犬のうた エセーニン作
黄ばんだむしろの下の
赤錆びた穀物小舎で 朝早く
牝犬が七匹の仔を生んだ
にんじん色の仔犬七匹。
夕闇が降りても 母親はまだ
なめずりまわし 毛並みをそろえてやっていた。
あったかい葉は犬のおなかの下で
雪が溶けちっちゃい流れになっていた。
夕闇ふかく めんどりたちが
とまり木にじっと並んだとき
ご主人がしかめつらで出て来て
七匹を一匹のこらず袋にしまいこんだ。
母犬は ご主人に おいすがり
雪だまりとみれば駆け込んでいた。
さて そのとき ながくながくふるえたのは
まだ凍てついていなかった水の鏡だけ。
辛うじて足をはこぶ帰りみち
脇ばらの汗をなめる身には
わが家にかかる月も
わが子の一匹かと見えた。
ぐんじょうの中空を 音高く
歯をむいて牝犬が仰ぐ。
と かぼそい月はするするっと辷り
野末の丘にかくれてしまった。
ひとさまがなぐさみに投げつける石、
そのおめぐみに 音もなく
雪中へ転げ込む犬の 二つ目は
黄金の星 星……(1915)
『エセーニン詩集』内村剛介訳 (彌生書房 昭和43)
エセーニンの詩はすでにUPしたことがあります。https://blog.goo.ne.jp/maipan/e/da9fc4b45d7dcd2469d6e356701b9c48
これを書いたのはまだまだ若かったエセーニンです。
だれの関心もひかない哀れな母犬を詩によむことは当時としては意外で、新鮮だったのではないでしょうか。
画像は、ありょははさんがロシアで先生について習って作られた塗りの箱です。
この箱を見るといつもエセーニンの「犬のうた」が思い浮かびます。
エセーニンの日本への紹介も内村さんですね。勢いがありすぎて、誤訳っていうか、意味のとりちがいも多い(笑)
『さらば、モスクワ愚連隊』はもう少しあとでした。
ソルジェニーツィンも内村さんも90歳近くまで生きられて、亡くなりましたね。