CWAゴールドダガー賞・ガラスの鍵賞
「湿地」に続く二作目だけれど、アイスランドという国は特に馴染みがないせいか、「湿地」でも最初は読みにくかった。
特に名前や土地に着く「ヴ」という音のつながりが、遠い国を実感させた。
「湿地」を読むのに、改めて地図帳の北欧というところを選んで、拡大されたページを見てみた。北極圏にあるグリーンランドに近い寒いところらしいと思っていたが、日本の1/3くらいの広さを持つ丸い島国で、随分進んだ文化や歴史のある国だと知った。
あまり深入りして調べだすと、夢に見たり、行ってみたくなるので(行けはしないのに)考えるのも程ほどにして、話を楽しんだ。
この「緑衣の女」は訳者のあとがきによると、激しいDV描写があるので、出版についてはその部分が少し気がかりだったそうだ。そういわれるとなかなかハードな部分がある。家庭内の暴力が繰り返されて、心身ともに傷つけられる母親の姿は、三人の子どもの精神まで損なってしまう。
でも、コアなハードボイルドなどを読み出すと、現実として身近には考えない、やはりどこか絵空事で、ストーリーの一部でしかないと思うようになる。現実に身近にあるかもしれないとは思いつつ、最近なニュースなどを見ると平和な世界がほころびてくるようで恐ろしくなるところもあるが。
作り話だと割り切れない世代には訳者のような気配りもいるかもしれない。
アイスランドでは、第二次世界大戦の後の混乱が終わって、時代とともに生活が変化し、街が郊外に広がりだす。その新興住宅地の工事現場の穴から、肋骨が折れ、宙に腕を伸ばした白骨が見つかる。
60年ほど前のものらしい。戦中から戦後のものかもしれないが、当時このあたりはイギリス軍の後アメリカからの兵士が来てバラックを建てていた。現在は全て取り払われて家が建ち始めている。
二作目でちょっと馴染みになったエーレンデュル捜査官と同僚が調べ始める。
現代の犯罪捜査の様子と、戦後、骨が埋められた時代にさかのぼった話になっている。
バラックから離れた古い一軒屋で、繰り返されていたDVの様子や、その家庭の話が同時に進んでいく。
それまで話されなかったエーレンデュルの悩み、荒れた家庭の様子も、明らかになっていく。
骨は誰なのか、聞き込んでいるうちに浮かんでくる影は見えるが、確定するには時間がたちすぎている。
60年(ほど)という長さが丁度いい。当時を知る人々が年老いてしまってはいるが少しは生き残っている。聴き取った話を繋ぎ合わせて現代に結んでいく。
その捜査過程の、紳士的な警察官も、協力する周りの係官の働きもいい。
昔ひとつの家庭があって、それが惨めで恐ろしい形で崩壊していくさま、母親が犠牲になって耐え抜く様子がリアルで、哀しく腹立たしい。
読みにくい土地や人名に慣れると、話に引き込まれる。「湿地」とこの作品で賞をダブルで受賞しているそうだが、物語としては「緑衣の女」がこなれていて、人物の描写も細やかで面白かった。
その前に「冬のフロスト」を読み始めていたが、国民性というか、キャラの違いが面白い。周りが取り散らかって言葉も汚い、それでいて気持ちの優しいフロストに比べて、エーレンデュルと同僚たちの捜査は繊細で思いやりもあり、それぞれ個性的で次第に馴染んできた。
フロストをおいて読んでも後悔しないくらい、読み応えがあった。
一風変わった犯人探しだけでない味わい深いところがとてもいい。
訳者のあとがきもとても参考になった。