く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「鳥獣害ゼロへ! 集落は私たちが守るッ」

2015年02月10日 | BOOK

【日本農業新聞取材班著、こぶし書房発行】

 鹿やイノシシなど野生鳥獣による農作物被害が深刻度を増している。2012年度の被害金額は約230億円。4年連続して200億円を超えた。本書は農業専門紙「日本農業新聞」が2013年度年間キャンペーン企画として昨年3月まで連載した「鳥獣害と闘う」をまとめたもの。このキャンペーンは「農政ジャーナリストの会」主催の第29回農業ジャーナリスト賞を受賞した。

     

 第1章「招かれざる隣人」でまず全国各地での農業被害の実態を覗く。その隣人とは鹿、イノシシのほか猿、ヌートリア、アライグマ、カラスなど。北海道では鹿の侵入防止柵が東部を中心に数千キロに及び〝万里の長城〟と呼ばれているという。だが「列島を縦断するほど長い柵も管理が行き届かず、被害軽減の決め手に欠く」。山口県のある集落では高さ1.2mの柵を設置した結果イノシシ被害はなくなったが、最近は鹿がその柵を跳び越えて侵入し、若い芽を根こそぎ食い荒らす。

 第2章以降で各地での創意工夫の対策を取り上げる。静岡県富士宮市は「シャープシューティング」という方法で鹿の駆除に成果を上げているという。米国で始まった狩猟方法で、鹿を餌付けして集め銃で一気に仕留める。同じ鹿でも奈良公園の鹿は春日大社の創建以来、守るべき大切な神の使い。たまにドングリを与えたりして癒されているだけに、少々可哀想なやり方にも思える。だが深刻な被害に直面する農林関係者にとっては、苦慮の末に辿り着いた方法ということだろう。

 広島県庄原市の集落では地区全員が獣害対策の情報を共有し学ぶ場として共同畑を設けた。大分県では「有害獣と戦う集落十箇条」を作るとともに、鳥獣害対策に重点的に取り組む50集落をモデル地区に指定、半数以上の27集落が3年間で被害をゼロにすることに成功した。宮崎県は現場目線で被害対策の指導・助言を行う「鳥獣被害対策マイスター」の育成に力を入れる。

 兵庫県丹波市のある集落では農家以外の住民も含め全戸で当番制を敷いて鳥獣害防護柵の点検や管理を徹底。福井県小浜市も防護柵設置時に維持管理を義務とする協定を住民と結ぶ。香川県さぬき市の集落は野生獣の侵入を防ぐ電気柵に軽トラックも通れる幅5~10mの管理道を併設することで、イノシシ被害の撲滅に成功した。

 最終第8章では各界の識者が被害克服のためのコメントを寄せている。宇都宮大学農学部教授の大久保達弘氏は「鳥獣害対策と里山再生は地域農業振興の両輪。鳥獣害対策は地域がまとまる機会にもなる。被害軽減がゴールではなく、里山再生のスタートとすべきだ」と主張。JTB常務で日本ジビエ振興協議会顧問の久保田穣氏は「鳥獣害対策を好循環させるためにはしっかりした出口対策が必要。ジビエ(野生鳥獣肉料理)は一つの鍵になる。ジビエを活用する際には肉の品質、安全基準のチェック体制を地域一丸でつくり、慎重かつ丁寧に進めるのがよいのではないか」と指摘する。 

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