やや
気難しいお客さまがおられた。
その方が腰を痛めて入院されたというので、横浜の病院へお見舞
いに行った。腰を痛められたのだから、本は読めるかもしれない。
水信(みずのぶ→こちら)で高級メロンと、有隣堂で本を買って
お見舞いに行った。
その時の本が、有隣堂でたまたま縦積みになっていた、津本陽の
『下天は夢か 信長私記』(日本経済新聞社)だ。
お見舞いに伺うと、Tさんは仕事の時と違い、ご機嫌で元気そう
だった。
20分ほど雑談して失礼したが、何を話したか、覚えていない。
退院後、一週間ほどしてゴキゲン伺いに、会社を訪問し、昼食を
ともにした。
会社でお会いする時はいつも気難しい顔をされていたが、その時
はご機嫌よろしく、入院見舞いのお礼を言われ、続けて
「俺は秀吉も家康も嫌いだ。信長は二人とは比べ物にならない天
才だ。だから俺は信長が好きだ」
と言われた。
私は、Tさんが信長が好きだということを事前調査もしておらず、
知らなかった。たまたま有隣堂に積んであった、その本が(私に
は)おもしろそうだと買って持参したに過ぎない。
もしTさんが信長嫌いだったら、どういうことになっただろう。
人によって好き嫌いのある、信長、秀吉、家康の本はお見舞いに
向かないのかも知れない。
津本陽『下天は夢か 信長私記』(日本経済新聞社)
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