僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

SF小説「ハートマン」 その人は

2009年04月19日 | SF小説ハートマン
その人は白髪で豊かな口ひげを蓄えていた。
さっきまでミリンダが身につけていたドレスと同じ光沢のある生地の服で足首まで覆っている法曹のような出で立ちでふたりを迎えた。

宇宙は胸騒ぎを感じた。
彼に一歩近づく度にその胸騒ぎは高まった。
バイオリストコンピュータが反応している。何かに気付き始めている。

彼はミリンダにうなづくと両手を合わせ「Lukumariyno hosseru」とつぶやいた。
宇宙もミリンダに習ったとおり挨拶を返したが彼の顔から視線は離せなかった。


この人は、まさか…


彼は一度感慨深そうに目を閉じた後、歩み寄り宇宙の両肩に手を置いた。

間近で見る彼の顔には深いしわが刻まれ、地球で言えば百歳を超えるような老人の風貌だったが、凛とした姿勢で、目の輝きは力を失っていなかった。


「あなたが宇宙(ひろし)君なんですね。」

「…!」

ひと言聞いたその声だけで宇宙は理解した。

「はい。」

そう答えるのが精一杯だった。
何度会いたいと思ったことだろう。
今の宇宙がこうしてここにいるのはみんなこの人がいたからなのだ。

見つめる老人の顔がみるみるうちに滲んできた。

老人は宇宙をそっと抱きしめた。
宇宙は少年の頃に戻ったように老人の背中に手を回ししがみついた。

あの時の思い出が次から次へと蘇ってきた。
出会った時はエサキモンツキノカメムシの姿をしていた。
その出会いから宇宙はハートマンへの道を歩み始めた。計り知れないほどのことを彼から学んだ。


腕の中でそれ以上は声にならなかった。

「トント…」











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