一年前から、返さないでいる、大切に飾っているものがある。
〈フォークギター〉
娘から、借りたまま、わざと返さないでいる。
「弾いとるん?」
とリアルに聞かれて、
「うん!たまにはね!」
なんて、答えてはいるけれど、正直、眺める時間が多い。
でも、返したくはない。手を伸ばせば、弾ける…それだけで、安心する。
人には、何かしら、依存するものがある。
それが、家族だったり、恋愛だったり、ギャンブルだったり。はたまた、EXILEだったり?。
祖谷で母と、暮らし続ける事が、義務のようで、若い頃は、正直辛かった。
年に数回、垢抜けて帰省する友人達が、キラキラして眩しくて、心は二歩も、三歩も後ずさりしていた。
地元の四年制の、分校を卒業し、仲間達は分散し、半分が都会に行った。
残った友人の一人が、かけがえのない、彼だった。
男と女の友情は、成立しないと、度々問われる話題だけど、
友情なんかでもなく、さりとて、愛してる!なんて感情でもなく…血の繋がらない兄弟みたいな、
とにかく、かけがえのない、友人だった。
私が、初めてノートに書いた、根ぐらい『大失恋』の歌詞に、
ある日、彼が曲を付けてやってきた。
「ちょっと、聞いてみ!この曲、イケルわ!」
ドスンと座って、肩を上下してから、立て膝を立て、ギターをスクッと持ち、あぐらをかいて、チューニング。一人で、何かしら発声練習をして、
『ヨシッ』と一言言って、一度左に首を振る。
一人で、歌い始める。
私は、膝を立て、座りそんな彼のしぐさが、可笑しくて、笑った。
初めて作った曲を、カセットテープに録音し、私に内緒で、
『ヤ〇ハのポ〇コン』
の徳島大会予選に出した。
なぜか、予選突破をし、
なぜか、その年のグランプリ!
そのままいけば、
アラジ〇と、決勝を戦うステージに立つ筈だった。
多事多難、悲喜こもごも。
乗り越えるには、心が幼かった。
感情だけが、暴走し、即席で組んだ、グループは解散。出場辞退。
一年余りして、気が付けば、やっぱり彼と、曲を作っていた。
私も彼も、それぞれに結婚し、子育てと仕事に追われる日々。
数年して、気が付けば、長電話を掛け合う日々。
一時間余り、途中でどちらかが、受話器を落とした。でも、話は続いた。
お互いに、止められない、
『音楽馬鹿症候群』
次の目標を立てた。
『CD自主制作』
数曲が、完成していた。
残り、一曲を、完全化する事。
彼の口癖は、
「〇〇〇が、男だったら、楽なのに!」
私が、男だったら、世間の偏見を、気にしなくて済んだ。何処にでも、行けた。
CDのジャケットも、タイトルも決めていた。満開のそばの花の中に、フォークギターを置いたジャケット。タイトルは、〈ローカル風景画〉漠然としながらも、形は見えていた。
母の介護に、夫の通院、子育て、仕事、時間に追われる日々の中で、唯一見えた、生きる『糧』
「今の仕事、片付いたら、曲完成さすわ!もうちょっと、待ってくれえよ!」
そう言いながら、彼は手を軽く上げ、走り去った。
私は、いつものように、笑って彼の車を、見送った。
軽く上げた、手は
サヨナラのあいさつのように、
それが私の見た、彼の最期の姿だった。
彼が逝って、十年目の秋が来る。
「これは、マイナー調でいこう!」
「ゆずの夏色、聞いた?」
「ハモる練習してみ!」
「ムリッ!私、声悪いもん!」
満開のそばの、小さな花の波を、
風が渡っていく。
彼の歌った、東祖谷賛歌が、彼と共に、遥か空を渡って行くー。
〈フォークギター〉
娘から、借りたまま、わざと返さないでいる。
「弾いとるん?」
とリアルに聞かれて、
「うん!たまにはね!」
なんて、答えてはいるけれど、正直、眺める時間が多い。
でも、返したくはない。手を伸ばせば、弾ける…それだけで、安心する。
人には、何かしら、依存するものがある。
それが、家族だったり、恋愛だったり、ギャンブルだったり。はたまた、EXILEだったり?。
祖谷で母と、暮らし続ける事が、義務のようで、若い頃は、正直辛かった。
年に数回、垢抜けて帰省する友人達が、キラキラして眩しくて、心は二歩も、三歩も後ずさりしていた。
地元の四年制の、分校を卒業し、仲間達は分散し、半分が都会に行った。
残った友人の一人が、かけがえのない、彼だった。
男と女の友情は、成立しないと、度々問われる話題だけど、
友情なんかでもなく、さりとて、愛してる!なんて感情でもなく…血の繋がらない兄弟みたいな、
とにかく、かけがえのない、友人だった。
私が、初めてノートに書いた、根ぐらい『大失恋』の歌詞に、
ある日、彼が曲を付けてやってきた。
「ちょっと、聞いてみ!この曲、イケルわ!」
ドスンと座って、肩を上下してから、立て膝を立て、ギターをスクッと持ち、あぐらをかいて、チューニング。一人で、何かしら発声練習をして、
『ヨシッ』と一言言って、一度左に首を振る。
一人で、歌い始める。
私は、膝を立て、座りそんな彼のしぐさが、可笑しくて、笑った。
初めて作った曲を、カセットテープに録音し、私に内緒で、
『ヤ〇ハのポ〇コン』
の徳島大会予選に出した。
なぜか、予選突破をし、
なぜか、その年のグランプリ!
そのままいけば、
アラジ〇と、決勝を戦うステージに立つ筈だった。
多事多難、悲喜こもごも。
乗り越えるには、心が幼かった。
感情だけが、暴走し、即席で組んだ、グループは解散。出場辞退。
一年余りして、気が付けば、やっぱり彼と、曲を作っていた。
私も彼も、それぞれに結婚し、子育てと仕事に追われる日々。
数年して、気が付けば、長電話を掛け合う日々。
一時間余り、途中でどちらかが、受話器を落とした。でも、話は続いた。
お互いに、止められない、
『音楽馬鹿症候群』
次の目標を立てた。
『CD自主制作』
数曲が、完成していた。
残り、一曲を、完全化する事。
彼の口癖は、
「〇〇〇が、男だったら、楽なのに!」
私が、男だったら、世間の偏見を、気にしなくて済んだ。何処にでも、行けた。
CDのジャケットも、タイトルも決めていた。満開のそばの花の中に、フォークギターを置いたジャケット。タイトルは、〈ローカル風景画〉漠然としながらも、形は見えていた。
母の介護に、夫の通院、子育て、仕事、時間に追われる日々の中で、唯一見えた、生きる『糧』
「今の仕事、片付いたら、曲完成さすわ!もうちょっと、待ってくれえよ!」
そう言いながら、彼は手を軽く上げ、走り去った。
私は、いつものように、笑って彼の車を、見送った。
軽く上げた、手は
サヨナラのあいさつのように、
それが私の見た、彼の最期の姿だった。
彼が逝って、十年目の秋が来る。
「これは、マイナー調でいこう!」
「ゆずの夏色、聞いた?」
「ハモる練習してみ!」
「ムリッ!私、声悪いもん!」
満開のそばの、小さな花の波を、
風が渡っていく。
彼の歌った、東祖谷賛歌が、彼と共に、遥か空を渡って行くー。