【「すさみ海立エビとカニの水族館」9月には道の駅にお引っ越し】
「すさみ海立エビとカニの水族館」は枯木灘を望む公園「日本童謡の園」内の高台にある。開館は16年前の1999年。鳥羽水族館でジュゴンの世界最長飼育などの実績を積んだ森拓也さんが退職後、「南紀熊野体験博」に合わせて開館した。自他共に認める〝日本一貧乏な水族館〟だが、今年9月の「道の駅」移転を機に飛躍を期す。
入り口に係員はいない。入館者は料金箱に自ら入館料300円を投入する。迎えてくれるのは脚の長い世界最大のカニ・タカアシガニ。小さい水族館だが、他にも世界一がいっぱい。世界最大のエビ・アメリカンロブスター、世界一甲羅の大きいカニ・オーストラリアンキングクラブ、世界最大のヤドカリ・ヤシガニ……。アンボイナも「世界一危険な殺人貝」として展示されていた。矢舌(やぜつ)という猛毒の管を槍のように使って目にも止まらない速さで魚を捕らえる。沖縄では「ハブ貝」と呼ばれ、人の死亡事故も起きているそうだ。海水温の上昇に伴って近年は南紀の海でも生息が確認されており、展示中のアンボイナも3年前、地元すさみのイセエビ刺し網漁で採取したという。
同じ1つの水槽に巨大なウツボと、イセエビの仲間で色が鮮やかなニシキエビが入っていた(最上段の写真)。ウツボは獰猛なため〝海のギャング〟とも称される。ニシキエビは大丈夫なのだろうか? そこにはタコが大きく関わっていた。タコの大好物はイセエビ。ウツボはタコが大好き。そこで同じ岩穴に潜むことで、ウツボはイセエビを狙って近づくタコを襲い、イセエビはウツボに身を守ってもらう。つまり両者は共生関係にあるというわけだ。(下の写真は㊧オーストラリアンキングクラブ、㊨ヤシガニ)
館内の一角に「ヤドカリつり」のコーナーがあった。餌のスルメを付けた釣り糸を垂れると、早速数匹のヤドカリが餌の周りに集まってきた。そばにはクロナマコやサザエなどを自由に触れる「タッチングプール」も。「クリスタルヤドカリ」(下の写真㊨)は透明の樹脂が殻代わりで、普段目にできないヤドカリの殻の中が透けて見える。各水槽にはサポーター名が添えられていた。1口5000円で半年間、好きなエビやカニの仮親になることができるという。アイデア満載のアットホームな水族館だ。(下の写真㊧は〝殺人貝〟アンボイナ)
今年9月には近畿自動車道紀勢線の延伸でIC近くにできる「道の駅」に引っ越す予定。すさみ町から誘致話があったもので、建物の規模は3倍、水槽の数は2倍になり、飼育する甲殻類も約150種と大幅に増える。これを機に水族館の名前も「すさみ町立エビとカニの水族館」と、「海立」が「町立」に変わる。ただ補助金ゼロの独立採算性は今後も変わらないそうだ。