【平底の縦置き円筒棺の出土は全国で初めて】
奈良市埋蔵文化財調査センターで夏季発掘調査速報展「赤田横穴墓群の陶棺2」(8月28日まで)が始まった。昨年の陶棺5基の公開に続く第2弾。今回は新たに復元作業が完了した9号墓出土の円筒棺2基(写真㊧)と亀甲形陶棺1基(㊨)を展示中。円筒棺は蓋付きの円筒形で、奈良県内では初めての出土。しかも平底で縦置きとみられる円筒棺は全国でもこれまでに出土例がないという。
赤田横穴墓群は近鉄あやめ池駅と西大寺駅のほぼ中間のすぐ北側に位置する。陶棺と呼ばれる素焼きの棺に遺体を納めて埋葬した横穴墓が多数見つかっており、これまでに1~9号墓の発掘調査を行ってきた。造られたのは6世紀後半から7世紀中頃にかけて。今回展示対象の9号墓は出土した土器から7世紀中頃に造られたとみられる。
3つの棺が納められていたのは長さ5.7m、幅2.5mの墓室内。円筒棺は大小2つで、大は口径29.5cm、高さ85.1cm、小は口径26.6cm、高さ67.4cmだった。いずれも赤褐色の素焼きの土師器。底は平たく、小形品は斜めに立った状態で見つかった。蓋受け部分には蓋を固定するための紐穴とみられる小さな穴が8~20cm間隔で設けられていた。(下の写真は㊧9号墓墓室内の出土状況、㊨同時に見つかった土器類や耳環などの出土品)
亀甲形陶棺は別々に焼き上げた棺蓋(かんふた)と棺身(かんみ)から成る。棺身の大きさは長さ117cm、幅48cm、高さ44cmで、8つの円筒形の脚で支えられる。棺蓋を再現できたのは片側だけ。左右に円柱状の小さな突起を持つ。こうした突起が付いた亀甲形陶棺は岡山県北部の美作地方で多く出土例があるが、奈良県内では初めて。同センターは「陶棺の2大製作地だった大和北部と美作の間で交流があったことを示すもの」とみる。
3つの陶棺は大人を葬るには小さすぎる。7世紀中頃の陶棺は小型化の傾向にあったため、単純に子ども用とみることもできないという。7号墓からは鉄釘が出土している。木棺に埋葬した後、陶棺に納めたらしい。そのため同センターは9号墓の陶棺も埋葬後、改めて骨だけ納めるための再葬用容器として使用されたのではないか、と推測する。