僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

「パトスとエロス」 すみれ

2009年04月07日 | ケータイ小説「パトスと…」
会社に着くとすぐ鉢植えのビオラに目をやった。
4日ほど前に得意先からいただいたものだ。

女子職員は皆「あら素敵ね」とか「きれいなお花、どうしたのこれ?」などと言うだけで誰も面倒までは見ない。
管理は必然的に辰雄の仕事になる。

辰雄は辰雄でそんな状況をむしろ喜んでいた。


無機質なビルの一室で営業スケジュールと実績が全員の机から見えるように掲示されている。BGMは時折聞こえてくる電話に対応する受付嬢の繕った声とエアコンのうなる音。

花に水をやりながら葉の影に小さな蕾がまだいくつも付いているのを見つけたり、精一杯咲き終わりしわになった花びらを「お疲れさん」とつぶやきながらつまんだりする時間が、煙草を吸わない辰雄にとって癒しの時間になっていた。

そう言えばこのダイキン製のエアコンは相当古いタイプらしく夏はとばかりで少しも冷えず、皆ディスカウントストアか100円ショップで手に入れた卓上小型扇風機を目の前に置いている。

まだそれほど暑くはないので引き出しの奥で出番を待っているに違いない。


ふと見るとビオラは勢いをなくし鉢から崩れるように広がっている。

辰雄は水やり用にと溜めておいた水を給湯室の隅に急いで取りに行った。

「飲むな!草花用」とマジック書きしてある2㍑ペットボトルには1000倍に薄めたハイポネックスが作り置きしてあるのだ。








コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする