アメリカの製紙産業はまた沈んだか:
件名の「日はまた沈む」はアメリカの作家アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)の「日はまた昇る」(The Sun Also Rises)のもじりである。これで極めて不勉強だった英文学科出身者であることを、少しだけ披露したつもりである。以下にはかなりの部分「個人的な感傷」の要素があるとご承知置き願いたい。
2005年に我がウエアーハウザーは同業他社に先駆けて印刷(紙)媒体の行く末を素早く見切りを付けて、洋紙事業部の中でアメリカ最大級の上質紙(我が国では模造紙として知られている非塗工印刷用紙のことで、コピー用紙のような白い紙である)生産部門を切り離して、カナダに本社を置くドムター(Domtar Corp.)に譲渡した。私はこの事業部の日本市場進出を1987~88年に手伝っていただけに「時代の急速な変化」を痛感させられていたものだった。
その後、アメリカにおける印刷媒体の衰退は、それこそ余りにも順調に進み、塗工・非塗工を問わず印刷洋紙と新聞用紙の需要は年を経る毎に急激に衰退し、世界最大のインターナショナルペーパーも塗工印刷用紙事業を2007年に売却し、私が最初に転進したミードも続いた。多くの印刷用紙メーカーは新聞用紙メーカーと共にChapter 11(我が国の民事再生法とほぼ同じ)の保護を申請する事態となったことは、今日までに何度も解説してきた。ウエアーハウザーも日本製紙との合弁事業だった新聞用紙メーカーのノーパック(NORPAC)を売却した。
そこに、紙業タイムス社が発行するFuture誌の21年9月13日号に「日はまた沈む」と形容したくなったニュースが出ていたので紹介しようと思う。それは「ドムター社の株主は同社をアジアパルプ&ペーパー社(APP)のグループ企業ペーパー・エクセレンス社(PE)への売却に同意した」というものだった。紙パルプ業界の実務から離れて早27年の私にとっては驚きでも何でもないことではあるが、自分が縁があった会社が売買共に関係していることには、何とも言えない感にとらわれていた。
念の為に少し解説しておくと、APPはシンガポールに本拠を置く華僑財閥シナルマス(Sinar Mas)のグループ企業で、インドネシアと中国他に最新鋭の世界最大級の抄紙機を数多く揃えた、恐らく現在では世界最大級の紙パルプメーカーである。我が国では90年代後半に伊藤忠商事も資本参加していたし、私もリタイア後には少しは販売促進のお手伝いをした時期もあったのだ。北アメリカの製紙会社は必ず原料になる森林を保有しているので、市販パルプ事業部門も保有している形になるのが普通だ。
APPは製紙原料確保のために以前からアメリカの経営状態が悪化した企業の買収を手がけていたが、私が知る限りではドムターほどの実際に営業している会社の買収まで出ていった例は知らなかった。しかも、今回の買収が1980年代に自分が関係していた事業部の生産設備だったとなれば「今昔の感」があるし、最早新興勢力などと呼ぶのは相応しくないと見ているAPPがドムターを買収するとは「アメリカの製紙産業はまたもや沈ませられるのか」としか受け止められなかった。感傷的にもさせられたが「日はまた沈むのか」と痛感している次第だ。
この買収の件を見ていて感じることは「APPは今や衰退するだけの印刷媒体の行く末を、どのように評価しているのだろうか。もしかすると『そして、誰もいなくなった』分野を独り占めにでもして、全世界の市場占有率100%でも目指しているのかな」などと考えさせられた。先頃、大手の銀行2社が「ペーパーレス化を目指す」と表明していたが、この広い世界には未だこれからペーパー化に指向している市場があるのだろうか。オウナーのテグウ・ガンダ・ウイジャヤ氏(Teguh Ganda Wijaya)に伺って見たい。
参考資料:紙業タイムス社刊 Future誌 21年9月13日号
件名の「日はまた沈む」はアメリカの作家アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)の「日はまた昇る」(The Sun Also Rises)のもじりである。これで極めて不勉強だった英文学科出身者であることを、少しだけ披露したつもりである。以下にはかなりの部分「個人的な感傷」の要素があるとご承知置き願いたい。
2005年に我がウエアーハウザーは同業他社に先駆けて印刷(紙)媒体の行く末を素早く見切りを付けて、洋紙事業部の中でアメリカ最大級の上質紙(我が国では模造紙として知られている非塗工印刷用紙のことで、コピー用紙のような白い紙である)生産部門を切り離して、カナダに本社を置くドムター(Domtar Corp.)に譲渡した。私はこの事業部の日本市場進出を1987~88年に手伝っていただけに「時代の急速な変化」を痛感させられていたものだった。
その後、アメリカにおける印刷媒体の衰退は、それこそ余りにも順調に進み、塗工・非塗工を問わず印刷洋紙と新聞用紙の需要は年を経る毎に急激に衰退し、世界最大のインターナショナルペーパーも塗工印刷用紙事業を2007年に売却し、私が最初に転進したミードも続いた。多くの印刷用紙メーカーは新聞用紙メーカーと共にChapter 11(我が国の民事再生法とほぼ同じ)の保護を申請する事態となったことは、今日までに何度も解説してきた。ウエアーハウザーも日本製紙との合弁事業だった新聞用紙メーカーのノーパック(NORPAC)を売却した。
そこに、紙業タイムス社が発行するFuture誌の21年9月13日号に「日はまた沈む」と形容したくなったニュースが出ていたので紹介しようと思う。それは「ドムター社の株主は同社をアジアパルプ&ペーパー社(APP)のグループ企業ペーパー・エクセレンス社(PE)への売却に同意した」というものだった。紙パルプ業界の実務から離れて早27年の私にとっては驚きでも何でもないことではあるが、自分が縁があった会社が売買共に関係していることには、何とも言えない感にとらわれていた。
念の為に少し解説しておくと、APPはシンガポールに本拠を置く華僑財閥シナルマス(Sinar Mas)のグループ企業で、インドネシアと中国他に最新鋭の世界最大級の抄紙機を数多く揃えた、恐らく現在では世界最大級の紙パルプメーカーである。我が国では90年代後半に伊藤忠商事も資本参加していたし、私もリタイア後には少しは販売促進のお手伝いをした時期もあったのだ。北アメリカの製紙会社は必ず原料になる森林を保有しているので、市販パルプ事業部門も保有している形になるのが普通だ。
APPは製紙原料確保のために以前からアメリカの経営状態が悪化した企業の買収を手がけていたが、私が知る限りではドムターほどの実際に営業している会社の買収まで出ていった例は知らなかった。しかも、今回の買収が1980年代に自分が関係していた事業部の生産設備だったとなれば「今昔の感」があるし、最早新興勢力などと呼ぶのは相応しくないと見ているAPPがドムターを買収するとは「アメリカの製紙産業はまたもや沈ませられるのか」としか受け止められなかった。感傷的にもさせられたが「日はまた沈むのか」と痛感している次第だ。
この買収の件を見ていて感じることは「APPは今や衰退するだけの印刷媒体の行く末を、どのように評価しているのだろうか。もしかすると『そして、誰もいなくなった』分野を独り占めにでもして、全世界の市場占有率100%でも目指しているのかな」などと考えさせられた。先頃、大手の銀行2社が「ペーパーレス化を目指す」と表明していたが、この広い世界には未だこれからペーパー化に指向している市場があるのだろうか。オウナーのテグウ・ガンダ・ウイジャヤ氏(Teguh Ganda Wijaya)に伺って見たい。
参考資料:紙業タイムス社刊 Future誌 21年9月13日号
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