【龍・鳳凰・牡丹・蓮・ブドウ・ザクロ・鶴・亀・富士山……】
大和文華館(奈良市学園南)で開催中の「おめでたい美術」展(15日まで)も閉幕まで残りわずか。10日には梅のシーズンに合わせ「うめの無料招待デー」として無料公開された。梅は多くがまだ蕾で期待外れだったが、陳列された絵画や美術工芸品の中には逸品も多く、同館収蔵品の豊富さと質の高さを改めて実感させられた。
展示作品は長寿や子孫繁栄など様々な願いが込められた絵画や工芸品85点。まず「おめでたい年の初めに」として富岡鉄斎の作品8点が並ぶ。鉄斎は「神国日本の象徴」として富士山を好んで描いた。30代後半には自ら富士登頂も果たしている。8点のうち富士山の作品が2点。そのうち『攀嶽全景図』は約1.4m×2.2mの迫力のある大作で、画面右上には富士と天皇を賛美した長い賛文が添えられている。『福神鯛釣図』(下の写真=部分)は交流のあった松山の近藤家当主文太郎氏に「貴家の御清栄を祈って」との書状と共に贈ったもの。
展示作のうち半数強は中国の作品。動物では龍や麒麟、鳳凰、亀を題材としたものが目立つ。古代中国ではこの4つが「四瑞」として尊ばれた。よく問題になるのが龍の爪の本数。中国では5本龍は皇帝の象徴として皇帝以外の使用が厳禁された。展示品のうち『白磁黒釉印花雲龍文鉢』(元時代)や『五彩龍文透彫硯』(明後期)などは5本だが、『青花龍文梅瓶』(明後期)など4本のものも数点あった。
会場正面入り口に飾られた『紅花緑葉福字文合子』には表蓋の「福」の字の区画内に5本爪の龍が描かれている(下の写真㊧)。容器の大きさは直径19.7cm、高さ9.4cm。底裏の銘から明時代の嘉靖年間(1522~66)の作とされる。制作方法は「彫彩漆」で、下から順に黄、緑、朱の漆の層が塗り重ねられ、彫る深さで文様の色が彫り分けられる。
植物では蓮の花や多くの実を付け子孫繁栄を表すザクロ、ブドウなどが主に吉祥のモチーフとなる。『素三彩果文皿』(清時代、写真㊨)の見込みには霊果といわれた桃やザクロが三彩釉で色鮮やかに描かれている。ブドウは朝鮮王朝時代にも画材として好まれた。朝鮮王朝時代の作品はブドウをモチーフにしたものだけでも『螺鈿葡萄文衣裳箱』など4点が出品されている。
他に重要文化財の『金銅蓮華形磬』や雪村周継筆『呂洞賓図』、狩野探幽筆『古画縮図(花鳥)』、宋紫石筆『ライオン図』、青木木米作『赤絵龍文盃』なども展示されている。