ブラックホールとは何か?
ブラックホール (Black hole) は、重力が強く、光さえも抜け出せない時空の領域のことを指し、その中心に特異点が存在する。大質量の恒星が超新星爆発した後、自己重力によって極限まで収縮することによって生成したり、巨大なガス雲が収縮することで生成すると考えられている。
ブラックホールの境界は、事象の地平面 (event horizon) と呼ばれる。一般相対性理論では、厳密にはブラックホールは、『時空の他の領域と将来的に因果関係を持ち得ない領域』として定義される。
21世紀初頭現在、ブラックホール自体を直接観測することはまだ成功していないが、周囲の物質の運動やブラックホールに吸い込まれていく物質が出すX線や宇宙ジェットから、その存在が信じられている。
銀河の中心には、太陽質量の106〜1010倍程度の超大質量ブラックホールが存在すると考えられており、超新星爆発後は、太陽質量の10倍〜50倍のブラックホールが形成すると考えられている。
20世紀末には、両者の中間の領域(太陽質量の103程度)のブラックホールの存在をうかがわせる観測結果も報告されており、中間質量ブラックホール (IMBH) と呼ばれている。
そして2010年5月、銀河の中心にある超巨大ブラックホールなみの強力な X線を発生する天体が発見された。不思議なことにこの天体、銀河の中心ではないところにあった。この天体の正体は何だろう?
銀河から放り出された超巨大ブラックホール
銀河から高速で遠ざかる、超巨大ブラックホールと思われる天体が発見された。このブラックホールは、より小さなブラックホール同士が合体して形成されたあと、これまでの住処から放り出されてしまったようだ。
わたしたちの天の川銀河をはじめ、多くの銀河の中心には超巨大ブラックホールが存在していることはすでに知られている。
活動するブラックホールでは、その中心に向かって物質が落ち込みながら激しく熱せられるために、周囲から強いX線が放射される。そのようなブラックホールが潜む銀河の中心をX線で観測すると、ちりやガスなどを見通して、ブラックホールの周辺領域とブラックホールの存在を明るい点としてとらえることができる。
オランダ・ユトレヒト大学の大学生Marianne Heida氏は、オランダ宇宙研究機関(SRON;Netherlands Institute for Space Research)で、数十万個のX線源と数百万個の銀河の位置とを比較するプロジェクトを進めていた。Heida氏はカタログ中のある銀河を見て、銀河の中心から外れた場所に、X線で輝く恒星状の明るい点が存在していることに気づいた。その明るさは超巨大ブラックホールに匹敵するものであった。
このような大質量の天体を放り出すような現象としては、ブラックホール同士の合体が考えられる。近年のコンピューターシミュレーションによると、合体前の2つのブラックホールがどのような速度と角度で自転していたかという要素が、合体後のブラックホールの速度を大きく決めるようだ。今回発見された、銀河中心から外れたところにある超巨大ブラックホールと思われるX線源も、このような過程で形成され高速で移動するようになった可能性がある。
Heida氏の研究によって、ほかにも似たようなX線を放射する天体が数多く発見されており、NASAのX線観測衛星チャンドラによる観測が待たれている。観測によって、この不思議なブラックホールがほかにも発見され、合体前のブラックホールの特性を知る手がかりが得られるかもしれない。
また、ブラックホールが合体する際には重力波が放射されると考えられているが、将来打ち上げ予定の人工衛星LISAによって重力波を検出し、ブラックホール同士の合体現象そのものも観測できるようになるかもしれないという。次の発見が楽しみである。(2010.5.13 AstroArts)
ブラックホールの発見と歴史
現代的なブラックホール理論は、アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論が発表された直後の1916年に、理論の骨子であるアインシュタイン方程式をカール・シュヴァルツシルトが特殊解として導いたことから始まった。
1970年代に入るとX線天文学の発展によって、X線源が普通の恒星と連星を作っているX線連星が多数発見されるようになった。連星の公転周期を観測するとその星の質量を見積もることができ、またX線の明るさの変動のタイムスケールからX線源の大きさを推定できる。
これによって、X線連星の一つであるはくちょう座X-1がブラックホールの有力な候補として初めて確定し、その後も同様の天体が発見されている。
1990年代になると、銀河中心部から放出される電波の観測や、我々の銀河系の中心近くの恒星の運動の長期にわたる追跡観測が行われ、これによって、数多くの銀河の中心部に太陽質量の数百万倍から数十億倍という大質量のブラックホールが存在することが確認されている。このことから、宇宙に無数に存在する銀河の大部分の中心核には超巨大ブラックホールがあると考えられている。
銀河系の中心部にある電波源複合体いて座A*には、太陽の370万倍の質量を持った巨大なブラックホールが存在すると多くの天文学者によって考えられている。1995年には、M106 銀河の中心に太陽質量の3,600万倍の質量のブラックホールがあると推定された。同様にして、21世紀初頭までに多くの銀河の中心部に106-8太陽質量の超大質量ブラックホールが存在すると推定されている。
成長するブラックホール
こうして、ブラックホールは直接観測することはできないが、近くの物質をのみこむときに X線を発生するので、その存在が明らかになった。そしてそのX線の強さによって、大きさも推定できるようになった。近年発見されている、超巨大なブラックホールはいったいどうやってできたのだろうか?
これについては次のような仮説が提唱されている。
銀河どうしの近接遭遇や衝突などによって銀河内部で爆発的な星形成(スターバースト)が起こり、これによって若くて密度の高い星団が大量にできる。このような星団には重い星が大量に含まれるため、高密度な環境ではこのような星同士が合体してさらに大きな星となり、ますます合体しやすくなるという合体不安定という過程が進行する。
こうして作られた重い星の寿命は非常に短いので早い時期に超新星爆発を起こし、太陽の数十倍から100倍の質量を持つブラックホールが誕生する。これらの合体によって103太陽質量程度の中間質量ブラックホールが星団内にでき、このような星団がいくつも銀河の中心に向かって沈む。沈む途中で星団自体は潮汐破壊され、中間質量ブラックホールが銀河中心にたまり、互いに合体して大質量ブラックホールとなる。
2005年にはチャンドラX線観測衛星によってM74銀河にも約10,000太陽質量という中間質量ブラックホールが発見されており、今後観測データが蓄積されることでこの仮説の妥当性が検証されていくものと考えられている。
2008年には OJ 287というクエーサーが太陽質量の180億倍と1億倍という、極めて質量の大きなブラックホール同士の連星系であることが判明した。このような巨大なブラックホールは、銀河同士の衝突により核である大質量ブラックホール同士が合体して生じるのではないかと考えられている。
参考HP Wikipedia「ブラックホール」・アストロアーツ「銀河から放り出された超巨大ブラックホール」
カラー図解でわかるブラックホール宇宙 なんでも底なしに吸い込むのは本当か? 死んだ天体というのは事実か? (サイエンス・アイ新書) 福江 純 ソフトバンククリエイティブ このアイテムの詳細を見る |
天の川の真実―超巨大ブラックホールの巣窟を暴く 奥田 治之,小山 勝二,祖父江 義明 誠文堂新光社 このアイテムの詳細を見る |