野放図な経済発展戒め人間と自然の関係考察=内山 節評伝
環境問題は、政治や経済のあり方と密接な関係をもっている。たとえば日本の戦後史をみても、戦後復興から高度成長にいたる過程では、自然環境を守ろうという声はほとんど上がることはなかった。確かにその時代でも公害問題は議論されていたが、それは健康被害に対する批判であって、自然と人間かどのような関係をもっべきかといった視点は、その後に生まれてきたものである。それまでは経済発展は無条件で善であった。日本で環境問題への関心が高まっていくのは、高度成長が一区切りをつけ、一億総中流といわれた時代が出現したことと無関係ではない。生きることに必死だった時代には、環境について振り返る余裕が人々のなかになかった。もちろん野放図な経済発展は環境を悪化させる。とすると経済発展に頼らない安定した平等観の高い社会をつくらないと、環境問題を深く考察できる社会は生まれないということになる。
「格差はつくられた」は、本年度のノ-ベル経済学賞を受賞したポ-ル・クル-グマンによって書かれた、今日のアメリカを分析した本である。アメリカで進行している現在の格差社会化は、グロ-バリゼ-ションの進展や技術革新によって生まれたものではなく、政治的につくられたものであり、その推進母体となつたアメリカの保守主義とは何かが本書のテ-マになっている。
格差はつくられた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略 価格:¥ 1,995(税込) 発売日:2008-06 |
政治、経済の分野では、最近になって、アメリカの政治や経済を批判的に考察した本が相次いで出版されている。ところが環境の分野では、同じような問題意識をもつた本が今のところ見受けられないのはなぜなのだろうか。ブッシュ時代のイラクなどでの戦争政策や、市場原理主義の世界のひろがりなどが、世界化による格差社会のひろがりなどが、環境問題と無関係なはずはないのに、残念ながら環境分野の思想家たちは、まだそれだけの力をもっていないのであろうか。そのなかで、2006年にノ-ベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスの「貧困のない世界を創る」は、第3世界の側から、人々が安定して暮らすことのできる経済をつくることと、持続可能な環境を守ることとを統一的に考察しようとした数少ない本である。
貧困のない世界を創る 価格:¥ 2,100(税込) 発売日:2008-10-24 |
ところで「もの思う鳥たち」は面白い本だ。社会心理学の博士号をもつ著者が、鳥の自分の意志の表現の仕方を長期にわたって観察し、鳥が人間と同じような思考や感情をもち、しかもそれを伝えあっていることを明らかにした本である。
もの思う鳥たち―鳥類の知られざる人間性 (いのちと環境ライブラリー) 価格:¥ 2,000(税込) 発売日:2008-06 |
そのことを通して、人間だけに特別な知性があると考える傲慢を否定する。その問題意識は、紀伊半島の生態調査に生涯をかけた昆虫学者・後藤伸の講演録「明日なき森」でも語られているが、今日の私たちに必要なことは、このような視点をもちながら、荒廃した政治や経済の現実を分析することなのかもしれない。(哲学者・立教大学大学院教授)
明日なき森―カメムシ先生が熊野で語る 価格:¥ 2,940(税込) 発売日:2008-09 |
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