「イイ塩沢ねえ この技術はほれぼれ」
「わかる人に見ていただきたかった」
「イヤー素敵」
としげしげと手に取って肩にかけて体に沿わしてみているチャ子ちゃん先生
相手は出雲小田温泉の大女将石飛裕子さん。女将の着ているものは大島紬竜郷柄
「似合う、この竜郷柄特別にいいものだわね」
「やはり見てくれる人がいると嬉しい」
泥染めの色が深い、絣の塩梅がいい、糸がいい、だから着る人の肌に沿っていてしなやか
「賢く見えるわよ」
「へへ」
そう、いい大島紬は着ている人の知性を引きだし、さらに女のしなやかさを表現している
こういういい大島紬が少なくなって、大島紬を着る機会が減ってきた
これ見てねと結城紬や染の名古屋帯が出てくる
「これいいでしょう?」
なななんと熊谷好博子さんの染帯ではないか!ここからチャ子ちゃん先生の熱が入っていく
染織作家との交わりの話、その手法、聞き手が熱心なのでこちらも熱が入る。しかも合いの手がうまい。さすがに旅籠の女将だと感心しきり、話の引き出し方が上手。それで夜も更けていく
とてもとても残念な着物もあった、本塩沢にガード加工がしてあった
「もったいないなんで?」
「仕事柄水気の物を扱うからガードをしておきましょうって、安心だから、いけなかった?」
「いけない!」
ま確かに仕事柄ガードをしていた方が安心だということはわかる、塩沢お召は強撚糸で織られているので水気を感じると一気に縮む、そのために雨の日や湿気の多い日は着ないそういいうこころ使い遣いが、さらに着物に愛着を持つことになる。縮むのでガードをかけるそれもわかる。
さてこのガードだがもともとは海軍の軍服に施したのが始まり、海の上、雨の中軍服は水をはじくのがありがたい。そういう誕生秘話をチャ子ちゃん先生はしつこい取材をで聞き出した。やみくもに反対するのではなく、何もかもしっかり見て判断したかったので、工場にも再三通った。そのうえでお召類や結城、上布、ちりめんにはぜったい施してはいけないと思った
しかしあまりにも素早くガード加工は着物業界に浸透し、どうして良くないかを語るチャンスもなかった。ガード加工の陰で手仕事の悉皆屋さんがどれだけ廃業したか。それを止められなかった自分自身の勇気のなさに今はほぞをかんでいる
当然チャ子ちゃん先生の着物にガード加工のかかった着物は一枚もない
先日も本場結城紬にかかったガード加工を取りたいという方がいて結城にもお願いしたが取れなかった
「転ばぬ先の杖」「用心に越したことはない」という心根は大事だが、それが本筋になってしまったら、本等の姿を見失う、今まさにそういう世の中になっている。ものの本質を生かす生活が最も尊い。それはその本質を生かしてあげることだと思う。そうすると自分も生きる。