川天使空間

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『やぶ坂からの出発(たびだち)』高橋秀雄著 小峰書店

2009年11月24日 05時25分50秒 | 創作・本の紹介
ひでじぃさま渾身の「父ちゃん」三部作、完結編。

「坂の上から」
たった4ページの章に、主人公良夫一家が県道近くのサトイモ畑に引っ越しが決まったという経緯と、良夫の「父ちゃん」悟一が「そこで店をやる」と決心したことが綴られ、新たな展開になるのだなと教えてくれる。
冒頭からの過不足のないひでじぃさまの文章に、からめとられていくのが気持ちいい。

「押し上げの窓」
算数のテストで良夫は2回目の100点を取り、クラス一成績がいい川村君の家に呼ばれる。鉄道模型を自慢され、図鑑がびっしり並ぶ本棚をうらやましくも思うがなにか居心地が悪く、「いる世界が、違うみてえ」とため息をつく。
風邪で熱を上げて、押し上げの窓からやぶ坂を駆け下りる和雄たちを見る。
良夫の心の動きがすうっと入ってくる文章だから、完全に良夫になりきって、100点を喜び、川村君の前でみじめな自分を思いながらも隔たりを感じ、勾配が急なやぶ坂をわいわい言い合いながら下りる和雄たちに安らぎを覚える。

「ひと口-ヤモと雑魚の十月」
絵を誉められて喜んだのもつかの間、色覚異常を疑われ、何度も受けた色神の検査をまた受けさせられる良夫。「なんでおれだけ」と、やりどころのないつらさに、心が痛くなる。雨を見ていたら川の音が耳に入ってきて、ひとりで釣りに出かける。
雨の中の川で、いつもはいるはずのない大物のヤモ(ヤマメ)を釣り、父ちゃんに食べてもらいたいと思う。
ドキドキしながら母と祖母のぶんをさらに2尾釣り上げ、自分のぶんの雑魚も釣る。
囲炉裏で焼いたヤモの塩焼きを、父ちゃんから一口もらう良夫。
「色弱」のつらさが、ふっとんでしまう爽快感。

「おひねり」
芝居の一座が村にやってきた。引っ越しで余分な金がないから見に行けないと良夫はあきらめていたが、一座の子どもたちの服についた草の実を取ってやり家に送ると、お礼に十円をもらった。芝居小屋に気を取られて飯炊きを失敗すると、祖母のツネが「しょうがねぇ、芝居行くか」と言ってくれる。
越後獅子を踊り終えた一座の子どもたちが取り合うようにおひねりを拾う姿を見て、良夫は辛くなる。その姿を「かわいそう」という女の人の言葉に反発して、良夫がお礼にもらった十円のおひねりを投げると、それを拾った子が一瞬良夫を見た気がして、もう一度会いたいと思った。
良夫の心のゆれぐあいが、もう、たまらない。

「酔っぱらいとネーブル」
母親の年子がリンパ腺の手術をして入院している病院へ、良夫は悟一と出かける。土方のバスに乗って早朝にでかけてお見舞いを終え、着がえなどで大きくふくらんだ唐草模様の風呂敷包みを悟一が背負った。それがドロボウみたいで良夫は恥ずかしくてならない。はじめて入った町の食堂で悟一は酒を飲む。帰りのバスまで時間があるので、先のバス停まで歩くという悟一。しかし酔っぱらってまともに歩けず、果物屋に入って「皮まで食えるミカン」だとネーブルを買う。悟一はやっとバスに乗せられ眠りこんでしまうが、そんな酔っぱらいの悟一を可笑しく思う良夫。
悟一に振り回されながら、でもそのすべてを受けいれている良夫がいとしい。

「ねえやん-出発の日に」
良夫が悟一に頼まれて「カエル屋敷」に豆腐を持って行くと、建て付けの悪いガラス戸の中から出てきたのは中学生くらいの少女だった。汚れた格好をした三歳と小学一年生くらいのふたりの弟に「ねえやん」と呼ばれていた。豆腐の代金をもらえずに帰ってきたが、少女は実は良夫と同じ学年で、母が後妻で継母だから学校に行かせてもらえないでいたことを知る。卒業式ではねえやんの名前が呼ばれて返事はなかったが、良夫の目には家事をしながら小さな弟たちを世話している姿がうかんだ。
自分とはまた違う境遇にいる、つらい思いをしている子ども。辛いのに、心痛むのに、どうしてだろう、いつのまにか気持ちがやさしくなっている自分に気づく。
この本を読んだ子どもたちが同じ気持ちになったなら、それはお金では買えない心の糧だと確信した。

本の最初から最後まで、読み捨てることのできない言葉に満ちている。

「はじめに」の文章には、「ひとりひとりがいつもドラマの主人公なのだ」。
進歩のない弟子達をはげましてくれるひでじぃさまの肉声に思えた。

「あとがきにかえて 囲炉裏ってなんだろう?」
囲炉裏の灰を均しているときの気持ち、囲炉裏の火に集まる家族。
エッセイのようなあとがきを読んで、団欒の火は、太古の昔から家族を結びつけていたのだなぁと遠い時間を思った。

ひでじぃさま、こんな宝石みたいなご本を読ませていただき、ありがとうざごいました!!

また投稿作品はボツだったようで、ちょっとへこんだ。
どうも「文学」から気持ちが離れすぎていた模様。
でもひでじぃさまの「ヤモ」のところを読んだら、またにんまり。
よおし、次こそがんばろう。
……と思ったら掲載だったそうで。
ううっ、縁起が良いとは言えない詩です。ごめんなさい、ひでじぃさま。
ワクチンの予約の準備とか保育所の集団接種の詰めとか、今日も仕事が待っている。
今日もびよよよ~~ん (*^ __ ^*)
コメント (6)
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