万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

安部政権のもう一つのアキレス腱-保守による新自由主義の推進

2022年09月20日 12時27分54秒 | 日本政治
 安部元首相の国葬に対する反対世論の主要な要因は、日本国の独立性を損ねかねない世界平和統一家庭連合との関係にあることは、多くの人々が認めるところではないかと思います。その一方で、経済分野におきましては、民主党政権下における日本経済の危機を、日銀による異次元緩和を主力の矢とするアベノミクスが救ったとする評価があり、同元首相の功績の一つに数えられています。しかしながら、8年8ヶ月に及ぶ長期安倍政権の全体を見ますと、アベノミクスが国民に幸せをもたらしたとは言い切れない負の側面もないわけではありません。そしてその負の側面こそ、新自由主義の強力な推進であったように思えるのです。

安倍政権にあって経済政策の指南役を務めていたのは、新自由主義者で知られる竹中平蔵氏です。国葬に対する風当たりが強まるのを見かねてか、同氏は、世界平和統一家庭連合をめぐる世論の批判に対して、‘統一教会=悪=自民党’という単純な構図は、法治国家ではあり得ないと述べ、国葬擁護論を試みています。氏の説を纏めますと、「日本にはフランスのようなセクト法が存在しないのだから、宗教の自由は完全に認められている。故に、統一教会を悪いと決めつけることはできない。法律に基づかないバッシングは、法治国家にあるまじき行為である。」ということになりましょう。‘法律がなければ何をしてもよい’というのですから、いかにも新自由主義者らしい発言です。それでは、竹中氏の擁護論には、国葬反対へと傾く世論を抑えるほどの説得力があるのでしょうか。

竹中氏は、自由を強調し、「宗教の自由があって、宗教をやりながら政治活動をするのは自由ですよ。」と述べ、日本では創価学会・公明党の事例を挙げて問題視しない姿勢を示しています。しかしながら、同氏は、政教分離を定めた憲法第20条を忘れてしまっている、あるいは、故意に無視しているようです。如何なる宗教団体も、政治権力を行使してはならないと憲法は明白に定めているのです。ですから、先ずもって、‘セクト法が存在しないからと言って、宗教団体には政治活動をする自由もある’と主張することはできないはずなのです。むしろ、憲法に違反する行為が白昼堂々と行なわれているのですから、公明党の存在が既成事実化している現実の方が、余程、‘法治国家にあるまじき行為’なのです。

第2に、竹中氏は、「宗教の自由、信仰の自由と政治の自由っていうのはちゃんと守らなきゃいけない」とも語っているのですが、政党とは、政治的信条や価値観、あるいは、政策方針を共にする政治家並びに国民の組織ですので、国民に対しては、自らの立場を明確に示す必要があります。ドイツのキリスト教民主同盟は、ヨーロッパの伝統宗教であるキリスト教の価値観に基づいて設立されており、それは誰もが知るところです。一方、自民党と世界平和統一家庭連合との関係は、それがたとえ政策に影響を与えていたとしても、国民に隠されてきました。公明党にしても、その利権体質や支配欲、名誉欲、金銭欲を是とする行動様式は、無欲や慈悲の心を説く仏教とは真逆と言っても過言ではありません(公明党が仏心を説いている姿を一度も目にしたことはない・・・)。しかも、世界平和統一家庭連合であれ、創価学会であれ、その政治思想は、独裁体制を容認する全体主義を特徴としていますので、いわば、自民党が、ナチスや共産党と密かに手を組んでいるようなものなのです(ドイツでは、キリスト教民主同盟は認められていても、ナチスは法律で禁じられている・・・)。既存の法律には触れないとしても、自民党並びに公明党共に、国民に対する秘匿性、隠蔽、あるいは、保守や仏教の偽装性において、国民を欺いた罪は問われて当然です。

以上に述べてきましたように、宗教並びに政治的自由を以てしても、今般の政党と新興宗教団体との癒着を擁護できないように思えます。竹中氏は、自らを重用してきた自民党に対する恩義から擁護論を張っているのでしょうが、むしろ、同氏の指南の元で実施されてきた数々の破壊的な自由化政策にも国民の関心が向き、世論は国葬反対に一層傾くかもしれません。自公保守政権の下で公約外の移民政策が推進され、非正規社員が劇的に増加し、中国企業が日本市場を荒らし、北海道をはじめ日本の土地が外国人に買い取られ、そして、今日、国民はスタグフレーションに見舞われているのですから(これらの他にも国民が被った不利益は計り知れない・・・)。安倍政権の真の姿が、世界権力が推し進めたグローバリズムと呼応した新自由主義政権であったことも、同政権を評価する上でのもう一つアキレス腱であったのではないかと思うのです。

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