人生ブンダバー

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【臨時増刊】柏木俊夫生誕百年記念演奏会

2012-09-13 05:00:00 | 音楽

9月8日(土) 依然暑い。記録的な残暑、のようだ。この日も最高気温は33℃だ
った。ご縁あって、東京文化会館小ホールに柏木俊夫百年記念演奏会を聴きに
いった。東京文化会館小ホールは、この8日間で3回目である。

柏木俊夫は、今年生誕100年。東京音楽学校作曲科では第1期生として、信時
潔、クラウス・プリングスハイムなどに学んだ。クラウス・プリングスハイムもわが
国音楽会発展の恩人といってもいいかもしれない。


1.「中国歴朝 閨秀詩鈔」より(1944年)
(1)唄
(2)張雲容の舞を見て贈る
(3)十五夜
(4)たはむれに
(5)人を送りて
2.独唱曲集「入り日」より(2曲は1943年)
(1)明日の時(詩;与謝野晶子)
(2)青き花(詩;北原白秋)
3.独唱曲集「永遠の郷愁」より(詩;深尾須磨子)(1960年)
(1)旅愁
(2)村の天使たち
(3)月光
4.独唱組曲「フィンランドの雨」より(詩;市河かよ子)(1942~1985年)
(1)秋と子供
(2)風
(3)シベリアン・チットに
ソプラノ独唱 阿部早季子
ピアノ伴奏  安芸彊子

まったく初めて聴く曲ばかりだった。阿部さんは、30代かしらん、芸大声楽科卒
業後、イタリアのピアチェンツァ国立音楽院を首席で卒業、大き目の譜面を持
っての演奏。安芸さんの背筋を伸ばした、キッチリした伴奏に乗って、キッチリ
した歌唱を聴かせてくれた。

1は楊貴妃など中国の女流詩人の訳詩(文語)をピアノ伴奏付き独唱曲にした
もので興味深く、おもしろい。

2も与謝野、北原の文語詩を独唱曲化したもので、独特の世界が広がる。
1、2を聴き、文語の世界はいいものだな~、と。

3は深尾須磨子の世界。深尾須磨子の詩にはいろいろな作曲家が作曲してい
るが、パトスあふれる人だったようだ。曲自体と歌唱にひきつけられ、あらため
て深尾須磨子を研究したくなった。(2)は実にユーモラス。

4の詩はフィンランド公使の夫とともにヘルシンキに住んだかよ子の作品。詩人
の<心の叫び>が伝わってくる曲とすばらしい歌唱だった。

(東京文化会館小ホールは、ピアノ演奏には響き過ぎなくていいのだが、独唱
の場合はもう少し「言葉」の子音が強くてもよかったかしらん。)

--休憩--

ピアノ組曲「芭蕉の奥の細道による気紛れなパラフレーズ」(全17曲)
 (1949年)
1.草の戸も住み替はる代ぞ雛の家
2.行く春や鳥啼き魚の目は涙
3.入りかかる日も絲遊の名残かな
4.あらたふと青葉若葉の日の光
5.野を横に馬引き向けよほととぎす
6.落ち来るや高久の宿のほととぎす
7.卯の花をかざしに関の晴れ着かな(曽良)
8.風流の初めや奥の田植歌
9.笈も太刀も五月に飾れ紙幟
10.夏草や兵どもが夢の跡
11.五月雨の降り残してや光堂
12.閑かさや岩にしみ入る蝉の声
13.五月雨を集めて早し最上川
14.暑き日を海に入れたり最上川
15.よもすがら秋風聞くや裏の山(曽良)
16.散る柳あるじも我も鐘を聞く
17.荒海や佐渡に横たふ天の河

ピアノ独奏 浦山純子

柏木俊夫さんの傑作、大変おもしろかった、と書くと終わってしまうが・・・・・・。

この曲を作曲したきっかけは--昭和19(1944)年、芭蕉生誕300年、没後
250年には、芭蕉を偲ぶ催しが各地で開催された。それに刺激された柏木さん
は「奥の細道」から俳句を30ほど選び、これを音楽にしようと思い立った。最終
的には、俳句の忠実な、音楽的翻訳ではなく、「気紛れな」ファンタジー(空想。
幻想曲)という形式で作曲した。
むろん、信時潔さんのお弟子さんだけあって、様式、テンポ、緩急等々曲の前後
関係は<きっちり>吟味されている。

簡単にいえば、「奥の細道」の俳句(--凝縮された世界)から受けるイメージを
音楽(ピアノ曲)にしたということかしらん。

この日のステージでは、まず浦山さん(浦山さんは長身、30代カナ。)が、曲ご
とに俳句を読み、そして、例えば、第1曲では「旅の幕開けにふさわしくハ長調
から展開していきます」。第2曲では「旅立ちの別れ。淡々と響く左手の調べに
悲しみの歌が歌われます」などというように、簡単な音楽的解説が少し加えら
れた後に演奏された。
これは、私など専門家でないものにとっては大変勉強になったし、おもしろかっ
た。

ちなみに浦山純子さんのHPはこちら

曲としては、ショパン~ドビュッシーの影響が感じられたカナ?当初、30ほどの
俳句をリストアップしたようだが、最終的には17曲となった。バッハ以来の「24
曲」の「前奏曲集」というよりも、「17曲」に絞り込んだのも、俳句という「17文字
の世界」から来ているのかもしれない。

プログラムには、都立上野高校で同僚だった利根川裕さん(--当日も来られ
ていた。)はじめ、教え子、この日の独唱者の阿部さん、柏木さんの息子さん、
お孫さんからエッセーが寄せられていたが、柏木さんの音楽の道に厳しくも温
かい人柄が感じられ、ほのぼのとした気持ちになった。

午後4時終演。またの機会があれば、家族、友人などを誘って聴きにいきたい。




入場待ちの人々 指定席にもかかわらず多くの行列が・・・・・・



当日のプログラム 表紙の絵は柏木俊夫さんのもの






三越前にあった昭和19年の航空写真 東京駅~日本橋


東京文化会館周辺(9/8)




国立西洋美術館












ツタンカーメン展は1時間半待ち状態


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2 コメント

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柏木俊夫の作品と演奏 (増山歌子)
2012-09-16 18:07:39
成豪氏にもブログ送り、大変興味深いとの返信でした。
阿部さんは日本歌曲が初めてだそうで、これから勉強したいと言っていると彼から伺いました。
日本歌曲にしても芭蕉の俳句の世界にしても奥が深く、栗本先生の様な存在を伝え聞くと、まだまだ先に希望を持ってあきらめずに続けようと励まされる思いがします。
有難うございました
返信する
Re;柏木俊夫の作品と演奏 (katsura1125)
2012-09-17 07:40:14
増山先生、コメント有難うございます。つたない感想に恐縮です。

「中国歴朝 閨秀詩抄」のオリジナルは全12曲で、女声合唱版もあるとのこと。この次はそれらを聴いてみたいと思いました。

プログラム解説が詳しく、活字も大きく、読みやすく、勉強になりました。有難うございました。
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