日本流行歌変遷史―歌謡曲の誕生からJ・ポップの時代へ… 価格:¥ 3,360(税込) 発売日:2008-04 |
黒船が変えた歌と社会 評・新井 恵美子(ノンフィクション作家)
歌が時代を作のだろうか。時代が歌を生むのだろうか。はやり歌とよ ばれるものはいつの時代にもあった。人は太古の昔から歌を歌って生 きて来た。それがレコ-ドやラジオというメディアを得た時、圧倒的な 力で広まって行った。流行歌史のオ-ソリティである菊池氏はこの昭 和初期の革新を一つ目の<黒船>と位置付ける。街角に立つ演歌師 によって社会や政治に対する恨み節が語られた時代が終わりを告げ、 レコ-ド会社の企画による新しい流行歌に、人々は熱狂する時がやっ て来たのだ。菊池氏はこの最初の<黒船>を太平洋を越えてアメリカ から蓄音機やラジオという文明機器と共に渡来したと表現する。働くこ としか知らなかった大衆にとって流行歌というものがどんなに大きな喜 びであったことか。熱狂する民衆に支えられて美しい歌謡曲の時代が 到来する。ここに登場するのが藤山一郎である。東京音楽学校(現東 京芸術大)の優等生でありながら大衆音楽に身を投じた藤山の存在は、 流行歌そのものの格調を高めたと言う。藤山は身につけたクラッシック の音楽技術を、戦前戦後を通じて惜し気もなく表現し続けた。 二つ目の<黒船>はイギリスからやって来た。ビ-トルズ旋風は日本 ばかりではなく世界中の若者を変革させてしまった。ビ-トルズ来日は 昭和41年6月のこと。この新しい音楽に触れた者はまるで伝染病にか かったように8ビ-トのリズムに浮かされた。グル-プサウンズ、フォ- クソングの全盛時代の到来であった。さらには現代のJポップ。それでは 日本の歌謡曲は絶滅したのだろうか。そんな事はない。高度成長の波に 乗れない人々の悲しみを慰めたのも流行歌だった。本書は、流行歌の 流れと社会史を見事に関連づけて説き明かしてくれた。時代を読み解く 大人の教科書として貴重なものであると思われる。
きくち・きよまろ 1960年生まれ。音楽評論家、歴史家。著書に「藤山 一郎 歌唱の精神」「流行歌手たちの戦争」など。
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