「難波津の歌」が記された木簡(左)と、赤外線写真
京都市埋蔵文化財研究所は26日、中京区壬生朱雀町で実施した発掘調査で、古今和歌集にも登場する有名な「難波津の歌」が書かれた9世紀後半の木簡が見つかったと発表した。平仮名が形成される時期の文字で歌をほぼ全部記した初の木簡で、意味不明の散文も付いていた。平仮名の成り立ちを探る重要な史料として研究者が注目している。
調査地は平安京のメーンストリート「朱雀大路」のすぐ近くで高い身分の貴族邸宅や公的機関の可能性が高い。井戸の中から見つかった木簡は長さ約35センチで、有名な「難波津に咲くやこの花冬ごもり いまは春べと咲くやこの花」の歌がほぼ平仮名で記されていた。
埋文研によると、7世紀から史料に登場する難波津の歌は貴族の手習いによく使われ、全国で木簡や土器に難波津の歌が37例確認されている。今回の木簡はサイズや内容から、文字の練習や儀礼などと用途が違ったとみられる。木簡は2行あり、左側に書き込まれた散文の内容は解読できなかったが、歌の注釈とも考えられるという。
京都では中京区の藤原良相邸跡で日本最古級の平仮名墨書土器が見つかっている。今回の木簡は同じ9世紀後半の出土物で少し時代は新しい。調査した京都産業大の吉野秋二准教授(日本古代史)は「平仮名の歴史を考える上で墨書土器の文字と対照できる重要な史料だ。歌と散文が一緒に書かれている木簡は例がなく、今後の研究課題となる」と話している。
現場調査はすでに終了している。木簡は27日から12月13日まで市考古資料館(上京区)で展示する。無料。
京都新聞2015.11.26