くに楽

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徒然(つれづれ)中国(ちゅうごく) 其之四拾参

2011-10-04 16:29:44 | はらだおさむ氏コーナー

                 
瀧が涸れて来ている!








中山寺・山門






  九月下旬 在上海日系企業のお招きで三泊四日の社員旅行に参加した。
 早朝 上海郊外の工場を出発した二台の大型観光バスは、高速道路の入口付近で数名の社員をピックアップして、市内を通過せずに一路浙江省の南部に向かう。昨秋上海万博のあと紹興~杭州~烏鎮のたびに出かけたが、そのとき渡った杭州湾の海上大橋を越え、四通八達の高速路で寧波の郊外に出る。寧波には数度訪問しているが、そのほとんどが海岸近くの企業や市内の主な観光地で、この道筋ははじめて。しばらくすると台州への道路標識が目に付く。20年ほど前、中国のミシン王、飛躍集団の邱継宝菫事長との面談に上海から温州へと飛び、台州に着いたのは三日目であったなぁ~と感慨にふけっていると、バスは台州を通り過ぎてさらに先へと進んでいく。
 昼過ぎ、所要数時間のバスのたびを終え、雁蕩山のふもとに着いた。
 ここは温州市から七十キロ、その管轄下の楽清市にあり、省都杭州市とは三百キロほど離れている。

 昼食・小憩のあと、霊峰風景区に登る。
 解説によると、この山は約一億年前の火山活動によって誕生した山塊が、長い年月をかけて侵食され、奇妙な岩峰となって残ったもの。世界地質公園に認定され、中国の五A(ファイブA)級観光地である。最高峰千メートル余、南・中・北の三区域からなり、百平方キロにわたって奇峰怪石、瀧、洞窟などがある由。雁蕩山の名前は、頂上に湖があって雁が遊ぶ様子からつけられたという。
 
 山のない上海の人々にとって、雁蕩山は手ごろな山登りの対象になるのだろうか、十数年前から今回で四度目という同行の老幹部に感想を聞くと、一番の変化は旅行者が増えて旅館の数が倍以上となり、それに反比例するかのように瀧の水が少なくなってきている、むかしに比べると見所が少なくなったねぇ~とのことであった。なぜ、瀧が涸れて来ているのか、それは彼にも判断できないことであるが、山の上の湖の水量が減ってきているのが主な要因であり、これはわたしの憶測になるが、増えた観光客に対応する生活用水の増加にも関係しているのではなかろうか、とも思われる。

 ガイドの案内で「夜に観光しなければ、雁蕩山に来た甲斐がない」といわれる夜の岩峰の変化を見に再度登ったが、その登山道の足元に日本風に云えば雪洞(ぼんぼり)のともし火を点けるとか、岩峰などに演出されたライトアップの工夫があれば、もっと楽しい時間を過ごすことが出来たであろう。

 二日目は三折瀑景区などの観光。
 前日よりさらに瀧の数は増えるが、その水量はいぜん少ない。
 ガイドがこの瀧は岩壁を伝わらず、空中を舞いながら水が落ちていきますと言っていたが、それは水量が少なくてまるでミストカーテンのように舞い散ることを指しているものと思っていた。
 帰宅後ネットでこの瀧の写真を探した。
 四年前の写真があった。
 水量は比べるべくもなく豊富で、それは二条になって流れ落ちているが、岩壁が窪んでいて確かに伝い流れない構造になっている。それでもつぎのようなコメントがついている。
 「瀧とはいえ、ゴウゴウと流れ落ちるのではなく、その水は繊細なシャワーのように降り注ぎ、風によってゆらゆらと方向を変えてゆく」
 そうか、四年前はまだシャワーのようにゆらゆらと降り注いでいたのか、そして、いまはミストカーテン、空中に霧のようにたなびき岩壁を遮っているに過ぎない。
 台風や大雨で、龍神の、のたうちめくかのような日本の滝の水を運んで来たい思いに駆られたものである(龍にサンズイをつけると瀧になる)。

 夜 テレビをつけると女子バレー・アジアカップの決勝戦、日本対中国が熱闘を繰り広げていた。日本は2ゲームをすでに落として、いまは3ゲームが始まったばかり。背番号1の、やや太り目のアタッカーが日本のコートに爆弾を打ち込む。辛うじてレシーブしたボールもコートの外にはじき出される。
 久しぶりのテレビ観戦だが、わたしが知っている中国選手の名前は30年ほど前の郎平(ランピン)のみ。そう、あのときも日中の大熱戦、病室の消灯時間も過ぎて、注意しに来た看護婦さんも思わず応援に加わったあの興奮。
 しかし、いまは日本が大苦戦、この背番号1の鋭いサーブを辛うじて受け止め、日本のアタッカーが彼女の足元に厳しい球を打ち込むと、からだがのめり込んでレシーブできない。ここぞとばかり彼女を攻め立てるが、日本のミスも続いてゲームは二転三転。背番号1がレフトウイングに戻り、左右両翼のアタッカーが爆弾を打ち込むと、日本はひとたまりもない。かくして日本は1対3で完敗した。
 中国バレーボール協会の公式ホームページを見ると、背番号1は主攻手(エースアタッカー)王一梅(ワン・イーメイ)で、今大会のMVPを受賞している。さらにウイキペデイアを開くと、歴代選手名簿では郎平のつぎに紹介されている。そうだ、この顔、身長191cm、体重80kg、破壊力抜群の強烈なスパイクとジャンプサーブの「戦慄の重戦車」、21歳とあった。15歳から中国代表に
選ばれている。
 中国チームは日本に勝利したが、チームワークなどにも弱点が見られた一戦であった。

 第三日 雁蕩山を下って、蒋介石のふるさと・寧波の奉化市渓口鎮に向かう。
沿線で温州発の、例の新快速列車が追い抜いて行く。なんとなくガイドと顔を見合わせ、うなずく。
 午後は寧波の新十景-五龍譚風景区に行く。
 さすがにここは全員が初参加、瀧の水量も雁蕩山よりは豊富であるが、変化が乏しくて物足りない思いがした。これで観光客が増えるとどうなるだろうか。
 第三夜の宿泊は、寧波郊外の外資系五星(ファイブスター)ホテル。このクラスのホテルに初宿泊の人も多く、なんとなく空気が華やぐ。ホテルの向かいのアウトレットモールはウイークエンドのショッピングを楽しむ若い人たちであふれていた。

 中国の新風物を会得した三泊四日の旅であった。
 豊かさが確実に人々のものとなり、マナーも自然と身についてきていた。
 この国がこのまま成長の果実を隅々にまで行き渡らしてほしいものと痛感しているが、帰国の日に上海の地下鉄で事故があった。成長をあせらずに、ソフトランディングしてほしいものである。


水涸れて 峨峨と貌出す 渓の岩    横田須賀子
(ザ・ネット俳句歳時記/野田ゆたか編)

(2011年10月3日 記)