『日本暗殺秘録』(1969年/東映)
監督:中島貞夫
1969年芸術祭参加作品。
同年、京都市民映画祭で千葉真一が
主演男優賞を受賞。脚本の笠原和夫
は脚本賞を受賞。
短編のオムニバス形式で武士の世界
の非道さを描いた『武士道残酷物語』
(1963年/東映/監督:今井正)の日本
暗殺史版のようなオムニバス映画。
結構ズドンと来る全編シリアスな作品
だ。
本作で描かれる史実としての暗殺事件
は以下である。
・桜田門外の変
・紀尾井坂の変
・大隈重信遭難事件
・星亨暗殺事件
・安田善次郎暗殺事件
・ギロチン社事件
・血盟団事件
・相沢事件
・二・ニ六事件
特に、血盟団事件の編ではそうそう
たる俳優陣が出演している。
映像描写として非常に瞠目したのが、
庶民をとことん苦しめる財閥を暗殺
する菅原文太の暗殺シーンだ。
短刀での抜刀術を使っている。
実際は30センチ以上なので、戦後の
現在の登録では「わきざし」という
分類になるだろう。
だが、戦前、日本刀の登録制度など
は存在しない。
しかし、一尺以上は脇差に分類されて
はいた。
抜刀術や剣術での短剣術は、この寸
伸び短刀の「脇差」を使う。
近接戦闘において、殺傷力は抜群だ。
大刀などよりも近接戦では遙かに
実効力ある威力を示す。
財閥に国民いじめの商業主義的悪行を
やめるように交渉する国士菅原文太。
見下して一蹴する財閥に対し、懐から
寸伸び短刀=脇差の短剣を出す国士。
スーッと音もなく膝上まで刀を下ろす。
次の刹那、疾風の如く正座の位置から
跳躍しながら横一文字の抜刀斬撃。
こめかみを切り抜いたが致命傷には
至っていない。ここまでの時間は
瞬きの間。
逃げまどい、屋敷に控える従僕たちを
呼ぶ財閥。残心から次なる攻撃の機を
計る国士。
刺突する。
肝臓を刺す。突き技のセオリーだ。
そしてえぐる。肝臓を刺突してえぐる
と即死する。これは銃剣でもナイフで
も。脇差使用の殺技の基本だ。
浅野内匠頭も殿中で吉良に刺突していれ
ば、武士の本懐も遂げられただろう。
死んだ。
財閥の屋敷の下僕たちが走り寄ってくる。
「寄るな」
低く落ち着いた声で国士は言う。
右翼だろうが左翼だろうが、国士という
ものはこうした暗殺などはいとわない。
国粋主義者も国際主義者も、国事奔走
の際には、やるときにはやる。
それを「殺人」という概念では捉えて
はいない。テロリズム=悪という画一
的なステレオタイプの概念は彼らには
存在しない。やるのである。パッと。
彼らに共通することは、常にいつも
いつでも「即やる」ということだ。
それがいつかは分からない。
ただ、やると決めたら絶対にやるので
ある。
だからこそ、日本の歴史の事実として
こうした映画の題材になるような事象
が実際に起きて来たのだ。
幕末の「志士」なども、まったくこの
人種の陣列に列する。
長州藩士などは京の町を丸焼きにして
多くの京都市民を殺戮してまでも
天皇を拉致しようとしていた。
蛤御門の変もそうだし、池田屋に
集結した尊王攘夷志士たちは、京都
丸焼き、天皇拉致を計画していた。
明治以降の国事奔走者は、その主張
の如何を問わず、「万民の為」を
第一としたが、幕末の過激派尊王
攘夷志士たちだけはかなり異なる。
それは尊王を言いながら、一つも
尊王ではなく、天皇を利用していた
事だ。
このあたりは国情の時代性もあり、
明治から昭和にかけての日本の
テロリスト群像とは差異がある。
テロリズムは果たして悪なのか。
なお、最大のテロリストは国家権力
である。
これは万国共通。体制のイデオロギー
の如何、洋の東西を問わない。
苦しむのはいつも民衆だ。
『探偵物語』(1983年)
薬師丸ひろ子さんが可愛すぎて
爆死した(笑)。
この映画、1983年に渋谷に観に
行った。『時をかける少女』と
併映だった。
超満員の立ち見。
当時は「邦画は併映」、「立ち見
だろうが入れるだけ客を入れる」、
「入れ替え無し」が三原則だった。
ぎゅうぎゅうの満員電車のような
立ち見もごく普通って、消防法とか
どうなっていたのだろう(笑)。
この時の併映は、これは見応えと
いうかお得感ありましたよ~。
立ち見だけど(笑)。
現在のような全席指定の小さな映画館
というのではなく、映画館自体が
とんでもなく大きかった。NHKホール
や帝国劇場みたいな客席の広さなのよ
ね。
劇場で1983年に観た後は、ビデオと
DVDでふ~んと観ていたが、今回は
ネット映画配信サイトでじっくりと
観た。
松田優作さんがいいすね~。
それと、この作品の薬師丸ひろ子さん
は丁度玉川大の一年生になった時だ
けど、女子大生を演じていて、初めて
「大人」風の女性を演じた作品だった。
作品中の大学は池袋の立教大学で
ロケされた。
サークルボックスも、あれ立教のボッ
クスすね、あれは。
薬師丸ひろ子さんは実は運動神経抜群
で、高校の時などは鉄棒で大車輪とか
やって見せていた。体操選手でもない
のに。
それと、後年自動車運転免許を取得
してからは自分でも撮影所内や外で
時々運転をしていたが、車庫入れとか
が異様に巧かったとのタクシードライ
バーの証言もある。
この作品では、オープニング直後に、
田園調布の大邸宅の自宅(家のロケは
横浜市)に深夜こっそり帰宅する時、
薬師丸さんは庭木をスカートのまま
登って、そして二階から自宅に進入
してから靴を玄関に置く。
幼い時からいたお手伝いさんには
見破られてしまうのだが。
そのシーンを根岸監督はワンカットで
吹替無しで撮っている。つまり、薬師丸
さんが木登りして邸宅の二階の窓から
家に入るのだ。
これね、できる女優さんあまりいないと
思う。
薬師丸ひろ子さんは、とても潤いのある
良い声をしているのに、彼女には役者
としての欠点がある。
それは、台詞を舞台俳優のように大きな
声ではっきりと言うのだ。
彼女のウィスパーボイスなどは、ほぼ
聴けないが、たぶん松田聖子さんの
「スィートメモリー」の歌声のような
響きなのではなかろうか。
薬師丸さんは歌声はキーが高いが、話し
声はそうではない。独特の太い艶やかさ
がある。ただ、声がでかい。
それにしても、かわいいすよ~、この
作品での薬師丸ひろ子さんは。
公開直後には江口寿史大画伯の名作漫画
の『ストップ!ひばりくん!!』で
この髪型と劇中キャラがパロられて
ネタにされていじられていたけど(笑)。
この作品の後、薬師丸さんは新境地を
拓いて、大人の女優として活躍して
行く。
なんたって、最ラストシーンは、好きに
なってしまった探偵松田優作と空港の
エスカレーター越しに熱いキスだからよ~。
まるで映画みたいなキス(笑)。
この後の作品では『Wの悲劇』で彼女は
迫真の演技で観る者を圧倒するのであった。
三田佳子さんが鬼気迫る演技で完全に
主役の薬師丸さんを食いまくっていた
けどね。
『Wの悲劇』の撮影後に、薬師丸さんは
女優を辞めようと思ったんだってさ。
それくらいインパクトのある作品が
『Wの悲劇』だった。
その前哨戦のような作品がこの松田優作
と共演した『探偵物語』だった。
撮影時のインタビューで松田優作は
「薬師丸さんとの息は合ってますか」と
訊かれて「そりゃ勿論。もう尻も触った
しな」とか答えてた。こら~~!
ま、これまでの役者薬師丸ひろ子とは
まったく別境地のキャラクタを演じた
画期的な映画作品だった訳です。
この『探偵物語』は。
とにかく役柄がかわいいし、薬師丸さん
が演じる女子大生のお嬢様がかわいか
った。危なっかしいとこがなおかわいい。
お嬢様なのにしっかり者、でも人との
付き合いでは臆病になったりもする。
その様々な揺れる19才の心を見事に演じ
ている。
ネット配信で今観られる。
80年代文化に興味のある方は観るべし。
江戸もんとしちゃあ、お重よりも丼なの
お重もいけるぜ。
うな丼うな重以外のメニューも滅法美味