【市制60周年を記念、発掘調査の成果一堂に】
天理市文化センターで市制60周年記念事業の一環として、平成26年度冬の文化財展「古墳のまち天理」が開かれている。天理は市内に1500基以上の古墳が分布する県内屈指の古墳密集地域。市教育委員会が30年以上にわたって取り組んできた発掘調査の成果を一堂に展示している。3月15日まで。
市南部に広がる大和(おおやまと)古墳群のうち東殿塚古墳からはゴンドラ形の大型船が描かれた円筒埴輪が出土した(下の写真㊧)。帆や7本の櫂(かい)などが鮮明に刻まれている。この埴輪が見つかった古墳前方の突出部には大小の埴輪を三角形に並べた祭祀の場があることから、線刻されているのは葬送の船とみられる。
仙之内古墳群の小墓(おばか)古墳周濠からも円筒、朝顔形、盾形、人物、馬形、水鳥形、鶏形、家形など多様な埴輪が出土した。そのうち「盾持ち人」と名づけられた人物埴輪(上の写真㊨)は盾形埴輪の上部に顔が取り付けられたもの。顔には入れ墨を表す線刻が施されている。この埴輪は古墳の外側に向かって立てることで、聖域を外の世界から守る役割を担っていたとみられる。
入れ墨が刻まれた埴輪は他の古墳からも見つかっている。新蒔古墳から出土した人物埴輪6点のうち1点の男性には鼻の両側に入れ墨模様が描かれている。魏志倭人伝の記述に「男子無大小皆黥面文身」(男子は大人も子どもも区別なく皆顔や体に入れ墨をしている)。荒蒔古墳の築造は古墳時代後期とみられる。その頃もまだ入れ墨の習慣が続いていたということだろうか。他の5点は首飾りをした女性、弦楽器を持つ男性など。この古墳からは翳形(さしばがた)埴輪(上の写真㊨)も出土した。翳は貴人に差しかけて顔を覆い隠すもの。この形状のものは特に「双脚輪状文(そうきゃくりんじょうもん)埴輪」と呼ばれ、全国で8例ほどしか出土例がないという。
荒蒔古墳からは犬形と猪形の埴輪も1点ずつ出土している(写真㊧)。犬と猪の埴輪はセットで見つかることが多い。猟犬による猪狩りの場面を表すものとみられる。犬は飼い犬らしく首輪が巻かれ、猪の上半身は赤く塗られている。天理市北部の長寺(おさでら)遺跡からは円筒埴輪が水路の排水管に転用された遺構も見つかった(写真㊨)。これらの埴輪はもともと近隣の古墳の周囲に並べられていたものとみられる。