椿三十郎<普及版> 価格:¥ 3,990(税込) 発売日:2007-11-09 |
「本当にいい刀は、鞘(さや)に入っているものですよ」 入江たか子演じる老奥方が、三十郎に言う。「あなたはぎらぎらして 抜き身の刀のよう。本当にいい刀は、鞘に入っているものですよ」能 あるタカはつめを隠すのたとえもあるが、確かに本当の人格者は自 分からエラぶったりしない。質よく鍛えられた鋭さを持ち、内側からに じみ出る輝きをたたえながら、品の良い鞘の中に静かに納まってい る。若いころ見たときは、自分も「鞘に入った刀」になりたいと思った。 なのに最近見直したら、まるで違うことを感じてしまった。「鞘に納まっ てる刀って、気持ち悪いよな」と思ったのである。表面は何事もなく平 穏で、しかし内部には刃が潜んでいる。その不気味さに思い至り、何 やら現代社会の様相が重なった。世は「鞘に入った刀たち」ばかり。 いい刀ぞろいという意味ではない。そのフリをしたほうが得策だと教わ っているから、おとなしく装い育ってきた刀たちである。本当はハジけ たい。「オレってスゴイ」と言ってみたい。でも・・・! と抑圧された刀 たちにとって、たまに見る「抜き身」はうらやましくて、ねたましくて仕 方ない。たとえば、ボクシングの<亀の一家>や女優の<ナントカ 様>だ。彼らの非常識を面白がる余裕は、今のストレスフルな社会に はない。最終的に彼らを追い込んだのは、世間の常識の勝利ではなく、 「おまえだけ好き勝テしてんじゃねえよ」というみたみ力の集積だった のかもしれない、と思っている。かく言う私とて、小心者ゆえ、ぎらぎら 生きている人を見るとねたましくて仕方ない。この性格の時点で、すで に「いい刀」の道はなし。あとはこのまま恨みつらみを身に秘めて、 年経りた妖刀と化すと決めた。(重田サキネ=ライタ-) 「椿三十郎」(黒澤明監督、1962年、日)城中にはびこる悪をただそ うと集まった9人の若侍に、流れ者の浪人・椿三十郎が助太刀を買っ て出た。適の裏をかく作戦の数々とダイナミックな立ち回り、個性的で ユ-モラスな登場人物たち、すべてが見もの。
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