万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

国際社会は中国に対して国際法順守要求を

2016年01月31日 15時51分54秒 | 国際政治
米艦、中国支配の島から12カイリ航行=南沙に続き西沙で作戦―南シナ海
 アメリカ海軍は、南シナ海のパラセル諸島でも「航海の自由作戦」を展開し、中国の一方的領有権主張を牽制しました。”トリトン島をめぐる過度な権利主張は、国際法と相いれない”として。

 トリトン島については、ベトナムと台湾も領有権を主張しており、国際法上において中国の領有権は認められておりません。こうした場合、中国は、一方的に12カイリの領海を設定することはできず、仮に、自国の領海と見なした場合、それは、国際法違反の行為となるのです。中国の一方的な領海化が放置されますと、海洋秩序そのものが崩壊の危機に直面しますので、アメリカは、何としても中国の違法行為を抑止する必要があったのです。「航海の自由作戦」については、オバマ大統領の演説にも拘わらず、アメリカは、”世界の警察官”あるいは”世界の海保”としての役割を引き受けており、この点、国際社会の法秩序維持に対する貢献に感謝せざるを得ません。その一方で、中国は、国防省の軍報道官によるアメリカに対する非難談話において、アメリカの「航海の自由作戦」を”違法行為”と断言し、中国の”国内法”を順守せよと要求しています。

 しかしながら、この米国に対する批判発言こそが、中国が自国が無法国家であることを自ら認めた発言に他なりません。何故ならば、中国は、国連の加盟国として国際法を順守する義務を負うと共に、国連海洋法条約の締約国でもあります。国際法が適用されている領域において、国際法より国内法を優位に置くことは、国際法を無視すると宣言したに等しいのです。仮に、如何なる国も、国内法によって国際法違反の行為を合法化できるならば、如何なる国も、国内法によって、他国や公海等に対して侵略することも、自由自在である、ということになり、このことは、国際法秩序の崩壊を意味することになるでしょう。

 中国は、対米批判の中で、”国際法秩序を破壊し、新たな華夷秩序を打ち立てたい”とする”本音”を漏らしております。これまでの行動からも分かるように、中国に国際法を順守する意思がないことは明らかなのですから、国際社会は、中国に対して国際法順守要求圧力を強めるべきではないかと思うのです。

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日韓慰安婦合意の国際的波紋-”条約・協定外救済”の問題

2016年01月30日 15時04分08秒 | 国際政治
 年末の日韓慰安婦合意を受けて、海外メディアの多くは、日本国政府が、戦時下の慰安所を組織的な”性奴隷制度”と認め、韓国に対して謝罪と補償を約束したする論調の報道を行いました。普遍的な人道問題を起した日本国に非があり、今般の措置は遅すぎるとする批判的なニュアンスを含んでいます。

 しかしながら、日韓慰安婦合意は、日韓の二国間のみならず、国際社会全体に波紋を広げる可能性があります。国際的な波紋とは、普遍的な人道問題であるならば、”講和、あるいは、請求権問題の解決のために締結された条約の枠外における被害者に対する補償はあり得るのか”という問題です。実際に、日本国政府は、1995年のアジア女性基金に続いて、今般の合意でも、支援財団に対して10億円の基金の拠出を約していますので、日本国は、国際社会において”条約外救済”の前例を作っています。慰安婦問題は、”併合期の朝鮮半島で発生した事業者による人身売買の犯罪被害問題”、並びに、”占領地における将兵による軍規違反の犯罪”なのですが、世界大に散見されるこの種の犯罪であっても、今日の政府に被害者を救済すべき道義的責任が存在するとしますと、その救済対象の範囲は飛躍的に拡大します。韓国もまた、朝鮮戦争では、政府直営の慰安所が設置されていましたし、ベトナム戦争においては、村民虐殺やライダイハン問題を起こしておりますので、救済問題は他人事ではないはずです。

 同時に、人道問題としての普遍化は、戦勝国と敗戦国との立場や人種、民族、宗教といった属性の違いをも消し去ります。第二次世界大戦時の国際軍事法廷では、戦勝国による戦争犯罪は不問に付されましたが、非人道的行為の被害者の救済が、戦争の勝敗に拘わらず、しかも、講和条約や請求権協定外で可能であるとしますと、欧米諸国をはじめ、多くの国々が自らが、人道問題の加害当事国となる問題として認めざるを得なくなります。さらに”奴隷制”そのものが問題ともなれば、国によっては国内問題に飛び火する可能性さえあるのですから、事は重大です。海外メディアの報道ぶりでは、歓迎ムードが漂っておりましたが、何故、”条約・協定外救済”の前例が、パンドラの箱を開けることになると考えないのか、不思議でならないのです。

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暴れ始めた北朝鮮は習政権弱体化の兆候?

2016年01月29日 15時43分45秒 | 国際政治
北朝鮮ミサイル警戒で連携=日米外相が電話会談
 衛星写真の解析によると、北朝鮮の東倉里のミサイル基地では、長距離弾道ミサイルの発射を準備している兆候があるそうです。年明けの”水爆実験”に続く暴挙と言えますが、北朝鮮の暴走は、一体、何を意味しているのでしょうか。

 ”水爆実験”に際して注目されたのは、中国の影響力の限界です。にも拘らず、中国は、現状では北朝鮮に対する制裁強化に対しては消極的であり、あくまでも北朝鮮の”後ろ盾”としての構えを崩していません。しかしながら、仮に、北朝鮮が、懸念されている通り、”ミサイル実験”に及ぶとしますと、自制を求めてきた中国は、再度、面子を潰されることは必至です(もっとも、中国が背後でけしかけている可能性もありますが…)。となりますと、北朝鮮は、中国からの反発を恐れておらず、無視を決め込んでいるようにも見えます。この中国に対する態度豹変の背景を推理してみますと、中国の習体制に異変が起きている可能性が疑われます。北朝鮮は、もとより国境を接する瀋陽軍区の人民解放軍と緊密な関係にあり、それ故に、習政権下の軍制改革に際して瀋陽軍区は北京軍区と合併させられた経緯があります。経済が好調であり、習主席への権力集中が順調に進んでいた時期には、北朝鮮も冒険的な行動を控えていたように見えるのです。一方、今日、北朝鮮が、核・ミサイル実験を再開したとしますと、それは、中国国内の権力構造の変化に呼応、もしくは、連動しているのかもしれません。仮に、習主席が人民解放軍を全面的に掌握しきれずにいる、あるいは、軍内部の”反習近平派”が北朝鮮との独自ルートを再開している場合には、習体制に対する揺さぶりとして、軍の一部が北朝鮮と協力している可能性も否定はできないのです。

 北朝鮮の動きの背景には、ロシアといった他の大国や国際勢力の思惑も働いているかもしれませんが、少なくとも、正確に状況を把握するためには、北朝鮮の国内事情のみならず、周辺諸国との影響関係の分析を急ぐ必要があります。長き歴史を通して激しい権力闘争が繰り返されてきた中国大陸では、真の目的と表の行動が常に一致するとは限らないのですから。

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中韓は自らが歩む”現代史”を怖れないのか?-過去と未来のパラドクス

2016年01月28日 15時22分10秒 | アジア
 中国も韓国も、”歴史認識”問題には並々ならぬ執着を見せており、国際社会において”30万人南京大虐殺説”や”20万人慰安婦強制連行説”などの流布に努めてきました。両国とも、何としても自らの”歴史認識”で過去を塗り替えたいのです。

 しかしながら、両国とも、過去の歴史の政治的な改竄行為が、未来においては自国の不名誉な歴史として刻まれることには気が付いていないようです。おそらく、両国ともに、第二次世界大戦時の日本軍の”非道な残虐行為”が”史実”として国際的に認識されれば、目的達成とばかりに溜飲を下げたいのでしょう。しかしながら、両国が、期待通りとなると信じておりましたならば、両国は、人類の知性を甘く見過ぎているのではないでしょうか。人とは、本性からして真実を探求するものですので、中国や韓国による”官製の歴史”は、他国からの客観的に検証に晒され、何れかの時点で史実は明るみとなることでしょう。この時、歴史の教科書に実際に記述されるのは、第二次世界大戦後、特に、米ソ冷戦が終焉した80年代末以降、中国や韓国といった諸国が、日本国に対して”歴史認識戦”を仕掛け、大々的な国際プロパガンダを展開したという歴史です。この”現代史”は、中国や韓国にとって誉められた歴史であるはずもなく、国家としての国際的評価を下げることにもなりましょう。言い換えますと、過去の歴史において日本国の評価を下げようとした結果、未来の歴史においては、逆に、自国に対する評価を下げてしまうのです。

 評価の視点を未来に移しますと、中国や韓国が現在遂行している”歴史認識戦”には、過去と未来との間には反比例関係が成立します。”歴史認識戦”のパラドクスに嵌った中国や韓国は、自国が”現代史”においてどのように評価されるのか、過去の評価よりも、未来におけるその評価を怖れるべきではないでしょうか。

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”警察官”がいない世界とは?-オバマ大統領の”警察嫌い”の行くへ

2016年01月27日 15時04分35秒 | 国際政治
米中外相が会談、北の実験は「世界安保への重大な挑戦」
 アメリカのオバマ大統領は、今年の一般教書演説において、再度、”アメリカは世界の警察官ではない”とする見解度示したそうです。オバマ大統領の”警察官放棄宣言”はこれが初めてではないのですが、国際社会は、第二次世界大戦後の国際秩序を根底から覆される深刻なリスクに直面しています。

 国際連合は、常任理事国五カ国による国際の平和と安全の維持を柱とした、”5人の警察官構想”に基づいて設立されました。もっとも、この構想通りに平和が訪れたわけではなく、実際には、覇権を追求したソ連邦もその後継のロシアも警察官役には不適任であり、中国に至っては、警察どころか、数々の国際法の違反の行為を繰り返しています。このため、事実上、”5人の警察官”は米英仏の3人に減り、取締能力=軍事力からしますと、アメリカがいわば”主任警察官”を務めてきたのです。そのアメリカが、”警察官の職から降りる”というのですから、国連を中心とした国際社会の平和構想は風前の灯となります。戦前にあって機能不全に陥った国際聯盟の常任理事国も、最後は、英仏二カ国を残すのみとなりました。おそらく、この背景には、弁護士出身のオバマ大統領の”警察嫌い”とも言うべき”取締側(権力側)”に対する不信感があるように思われます。アメリカ大統領として、自らがその”取締側”にありながら、警察権の行使を嫌悪しているのです。しかしながら、警察官がいない世界を想像してみますと、誰もが、国際社会の安全の低下、即ち、暴力主義国家の台頭を予測せざるを得ません。”警察官”がいない世界とは、無法者国家が跋扈する世界なのですから。

 そして、今日の国際社会の警察権力が、国際法の執行権であることを想起しますと、国際社会の”法の支配”を壊したい中国にとりましては、執行者がいない好都合の状況が出現します。近代以降、国際社会が、二度の世界大戦をはじめ、甚大なる犠牲を払いながら構築してきた法秩序もまた、崩壊のリスクに晒されるのです。せめて、オバマ大統領には、警察官の役割否定で人々に不安を与えるのではなく、国際社会に対して、警察機能のシェア、あるいは、再構築を訴えていただきたいと思うのです。

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講和交渉のチャンスを潰したのは北朝鮮自身では?

2016年01月26日 17時23分23秒 | 国際政治
米本土の核攻撃可能に=北朝鮮声明
 ロイターの報道等によりますと、年明け、突如として敢行された北朝鮮による”水爆実験”は、北朝鮮がアメリカに対して交渉を求めるサインとする見方があるそうです。米中韓北の四カ国によって、休戦状態にある朝鮮戦争を最終的な講和に至らせ、北朝鮮の金体制の保障を確約させるための…。

 この見解に立脚しますと、これまで朝鮮戦争が終結しなかった理由は、アメリカが北朝鮮の交渉要求を拒否したことにあり、北朝鮮の核開発も、アメリカの交渉開始に対する否定的な態度に起因することになります。イランに対しては、一先ずは交渉に応じて核放棄を実現しながら、北朝鮮に対しては、アメリカは極めて冷淡であるというのです。しかしながら、この問題に関しては、アメリカに責任があるとは思えません。何故ならば、仮に朝鮮戦争を終結させる最大のチャンスがあったとするならば、それは、「1994年の米朝合意」のプロセスの延長線上にあったはずであるからです。仮に、この時、北朝鮮が、当合意を誠実に履行し、核を全面的に放棄していたならば、アメリカは、北朝鮮を”交渉できる相手”と認め、朝鮮戦争の講和交渉にも応じたかもしれません。しかしながら実際には、北朝鮮は、核開発を放棄する意思などさらさらなく、合意文章の裏をかくかのように核開発を継続させ、核兵器の保有を宣言して今日に至っているのです。

 こうした経緯を考慮しますと、北朝鮮が、核実験を以ってアメリカに講和交渉を迫るのは、詭弁としか言いようがありません。合意の不履行という形でアメリカの信頼を裏切り、講和交渉のチャンスを潰したのは、北朝鮮自身であったのではないかと思うのです。

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”殺人AIロボット”の出現と戦時国際法

2016年01月25日 15時40分52秒 | 国際政治
 今年のダボス会議では、科学者達が、殺人AIロボットの開発を阻止すべく訴えたと報じられております。”殺人AIロボット”は、人工知能が搭載された自律型ロボットであり、外部からのコントロールではなく、自らの判断で戦闘を行う能力を備えたハイテク兵器です。

 ”殺人AIロボット”の出現は、戦時国際法と無縁ではありません。”殺人AIロボット”が戦場に投入されますと、兵士と民間人の識別が正確にできず、民間人まで殺害されてしまう恐れがあり、開発反対の最大の根拠となっております。この無慈悲さが”殺人AIロボット”と称される理由でもあり、自律型兵器は、戦時国際法が定める民間人保護を無視してしまう可能性が高いのです。しかも、人間ではありませんので、誰が戦争法違反の責任と罪を負うのか、といった問題も生じます。この側面は、自律型兵器の使用を律する新たな戦時国際法を作成する必要性をも示唆しているかもしれません。その一方で、自律型兵器が開発された背景にも、今日、戦時国際法が直面している現状が見え隠れしています。何故ならば、タリバン等のイスラム過激派との地上戦の苦い経験が、この兵器の開発を加速化させたからです。近代以降の戦時国際法では、人道精神の高まりから、投降兵士の殺害や必要以上に苦痛を与える兵器の使用等は禁止し、敵であれ、可能な限り相手の生命と人としての尊厳を守る方向に目指して歩んできました。しかしながら、従来の戦時国際法は、イスラム過激派との戦では無意味となり、タリバンに捕縛されたアメリカ兵は、”見せしめ”のために、言葉で表現するのも憚られるほど残酷極まりない方法で殺害されました。アメリカが、ISとの地上戦に二の足を踏む背景には、”戦時国際法空白地帯”の出現があり、それが自律型兵器を開発する動機となっているのです。

 中東のみならず、法の支配を否定する中国は、将来、万が一にも戦争が起きた場合、戦時国際法を無視する可能性が高く、”戦時国際法法空白地帯”の問題は切実です。自律型武器の出現は、無差別殺人機化のリスクのみならず、人間存在を根底から否定するような戦場での残虐行為を如何にしてなくすのか、という問題をも問うているのではないでしょうか。

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オスカー賞の改革-実力主義がベターでは?

2016年01月24日 14時55分10秒 | 社会
 今年の「第88回アカデミー賞演技部門」の候補者20人全てが白人であったことから、マイノリティーの映画人等から怒りの声が上がり、アカデミー賞の主催者「映画芸術科学アカデミー」側も対応に追われているようです。改革案では、候補者を選ぶアカデミー会員にマイノリティーや女性を増やす方針なそうですが、この方法でこの問題は上手に解決するのでしょうか。

 オスカー賞の基本的な意義は、毎年、各部門で最も優れた活動を行った人物を選び、その功績を表彰することにあるはずです。演技部門であれは、当然に、卓越した演技力が受賞の基準となります。基準が演技の力量であるならば、実のところ、選ぶ側の人的構成の変化によって、受賞者が変わることは、本来、あってはならないことです。人種や民族に関係なく、誰が評価しても優れた演技を行った人物こそ、オスカー賞に相応しいのです。この原点立ち帰りますと、この問題は、アカデミー会員の人的構成に手を加えただけで一件落着するとは思えません。人口比からすれば、マイノリティーがマジョリティーを数において越えることはできませんし、仮に、マイノリティーが人為的に優遇されますと、逆差別問題という新たな問題が発生します。となりますと、この問題において最も有効な方法は、選考基準の明確化と公平な選出方法の考案なのではないかと思うのです。例えば、観客動員数、観客やネット上の一般的な評価、専門家による評価などをポイント化し、誰もが納得する評価を得た人物が受賞者となれば、誰からも文句は出ないはずですし、誰からも祝福されるはずです。

 ”賞”である限り、実力主義が最も相応しい選出の方法です。 オスカー賞は、妥協の産物ではなく、名実共にその実力を評価する賞であってこそ、人材を育て、映画界の発展に寄与することになるのではないでしょうか。

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いささか不安な高山右近の列福

2016年01月23日 15時39分40秒 | 国際政治
バチカンがキリシタン大名の高山右近を「福者」に認定 没後400年で「殉教者」に
 バチカンは、戦国時代のキリシタン大名として知られる高山右近を、迫害にも拘わらず信仰を守り通した”福者”として認定するそうです。キリスト教そのものは、博愛精神やアガペーの愛の提唱など、人類の精神性を高めた功績は評価されるべきでありながら、バチカンによるキリシタン大名の列福には全く不安がないわけではありません。

 大航海時代のキリスト教の布教には、”光”ばかりではなく”陰”の部分もあったことは、既に指摘されてきたキリスト教の負の側面です。イエズス会は、奴隷貿易や武器売買に関わりましたし、アジアやアフリカ諸国の植民地化の過程にあってもその背後で暗躍しておりました。豊臣秀吉に始まる禁教は、こうした負の側面を完全に無視すれば、確かに宗教弾圧であり迫害であるのですが、その”陰”を知れば、当時の日本国の為政者の懸念も理解に難くはないのです。ヨーロッパ諸国でさえ、宗派弾圧を伴う激しい宗教戦争が闘われ、信仰の自由が認められるのは、17世紀に至ってのことです。高山右近については、奴隷貿易に関わったか否かは不明ですが、少なくとも、領地であった高槻では、今日、関西にしては珍しく古い寺社仏閣が残されていないのは、高山右近によって悉く焼き払われたからなそうです。つまり、高山右近は、最後には地位も名誉も捨てて、フィリピンへと追放されて行きましたが、宗教を迫害した者と迫害された者の両面を併せ持っているのです。こうした場合、評価は極めて難しくなるはずです。

 さらに、昨今のローマ・カトリックによる日本への評価をめぐるもう一つの不安材料は、中国とオランダが、1937年10月8日に中国正定で起きた宣教師殺害事件の犠牲者を、殉教者として列福するための活動を行っており(『日本時事評論』第1840号、平成28年1月15日)、その犯人を、200名の慰安婦提供を断られた日本軍であるとする虚偽のプロパガンダを行っていることです。この事件の真相は、中国の山賊による犯行なのですが、列福の制度が、ユネスコ記憶遺産と同様に、反日プロパガンダに利用されているのです。高山右近の列福も、日本国=キリスト教を迫害した非道国家のイメージをもたらすかもしれず、高山右近の列福は、手放しには祝福できない問題であるように思えるのです。

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ダボス会議-国家運営と企業経営は違う

2016年01月22日 15時37分33秒 | 国際経済
 ダボス会議と言えば、今日では、G8やG20とも肩を並べる世界屈指の国際会議としてその名が知られています。各国首脳のみならず、名だたる多国籍企業のトップ、さらにはハリウッド・スターまで顔を揃えるのですから。今年も、今月20日から23日の予定で、スイスのダボスにおいて年次総会が開催されています。

 80年代以降、国際経済における多国籍企業の活動が各国の経済状況を左右するに至たり、”市場の声”は、政府も耳を傾けるべきものとなりました。今日では、政府の経済政策のアドバイサーや有識者会議のメンバーには、必ずと言ってよいほど、グローバル経営理論の主導者である新自由主義経済学派の学者が名を連ねています。ダボス会議は、まさに両者の”融合”の象徴であり、それ故に、政府の経済政策にも多大な影響を与えてきたのです。しかしながら、考えても見ますと、国家運営と企業経営は、相当の違いがあるように思えます。国家運営がマクロとしますと、企業経営はあくまでもミクロなのです。ダボス会議の基本的な目的は、企業経営者が世界経済を語ることにあり、その視点は、あくまでもグローバル企業の経営者です。企業経営において高く評価されている手法は、必ずしも、国家運営において効果を発揮するわけではありません。例えば、事業業績が悪化すると、”選択と集中”を果敢に実行し、不採算部門の売却や人員削減等のリストラで収益性を回復させた経営者が高く評価されます。マイナス部門が大胆に切り離された結果として、企業の会計はプラスを計上するのです。また、人件費を削減したければ、外国人労働者を雇用したり、海外に製造拠点を移すことも経営者としては評価される手法です。ところが、国家運営の場合には、マイナス部門を切り離したり、国民を切り捨てることはできません。否、企業がリストラを実施すれば、それは、即、雇用問題として国家に重くのしかかるのです。つまり、ミクロの世界で企業が切り離したマイナス部分は、マクロ経済においては国家が引き受けなければならないのです。

 不況期における国家運営と企業経営との二律背反性を考慮しますと、世界的な規模で貧富の格差が広がる理由も理解できます。当総会では、貧富の格差の拡大による世界的な不安定化も議論されているそうですが、こうした問題を解決するには、実のところ、企業経営者側が、逆に国家運営の手法を取り入れる、即ち、経営側の利益追求のみならず、人々の生活の安定に配慮した全体を見渡す視点が必要なのではないかと思うのです。それは、長期的に見れば、人々の生活水準の向上を通した企業収益の拡大にも繋がるのではないでしょうか。

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”神様のヘイトスピーチ問題”は深刻

2016年01月21日 15時08分34秒 | 国際政治
英国 トランプ氏入国禁止に至らず 下院で議論 「言論の自由に反する」 「攻撃的でクレージー」の意見も  
 イギリス下院では、”イスラム教徒の入国を禁止すべし”と発言したアメリカ共和党の大統領候補トランプに対して、氏の入国を禁じるべきか、否か、議論が行われたそうです。結論としては、言論の自由に反するとして入国禁止措置は見送られましたが、野党労働党からは、ヘイトスピーチ、あるいは、ヘイトクライムを理由として入国禁止措置に賛意を示す声も上がりました。

 本議題は、イギリスで57万人もの入国禁止賛成の署名を集めており、野党をはじめ、賛成派の人々の主張は、”特定の宗教の信者に対して敵意を煽るような発言は許されるべきではない”ということなのでしょう。確かに、トランプ氏の主張は、その核心部分だけを切り取ると、過激で差別的な響きがあります。しかしながら、この問題の因果関係を探ってゆきますと、解決困難な忌々しき問題に突き当たります。それは、”神様のヘイトスピーチ”の問題です。『コーラン』では、異教徒との戦が許されており、特に、イスラム教に改宗しない多神教の信者に対しては殺害まで認めています(第9章第5節)。ジハードに限らず、イスラムの教えは、このように、異教徒に対して極めて攻撃的な側面があるのです。しかも、この言葉を語ったのは、神自身ではなく、”使徒”マホメットであるのですが、マホメットが’神の言葉の代弁者’とされているがゆえに、”神の言葉”であると信じられており、その絶対的な神聖性がイスラム過激派によるテロを正当化しているのです。トランプ氏の”イスラム教徒の入国を禁止すべし”の言葉と比較しますと(一先ずは政策論の範疇に入る…)、このマホメットを通して”神の言葉”の方が、よほど無慈悲で容赦がないヘートスピーチなのです。”イスラム教に改宗しない異教徒は殺してしまえ”なのですから…。トランプ氏の発言をヘートスピーチであると非難する人々は、このイスラム教徒による”神様のヘイトスピーチ”を、いったい、どのように考えているのでしょうか。

 おそらく、マホメットが生きた6世紀から7世紀の時代にあっては、戦争は日常茶飯事であり、かつ、生命尊重に対する意識も低く、誰も人道に反するとは感じなかったのかもしれません。しかしながら、今日では、イスラム教の教えを文字通り実践しますと、非人道的な残虐行為を容認することになりかねません。この深刻な問題の解決方法は、イスラム教徒自身が見つけ出してゆかないことには、人類に平和も安定も訪れることはないのではないかと思うのです。

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日独において”反対派を使う手法”が使われたのか?

2016年01月20日 15時54分49秒 | 国際政治
首相与党の支持率最低に=ドイツ
 
 ある政策を実現したい場合、国民の反発を避ける有効な方法として、”反対派にさせる”、という政治手法があります。例えば、保守政党にリベラルな政策を実施させれば、保守層からの反発を最低限に抑えることができます。逆もまたあり得ることであり、リベラル政党が、リベラルの看板で保守的政策を敢えて実行する場合もあります。

 それでは、この手法、実際の政治に用いられているのでしょうか。ドイツでは、保守派のCDU・CSUの党首であるメルケル首相が、従来とは次元の違う、大胆な移民受け入れ政策を実施しています。日本国でも、年末に、対韓譲歩とも言える電撃的な日韓慰安婦合意が成立しました。これらの政策は、保守政党による反保守政策の実施と言っても過言ではありません。しかしながら、両国とも、保守派の反発を抑えられたのか、というと、そうではないようです。メルケル首相は、支持母体である保守層からの離反を招き、今日、支持率は低下傾向にあるそうです。日本国でも、日韓慰安婦合意については保守層を中心に不安と不満が燻っています。世論調査では、内閣支持率の低下は報告されていませんが、もろ手を挙げて日韓合意を評価している国民は、リベラル政党支持者の方が多いのではないでしょうか。

 考えても見ますと、”反対派を使う手法”とは、保守からリベラルにかけて、背後で政界全体を操る存在を想定しなければなりませんし、仮に、このような”陰の決定者”が実在するとしますと、民主主義は、既に形骸化していることにもなります。何れにいたしましても、たとえ”反対派を使う手法”が使われたとしても、今日の政治あっては、その効果はもはや期待できないのではないかと思うのです。

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政治家は政治に徹するべき-芸能界との癒着問題

2016年01月19日 17時07分42秒 | 社会
【SMAP解散協議】安倍首相「存続よかった」 中谷防衛相「解散は『存立危機事態』」
 最近の日本国の政治を観察しておりますと、”衆愚政治”の方向に向っているのではないかとする疑いがあります。内部から何かが崩れてきている予兆を感じるのです。

 本日も、首相をはじめ、閣僚までもが、”SMAPの解散問題”について言及したとの報道がありました。これらの発言、幾つかの点において問題があります。第一に、芸能活動とは、あくまでも興行であり、芸能人の人気は特定のファンによって支えられています。SMAPファンは、国民の一部ではあって、全てではありませんし、同様のグループは他に多数活動しています。こうした中、特定のグループに対してのみ、政治家が、そのポストの肩書で、去就についてコメントするとしますと、特定の芸能人を”特別扱い”にすることを意味します。政治家は、芸能人に対しては中立的であるべきです。第二に、政治家が発言しますと、芸能界の出来事を”国事”として扱ったことを意味します。中谷防衛相に至っては、『存立危機事態』とまで称したそうですが、この発言、国民のみならず、自衛隊の方々をも心底落胆させたのではないでしょうか。日本国の命運を、芸能グループの解散問題と同列と見なしたのですから。第三に、政治家の発言は、”解散しなくてよかった”とするものですが、その殆どが、”国民のためによかった”としています。しかしながら、日本国民を代表して政治家がSMAPに感謝する構図は、奇妙としか言いようがありません。政府が、政策的に”国民的スター”を造るのは、全体主義的な手法あり、ファンではない一般の人々からは反感を買います。

 実のところ、国民の多くは、一連の騒動を、”何か裏があるのではないか”と怪しんでいるのではないでしょうか。政治家は、政治に徹するべきであり、芸能界との癒着は、世論誘導や衆愚化を疑われる原因になると思うのです。

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台湾民進党の勝利-国民党は消滅危機に?

2016年01月18日 15時49分50秒 | アジア
台湾との協力・交流深化=日本政府
 台湾では、総統選挙で民進党の蔡英文主席が当選し、国民党の馬政権に代わって蔡政権が誕生する運びとなりました。同時に実施された立法院選挙でも民進党が議席の多数を占め、台湾の政界は様相を一変することとなったのです。

 民進党勝利の主たる要因は、国民党政権による過度な中国接近策に対する台湾国民の反発にあります。中国の習政権側との協力の下で馬総統が促進した中台間の経済連携強化路線は、当初は経済効果から歓迎されたものの、時間の経過と共に、この路線の背後に潜む中国側の政治的野心が表面化するようになりました。投資・サービス協定の締結に反対して発生した学生等によるひまわり運動は、中国に飲み込まれることへの台湾の強い拒否感を象徴しています。また、時を同じくして、香港では「一国二制度」が風前の灯となり、中国側が望む”一つの中国”が、台湾の共産化であることもはっきりしました。国民党の路線を進めば、台湾の行く手には、自由や民主主義が失われる運命が待ち受けていたのです。今般の選挙結果は、中国の一党独裁体制に対する台湾国民の拒絶という側面が観察されるのです。台湾の人々が、民主的選挙を手段として、自らの手で自由と民主主義を選び取ったことは、中国、とりわけ中国国民に対しても、”大陸の民主化”の可能性という意味において、静かなインパクトを与えることでしょう。

 そしてこのことは、国民党が、内戦に敗れて蒋介石が台湾に渡って以来、最大の危機を迎えることを意味します。何故ならば、馬政権時代の苦々しい記憶が国民党に親中政党=”売国政党”のイメージを染み付かせ、国民に”アレルギー反応”を起させる可能性があるからです。後世の歴史書では、2016年1月16日の選挙は、台湾において、一つの時代を画する分水嶺であったと語られるかもしれません。

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日本国にも回る慰安婦合意の猛毒

2016年01月17日 14時33分13秒 | 国際政治
安倍首相、日韓慰安婦合意、「私がやらねばいけないと思った」 公明議員らに表明
 昨年末の慰安婦合意については、韓国の反日行動に一定の歯止めをかける効果を期待し、日本国の外交的な勝利であったかのような評価も聞かれます。しかしながらこの見方、あまりにも楽観的に過ぎるのではないでしょうか。

 桜田議員の発言をめぐる一連の政府の否定的な反応は、この合意が、韓国のみならず、日本国、しかも、日本国の自由な言論空間さえも縛るリスクを露呈しました。左派系のメディアでは、早速、桜田議員の発言は日韓合意を日本側から覆す行為とみなし、韓国側の立場に立った糾弾論調が復活していますが、日本国政府もまた、反日メディアと歩調を合わせたことになります。当合意に関して韓国に対する拘束力を評価する人々は、言論封殺の毒が、自らの身体にも回っていることに気が付いておりません。相手国にだけ回っていると喜んでいるのです。仮に、公人であれ、私人であれ、日本国側が、韓国側が唱える「日本軍による20(40?)万人朝鮮人女性強制連行説」に対して、証拠を示して反証しよう試みた場合でさえ、合意違反として咎められてしまうとなりますと、これ程の猛毒は、ありません。日韓慰安婦合意は、人々を思考停止に至らせ、政府によって虚偽の歴史が強制され、言論の自由が消えた世界へと退行させるための猛毒であった、と言うことになります。

 日韓合意は、果たして、事実の探求を禁じる内容を含んでいたのでしょうか。そして、外交上の政府間の合意は、国内における言論封殺を正当化する根拠となりえるのでしょうか。そもそも慰安婦問題が拗れに拗れた元凶が、韓国が歴史捏造体質に毒されているところにあるとしますと、日本国をも同じ毒で理性を狂わそうとする方法は、百害あって一利なしではないかと思うのです。

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