【アカネ科の着生植物、その名もずばり「アリノスダマ」】
表面がゴツゴツした鏡餅のような大きな塊。異様なその姿にまず目が吸い寄せられ、内部の構造を知ってさらにびっくり。自ら迷路状のトンネルを作り、アリに住処(すみか)として提供しているという。ボルネオ島やニューギニア島など東南アジアの熱帯地域に分布するアカネ科の着生植物で、「アリノスダマ(蟻の巣玉)」という和名が付けられている。
この植物を見たのは京都府立植物園の温室内。これまでも度々訪れているが、華やかな花にばかり気を取られ見過ごしていたようだ。アリノスダマはマングローブの樹上や岩の裂け目などで育つ着生植物。常緑の小低木で、塊茎(擬鱗茎)の上部から数本の枝を伸ばし、白い花を付けるという。(下の写真は㊧塊茎内部の様子、㊨塊茎表面の拡大写真)
塊茎は種子の発芽直後から作られ始め、大きくなるに従って複数の空間(部屋)ができトンネルで結ばれていく。女王アリは早い段階で入り込んで塊茎の生長とともにコロニーを形成していく。大きなものでは数百匹のアリがその中で生活するそうだ。アリは塊茎の中央下側から出入りする。アリノスダマはアリに住処を提供する代わりに、アリの排泄物や餌の食べ残しなどを養分としてもらう。
アリノスダマのようにアリと共生関係にあるものを「アリ植物(アント・プラント)」と呼ぶ。東南アジアの熱帯地方には他にも同じアカネ科の着生植物「アリノトリデ(蟻の砦)」やシダ植物「アリノスシダ(蟻の巣羊歯)」などがあるという。ただ日本でこれらの植物を栽培しても、日本のアリは塊茎内で生活する習性がないため、共生場面を見ることはまず期待できないそうだ。