nightmare…悪夢、の意。
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寝ているあいだに見た夢で、ほんとうの意味で悪夢だったのはふたつ。
ひとつは、オウム・村井幹部を刺殺した男が(なぜか)自分を刺し、刺した直後に「あ、間違えた」と呟いた夢。
起きたら、汗びっしょりだったよ。
もうひとつは、ビルから飛び降りた母親を地上でキャッチしようとしたが失敗、自分の目の前で母親の頭部が破裂した夢。
飛び起きて、自家製仏壇に手を合わせつづけたよ。
起きているあいだに経験したことで、ほんとうの意味で悪夢だったこと―すぐに思い浮かべるのは、あの出来事だ。
私服警備員、いわゆる万引きGメンをやっていたときのこと。
当時の自分は社内でいちばんの逮捕率を誇り、少し天狗、、、いや訂正、「かなり」天狗になっていた。
(入って数ヶ月で次長候補になったのだもの、天狗も無理はない・・・と自己弁護しておく)
が、ゆえのミスだったといえるかもしれない。
とあるスーパーの警備中、カニ缶ふたつを窃盗する50代の主婦を発見する。
手提げカバンに隠しこむ様子をしっかりと確認(=現認)し、彼女が店外に出たところで声をかける。
「分かりますよね」
「・・・」
「分かりますよね」
「えっ、なんですか」
「分かりませんか?」
「・・・分かりません」
「とりあえず、事務所まで来てもらえますか。そこで話しましょう」
いまから思えば・・・だが、そのとき、彼女はふと微笑を浮かべたような気がする。
事務所にて―。
「カバンのなかのものを、すべて出してもらえますか」
彼女は、素直に従った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これで、すべてですか」
「はい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なかを、確認してもいいですか」
「どうぞ」
あるはずのカニ缶が、なかった。
冷房ががんがんかかっている事務所なのに、汗が止まらなかった。
「どうしたの?」
「・・・いえ」
「私が、万引きしたとでも?」
「・・・いえ」
要は、誤認逮捕をしてしまったのである。
店長が割って入り、その場は収まった。
自分はそのあいだ「あぅ…」「うぅ…」くらいしかいえず、謝罪のことばも発せなかった。
彼女は帰宅後、息子に「万引き犯に間違われた」と告白じゃなくって告発、
翌日、スーパーの店長から警備会社にクレームの電話が入った。
「すごい剣幕なんです。当人と責任者を家に来させろって」
自分はボスと一緒に、彼女の自宅を訪れる。
菓子折りを投げつけられた。
口汚く罵られた。
けれども反論することは出来ない、自分とボスはひたすら頭を下げつづける。
それでも謝罪は受け入れられず、結局、会社がン十万円の慰謝料・示談金を支払うことで納得してもらった。
ボスは同僚に「牧野が精神的に参っている。会社が金を出したことは内緒で」といったそうである。
たしかにその事実を知ったときは、堪えた。
自分への処分は「そのスーパーへの出入り禁止」だけだったが、出来ることならば、慰謝料を給料から引いてもらいたかった。
いや実際に、そうしようとしたのである。
しかし、そうしようとする前に、思わぬ事実が明かされたのだった。
事件から3週間後―。
そのスーパーの店長から、自分宛に電話が入った。
「牧野さんは、まちがっていなかった」というのである。
どういうこと??
2週間分の防犯カメラの映像を上書きする前に、少し気になった店長は、あの日のあの時間帯をチェックしてみた。
すると・・・
カニ缶をカバンに隠しこむ姿は確認出来なかったが、カバンからカニ缶を出し、関係のないコーナーに投げ入れた姿が映っていたのだった。
つまり。
盗ったあと、自分の存在に気づいた彼女は、自分に声をかけられる前に、商品を放ったということ。
だから、あの微笑だったのか・・・。
とはいえ。
自分のミスには変わりない、現認したあとも、犯人の動きから目を離してはいけないのだから。
店長はいう、「牧野さんの名誉のためにも・・・とは思うんだけど、正直、これ以上のゴタゴタは懲り懲りでね」
「えぇ、分かります」
「ごめんね。ただ、牧野さんにはこれまでいっぱい捕まえてもらったから感謝している、けっして恨んではないということを伝えたくて」
「はい、ありがとうございます」
モヤモヤが残ったが、これもまた経験である。
ただ悪夢はここからで、きっちりと現認し、その後の犯人の動きからも目を離していなかったにも関わらず、声をかけられなくなってしまったのだ。
もし、自分の見間違い・勘違いだったらどうしよう?
連勝街道まっしぐらのファイターが、カウンターかなにかでノックアウトされたあと、まるで別人であるかのようなフットワークになり、勝てなくなっていく感覚。
刑事なのにピストルを盗まれてしまう、映画『野良犬』(49)の感覚。
これか! と思った。
精神面でのリハビリが必要となった。
ボスに助けられ、同僚に励まされ、ハニーに慰められ、2ヶ月くらいを要して本来の自分へと再生していった。
きのう―。
原稿が、久し振りにボツになった。
超のつく長文であり、思わず「ギャラも出ないし・・・悪夢だ」と呟いてしまったが、長々と綴ったこの出来事を回想し、「ボツなんか、ぜんぜん悪夢じゃないじゃん」と思い直したのである。
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明日のコラムは・・・
『17.01.21 カウントダウン始めるぜよ!!』
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寝ているあいだに見た夢で、ほんとうの意味で悪夢だったのはふたつ。
ひとつは、オウム・村井幹部を刺殺した男が(なぜか)自分を刺し、刺した直後に「あ、間違えた」と呟いた夢。
起きたら、汗びっしょりだったよ。
もうひとつは、ビルから飛び降りた母親を地上でキャッチしようとしたが失敗、自分の目の前で母親の頭部が破裂した夢。
飛び起きて、自家製仏壇に手を合わせつづけたよ。
起きているあいだに経験したことで、ほんとうの意味で悪夢だったこと―すぐに思い浮かべるのは、あの出来事だ。
私服警備員、いわゆる万引きGメンをやっていたときのこと。
当時の自分は社内でいちばんの逮捕率を誇り、少し天狗、、、いや訂正、「かなり」天狗になっていた。
(入って数ヶ月で次長候補になったのだもの、天狗も無理はない・・・と自己弁護しておく)
が、ゆえのミスだったといえるかもしれない。
とあるスーパーの警備中、カニ缶ふたつを窃盗する50代の主婦を発見する。
手提げカバンに隠しこむ様子をしっかりと確認(=現認)し、彼女が店外に出たところで声をかける。
「分かりますよね」
「・・・」
「分かりますよね」
「えっ、なんですか」
「分かりませんか?」
「・・・分かりません」
「とりあえず、事務所まで来てもらえますか。そこで話しましょう」
いまから思えば・・・だが、そのとき、彼女はふと微笑を浮かべたような気がする。
事務所にて―。
「カバンのなかのものを、すべて出してもらえますか」
彼女は、素直に従った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これで、すべてですか」
「はい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なかを、確認してもいいですか」
「どうぞ」
あるはずのカニ缶が、なかった。
冷房ががんがんかかっている事務所なのに、汗が止まらなかった。
「どうしたの?」
「・・・いえ」
「私が、万引きしたとでも?」
「・・・いえ」
要は、誤認逮捕をしてしまったのである。
店長が割って入り、その場は収まった。
自分はそのあいだ「あぅ…」「うぅ…」くらいしかいえず、謝罪のことばも発せなかった。
彼女は帰宅後、息子に「万引き犯に間違われた」と告白じゃなくって告発、
翌日、スーパーの店長から警備会社にクレームの電話が入った。
「すごい剣幕なんです。当人と責任者を家に来させろって」
自分はボスと一緒に、彼女の自宅を訪れる。
菓子折りを投げつけられた。
口汚く罵られた。
けれども反論することは出来ない、自分とボスはひたすら頭を下げつづける。
それでも謝罪は受け入れられず、結局、会社がン十万円の慰謝料・示談金を支払うことで納得してもらった。
ボスは同僚に「牧野が精神的に参っている。会社が金を出したことは内緒で」といったそうである。
たしかにその事実を知ったときは、堪えた。
自分への処分は「そのスーパーへの出入り禁止」だけだったが、出来ることならば、慰謝料を給料から引いてもらいたかった。
いや実際に、そうしようとしたのである。
しかし、そうしようとする前に、思わぬ事実が明かされたのだった。
事件から3週間後―。
そのスーパーの店長から、自分宛に電話が入った。
「牧野さんは、まちがっていなかった」というのである。
どういうこと??
2週間分の防犯カメラの映像を上書きする前に、少し気になった店長は、あの日のあの時間帯をチェックしてみた。
すると・・・
カニ缶をカバンに隠しこむ姿は確認出来なかったが、カバンからカニ缶を出し、関係のないコーナーに投げ入れた姿が映っていたのだった。
つまり。
盗ったあと、自分の存在に気づいた彼女は、自分に声をかけられる前に、商品を放ったということ。
だから、あの微笑だったのか・・・。
とはいえ。
自分のミスには変わりない、現認したあとも、犯人の動きから目を離してはいけないのだから。
店長はいう、「牧野さんの名誉のためにも・・・とは思うんだけど、正直、これ以上のゴタゴタは懲り懲りでね」
「えぇ、分かります」
「ごめんね。ただ、牧野さんにはこれまでいっぱい捕まえてもらったから感謝している、けっして恨んではないということを伝えたくて」
「はい、ありがとうございます」
モヤモヤが残ったが、これもまた経験である。
ただ悪夢はここからで、きっちりと現認し、その後の犯人の動きからも目を離していなかったにも関わらず、声をかけられなくなってしまったのだ。
もし、自分の見間違い・勘違いだったらどうしよう?
連勝街道まっしぐらのファイターが、カウンターかなにかでノックアウトされたあと、まるで別人であるかのようなフットワークになり、勝てなくなっていく感覚。
刑事なのにピストルを盗まれてしまう、映画『野良犬』(49)の感覚。
これか! と思った。
精神面でのリハビリが必要となった。
ボスに助けられ、同僚に励まされ、ハニーに慰められ、2ヶ月くらいを要して本来の自分へと再生していった。
きのう―。
原稿が、久し振りにボツになった。
超のつく長文であり、思わず「ギャラも出ないし・・・悪夢だ」と呟いてしまったが、長々と綴ったこの出来事を回想し、「ボツなんか、ぜんぜん悪夢じゃないじゃん」と思い直したのである。
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明日のコラムは・・・
『17.01.21 カウントダウン始めるぜよ!!』