母が庭に出て隣家の塀越しに
「今朝はしのぎやすいですねえ」
なんておしゃべりしている、娘はそういう母が大嫌いで「朝から大きな声出してなんと品がない」
と思いながらもう一度寝床に潜り込んでいる(あんたの方がよほど品がないよ)と思うのはもっと後になって
母親の言動や振る舞いが一つ一つ癇に障る時期があった
そして末っ子の調子よさで表に出ると行儀よく品よく「いいお嬢さんね」と点数を稼いでいるが
家に帰ると母親にひたすら反抗する毎日
父に向っても「あなたの奥さんは---」と告げ口して同意を得ようと躍起になり
逆に母親の仕事がいかに家族のことを思っているか諭される始末
挙句に私が小さい時は母親にべったりで母親の後を付け回していた、母親がいないとひーひー泣いていたと旧癖をいいたてて豪快に笑われる
二人の姉が結婚して家を出、兄が東京の大学に行き、家の子は私一人、そのため母の注目度が高まり同じように私も母とすごす時間が多くなって、干渉し合う
いま巷では母と娘が親友のように仲良く、何でも話し合うむつまじい姿を見るにつけ、「私の母はさみしかったかな」と反省する
そして時々「しのぎやすいですねえ」とか「心地いい風が吹くようになりましたねえ」などの言葉がふいとよぎり、反抗しながらも、日常のさりげない言葉がちゃんと耳に残っていることに驚く
母親というのは子供にとって、存在そのものが子育てだったのだと思い知る
昨年髪の毛を染めないと決心して、だんだん髪の毛が白くなったとき、デパートのウインドに映った自分の顔に母を見て、あわててまた髪を元の色に戻してしまった。まだ母からの卒業はできていない。だってこうして母のこを書くというのも、私の母に対する贖罪が終わってないのだろう
それにしても、しのぎやすい朝を迎えた
「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉もよみがえる、お彼岸に作る母のおはぎも懐かしい
もうすぐ本格的な秋を迎える