ケン坊のこんな感じ。
キーボーディスト、川村ケンのブログです。




朝、いつものように紅茶を飲みながらパソコンを開きました。

そして今朝、トップにしてあるロイター社のページ、「今日の写真」中の一枚を見て、背筋が凍りつくような感覚に襲われました。写真の中では、黒人が、弓矢やこん棒、そして・・・ナタを持って、今にも襲い掛からんような勢いで、大声で何かを叫んでいました。添えてある英語のコメントを読むと、「ケニアで、部族同士が弓矢やナタで武装して暴動が起きている」とありました。そして次いで検索した赤十字社の記事には、「陸路が武装集団に封鎖され、支援物資が輸送できない」とも(こちら)。

先日、こちらで「ルワンダの涙」という映画をご紹介しました。ほんの14年前に、ルワンダという国でフツ族とツチ族という民族同士が対立、大虐殺に発展し、わずかな間に80万~100万人もの民間人が殺し合ったという悲しい事件を扱った映画です。この映画をご覧になった方には、今日ご紹介した記事だけでもすぐにお分かりになると思いますが、そう・・・同じなんです。また、あれが繰り返されてしまったんです。現実に、今。

「・・・これ、『今日の写真』だよな」思わず何度も日付を確認してしまいました。間違いなく、2008年2月3日、つい2日前に撮られたものでした(配信までの数日のタイムラグがあります)。

そう、またもやアフリカで、民族間で惨い殺し合いが行われているのです。検索すると、昨年の12月末に暴動が起きてから、ニュースソースが新しいものになるたびに被害者数はどんどん増えていて、現在、既に1000人もの人(主に民間人)が、(民間人の手によって)次々に弓矢やナタで、殺されているんです。先週からでも、また70人もの人が殺されているようです(最新のニュース。現地の写真も数枚あります)。

次々に関連記事を探して読むたびに、心臓がドキンと脈打ちます。しかし、このままパソコンを閉じるわけにはいかない。一体、なんで、どうしてこんなことが今起こってる?

 

事の発端は、昨年も押し迫った12月27日の大統領選挙だったようです。まず、基礎知識として、ケニアには44ほどの民族がいて、キクユ族は全人口の22%を占める最多数民族ではあるけれど、全体からみたら大多数ではない、ということがあります。

さて、さきの選挙では、現職であるキバキ大統領(キクユ族)が再選したんですが、これに対して野党候補であったオディンガ候補が「これは不正選挙だ!」と声を上げました。

というのも、なんと開票が始まって、最終日前日まではオディンガ候補が大幅なリードをしていたにも関わらず、一夜明けてみたら、現職であるキバキ候補が大逆転勝利をしていた、という信じがたい事実があります。そしてこの最後の一夜、開票所にはまるっきり、連絡が一切つかなくなったとか(つまり何者かが不正を働いていた疑いが強い)。また、それ以前にも投票時に、オディンガ候補の強い地盤で「名簿に名前がないので、あなたは投票出来ません」などのトラブルも多数あったりしたようです(票操作の疑い)。選挙の監視の為に他国から派遣された職員からも「これはとても正式な選挙とは言えない」という声が上がっていたというくらいですから、まるっきり負けたオディンガ候補側の捏造、というわけではなさそうです。むしろ・・・やはりこれは。

そして現職キバキ大統領は、今までも、自分の出身部族であるキクユ族にばかり有利な政策を行ってきました。ほかの部族は、職業の選択や賃金でも差別されてきましたから、結果、貧富の差などがどんどん拡大してしまっているようです。そして、土地政策も、キクユ族の住む場所ばかりがどんどん整備され、他の地域は、例えば街灯が切れても放っておかれるし、道路はずっと穴だらけ、といった具合だったようです。つまり、キクユ族以外の部族の人たちはずっと不満に思っていたんですね。そこで「今度こそ国を、指導者を変えるぞ!」と選挙をしてみたら、・・・そして「よし、勝った」と思ってたら、・・・最後の最後に不正と思われるやり方で、今までの大統領がなぜか再任されてしまったんですね。

そしてここで、いよいよキクユ族以外の人々の怒りが大爆発した、というわけです。もう我慢できない、と。ここからがまた悲惨なのですが、もうこうなると、一般人でもキクユ族と分かると殺されるわけです。しかも、今まではそれなりに良き隣人であった人にさえ。想像できますか?「え?キバキ大統領が悪いわけであって、それは一般人とは関係ないんじゃ?まして隣人を殺すなんて・・・」と普通は考えます。しかし、人間の剥き出しの不満や憎しみ、そして怒りというのは、よっぽど強い理性で抑え続けないかぎり、本来はこういうものなのかもしれません。今回やルワンダの事件に限らず、今までだって多少の程度の差こそあれ、ずっとそういうものでしたよね。坊主憎けりゃ、というやつです。

そして抑止力になるべき理性というのは、教育とか知識によって培われる場合が多いと思うのですが、(これはアフリカ諸国全般にも言えることですけど)ケニアの民間の教育レベルは、残念ながら例えば日本などとは比べ物にならないくらい低いと思われます。となると、これも大きな問題だと言えますよね。うーん。これはアフリカに限らず、やっぱり世界中の問題でしょうね。教育の問題は大きいです。「ギョウザ問題」を見ていても、これを感じます。

ケニアは長く平和な国でした。アフリカの中でも進んだ国でした。豊かな自然、優しく人懐っこい人々の国。楽園、と称されることも多かったのです。国際的にもオリンピックで活躍した選手が沢山いますよね(今回、ソウルオリンピックの1600mリレーなどに出場した選手も投石に当たって命を落としたそうですが(こちら))。それは、今回の紛争で使用されている武器が弓矢やこん棒、投石やナタであることからも分かるんです。治安の悪い所には必ず銃がありますね。でも、今回ケニアの人々は銃では武装していない。つまり、これまでそんなものは必要ない、平和で安全な国だった、ということです。弓矢にしたって、そもそも狩に使うために持っていたものなんです。ナタだって、木を切ったりするための、言わば農機具です(使い方が間違ってますが)。ですからこれを「えー、今どき弓矢?前時代的な。日本も戦国時代には使ってたみたいだけど。遅れてるなぁ」なんていう見方をするのは間違っています。絶対的な銃の金額の問題もあるにはありますが、それまで平和な場所だったからそもそも銃など必要無かった、という一面を見とるのを忘れないで欲しいと思います(日本も、そこらには無いですよね)。そしてまた、このように平和はいつ突然崩れるかわからないんだ、ということも。

先ほど死者数が1000人と書きましたが(まだまだ増えそうです)、家を焼かれたりして難民化した人は25万人とも言われています(こちらも増えるでしょう)。かつて隣の国であるウガンダでアミン大統領が圧政をふるったときに(「ルワンダの涙」と同じ日にアミンを扱った「ラスト・キング・オブ・スコットランド」という映画もご紹介しましたね)、人々はケニアに沢山逃げ込みました。そして今、・・・その道を今度はケニア人が逆に辿って逃げています。ちなみにウガンダの隣には、あのルワンダがあります。

こういう民族間の争い、極端な話、「誰が憎い」ではなくて、ある民族を丸ごと、この世から一人残らず殺してしまおうという「民族浄化」までになると、宗教の対立から起こる宗教戦争と同じ様に、ほぼ単一民族で宗教観の非常に緩い我々日本人にはすぐには理解しづらいものがあるかもしれません。

しかし・・・最近の「ギョウザ問題」からも感じ取れるんですが(とても一緒に出来る話じゃないですけども、でも。)、僕達日本人にだって、かなりの民族対立意識がありますよね。マスコミも、一般人も、心の何%かにお隣の国、ひいてはかの国の民族に対する不信感が見て取れます。当然でしょう。だって、乱暴にいってしまえば「食べ物を買ったら、毒が入っていたが、これはどういうことだ」という図式ですから。まだ真相は明らかになっていませんので、これ以上は差し控えますが、もし・・・もしもですよ。まるっきり例えば、の話としてしますが、

あのギョウザを食べて、もしも日本人が沢山死んでいたとしたら。かわいい子供達を含む日本人が、もしも何十人も、何百人も、もしかしたら何千人も死んでいたら。当然大変な国際問題になるわけですが、そういう時には政治家よりも我々一般人こそが、「もう頭にきた。ふざけんな。実はずっと色々思ってたんだ」なんて、冷静さを失った気持ちになっちゃって、そして「やってはいけないことをやってしまう人」も沢山出てくるのではないでしょうか。そしてもしかしたら、僕や貴方だって、すぐそばにいる、直接的には無関係である来日してるだけの人たちに対してすら敵意をむき出しにしないとは・・・、限らないんじゃないかな、なんて思うわけです。とっても嫌なことですけど。でも、嫌がらせをしたり、お店なんかに石を投げて破壊したり、中には本当に人に対して手を出してしまったりする人も出るかもしれませんね。当然ケンカにもなるでしょうし、そうなればあちらからも報復行為だってあるでしょう。そして、もはや「ギョウザ問題」の真相が実際どうだったかなんてどうでもよくなっちゃって、しまいには相手の何もかもが頭にくるようになって、どんどんエスカレートに次ぐ、エスカレート。果ては・・・。

こんな風に暴動(から紛争、そして戦争)は、まったく意外なことが引き金でも起こったりするんじゃないでしょうか。

ケニアに戻りますが、この紛争がもしも長引くようなら「国家崩壊」の恐れもあるとも言われています。また、殺し合いは済んでも、破壊された家や建物の復旧には少なくとも数年~数十年を要するだろうとも言われていますし、そもそもこの虐殺の現実は長く人々の心に残るでしょう。観光も大きな国家的事業だっただけに、代償はあまりにも大きいと思われます。しかし日本のマスコミでは本当に扱われないんですよね。他の緊急性の無いニュース(例えば芸能とか)の時間を1分でも削ることはできないんでしょうかね。って、今さらソコを言うなよ、ですかね(涙)。

 

最後に、ちょっと余談ですが。

アメリカ大統領選、今日は大きな山場の「スーパーチューズデー」を迎えていますね。この選挙の目玉候補の一人でありますオバマ氏のお父さんが、ケニア人です。そして、先のオディンガ氏(ケニアの不正選挙で負けた人)が「私はオバマの親戚だ」と既に公に発言しています(こちら)。これに対してはオバマ氏は今のところ何のコメントも出していないようですが、どちらにせよ父親の出身国でのこの悲劇。親戚もたくさん居ることでしょうに、自身の人生も大きな局面を迎えている今、心中穏やかではないでしょうね。

 

ケニア暴動の一刻も早い解決を祈ります。

赤道直下の太陽の光豊かなこの国を訪れたある人は、空港から出た途端に「ここは天国じゃないのか?ああそうか、きっと途中で飛行機が落ちて、私は本当は死んだのだろう。だから、そう、・・・ここが天国なんだ。」と言い表しています。辺り一面に咲く色とりどりの花と、緑溢れる大いなる自然と、そして優しい人々の笑顔のとびきり美しい国・・・だったんだそうです。

ではー。



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