人間のあり方問い直し自然との共生の道模索=内山 節 評
書店の環境関係のコ-ナ-に行くと、「グリ-ン・ニュ-ディ-ル」関連の本が増えてきている。だかアメリカのオバマ大統領によって提唱されたこの政策を、環境政策としてとらえるのは無理がある。なぜならそれは、技術革新や自然エネルギ-の活用によって、新しい雇用や経済成長の道をつくろうとするものであって、経済、雇用政策として打ち出された政策だからである。20世紀後半に登場してくる環境に関する意識は、このまま経済成長を続けていったら、私たちの世界は破局を迎えるという気持ちとともに生まれた。そのことを通して、人間のあり方を問うたのである。それは経済成長をめざすのではなく、自然とともに生きる道を捜しだそうとする模索であった。ア-ビッヒの「自然との和解への道」は、自然に包まれ、自然と結び合いながら人間が生きているということを、人間自身がどうやってつかみ直したらよいのかを考察した本である。自然が展開する世界の中に人間も存在しているのであり、人間に特権的地位を与える人間中心主義を克服しない限り、すべてのものは壊れていくとア-ビッヒは述べた。
自然との和解への道〈上〉 (エコロジーの思想) 価格:¥ 2,940(税込) 発売日:2005-06 |
自然との和解への道〈下〉 (エコロジーの思想) 価格:¥ 2,940(税込) 発売日:2006-01 |
1973年にノルウェ-のネスが提唱した「ディ-プ・エコロジ-」は、人間がつくりだしてきた思想や文明を、より深いところで問いただそうとする試みであった。今日の人間の生き方を変えずに、科学技術の力や環境政策によって問題を解決しようという発想は「浅いエコロジ-」運動であり、人間のあり方を根本から問い直すものを、ネスは「深い(ディ-プ)エコロジ-」と呼んだ。ここでも課題となっていることの一つは、人間は自然とともに生きているということを、どうやってつかみ直したらよいのかということである。自然とともにあるということを日々感じながら生きるためには、知性で理解するだけでなく、精神や感性、身体といったすべてのものが自然の営みを感じとれる。そんな人間に戻っていかなければならないだろう。ディ-プ・エコロジ-の思想を学ぶには、ドレングソンと井上有一によって編集された「ディ-プ・エコロジ-」がよくまとめられている。
「自然のおしえ 自然の癒し」のなかでスワンは、土地との霊的な結びつきを回復しなければ、人間は自然に帰ることができないと述べる。この本には日本の伝統的な自然信仰の意義なども取り上げられているが、科学万能主義ではうまくいかないことに、環境思想の担い手たちは気付き始めているのである。
自然のおしえ自然の癒し―スピリチュアル・エコロジーの知恵 価格:¥ 2,957(税込) 発売日:1995-05 |
小林通夫の「科学の世界と心の哲学」は、心とは何かは科学では解明できないものだということを説いた本だが、そこに通じるものが今日の環境思想にはある。
科学の世界と心の哲学―心は科学で解明できるか (中公新書) 価格:¥ 777(税込) 発売日:2009-02 |
グリ-ン・ニュ-デイ-ルといった新しい経済成長政策が議論されている今日だからこそ、私たちは環境と人間のあり方について、根本的なものを問い直してみるのもよいのかもしれない。(哲学者)
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