新型コロナのせいで、得意先の仕事が1つ止まっていた。
しかし最近、担当者から「7月になったら、動き出しそうです」というメールをいただいた。
ありがたや。
仕事が止まったことにより、週に半日間くらいの余裕ができた。
私は、その時間をウォーキングに使ったり、知人とのリモート会話に使ったり、料理の下準備に使ったり、風呂に浸かったりした。
そして、今まで週に1回だったブログの更新を2回に増やした。
だが、中止されていた仕事が復活すると、この半日間の余裕が消える。
週に2回など誰も期待していないから、いちいち告知する必要はないと思うが、またブログが週に1回の更新に変わる可能性がある。
カノウ姓、と言えば、知り合いにカノウという姓の人が2人いる。
ただ漢字が違う。一人は「叶」で、もう一人は「狩野」だ。
私が住むマンションのお隣りに住んでいるのが、「叶」さん。
頻繁に顔を会わせるわけではないが、廊下やエレベーターで出くわしたときは、1分18秒くらいは立ち話をする。
わざわざ「自分、42歳です」と名乗ったから、きっと41から43歳なのだろう。
個人情報は謹んだ方がいいことは承知だが、カノウさんは頭のてっぺんが薄かった。私より15センチくらい背が低いので、話をしていると、つい目がてっぺんにいってしまうのだ。
「昨日、仕事が忙しくて終電を逃してしまって、社用車で帰ってきました」ほうほう。「娘の行っている保育園が再開したんですが、いろいろと制約が多くて、娘が『つまんない』と駄々をこねるんですよ」ほうほう。「アベノマスクやっと届いたんですけど、僕、顔がでかいから、滑稽にしか見えないんですよね。女房は『ダサイ』と言って付けたがらないし、最終的にバラして子ども用マスクにしようかって」ほうほう。
カノウさんは、私がほとんど、ほうほう、としか答えていないから、私のことを「ほうほうオジサン」か「ほうほうオブジェ」と思っているかもしれない。
昨日の朝もカノウさんとエレベーターで出くわした。
カノウさんが言った。「最近マスクをずっとしているので、口まわりにでき物ができて、つらいんですよね。暑さは堪えますね」。
頼みもしないのに、マスクをとって見せてくれた。見たくはないブツブツが、たくさんあった。
痒そうだ。可哀そうだ。カワウソだ。
と思いながら、カノウさんの頭のてっぺんを見たら、おや、少し毛の量が豊かになっているぞ。
まだ地肌は少々見えるものの1ヶ月前よりは、密になっていた。この密は、許される密だろう。許密。
いいシャンプーを使い出したのだろうか。それともリアップであろうか。あるいは、子どもに頭を叩かせて毛根を刺激したのか。
ほうほう。そうかのう。
もう一人のカノウは、高校大学時代の同期「狩野」だ。
カノウは、大学を卒業して、気象庁に勤めた。しかし、30過ぎに、ご両親の具合が悪くなったこともあって、気象庁を辞め、一家を引き連れて故郷の富山県高岡市に戻った。
家業の理髪店を継いだ。しかし、彼は理髪師の免許を持っていなかったので、現場は他の人に任せ、彼は理髪店の隣りの自宅を一部改良して、昔からの念願だった模型店を開いた。
市販の模型も売ったが、手先の器用なカノウは、自分で設計して成型した模型を作って店先に展示した。
飛行機、帆船、スポーツカーなどが多かったという。
評判はかなりよかったらしい。本当かどうか知らないが、カノウは、狩野派の流れをくむ人が先祖だという。だからか絵もとてもうまかった。
その後、彼が富山に移って3年経ったころ、ご両親が相次いで亡くなった。
彼は迷うことなく、奥さんと女の子を連れて東京に戻った。
理髪店は人に譲り、模型店は畳んだ。
「俺が妻と子を無理やり連れてきたから、リセットしないと悪いと思ったんだ」
東京に戻ったカノウは、親の遺産の半分を妹に渡し、残った金でCDショップを開業した。山手線高田馬場だった。
当時レコードからCDに移行して5年くらい経っていた。
儲かっていたかは、興味がないから知らない。ただ、残った遺産をもとにローンを組んで、目白のマンションを買ったというから、ホニャララだったのだろう。
しかし、カノウは、いずれCDも下火になって、違う音楽媒体の波が来ることを見込んで、12年前に店を閉めた。
そして今、カノウは自宅で、手先の器用さを活かして、真鍮のアクセサリーやオブジェ、立体的なアート作品を作っていた。通販だけの販売らしい。
儲かっているかは、興味がないから知らない。きっと、ホニャララだと思う。
本物の才能があるっていいな。うらヤラシイな。
カノウとは、4年前まで、年に1回会うか会わないかだった。
しかし、最近は、パソコン内でよく会話をするようになった。
「マツ、おまえ、白髪が増えたな」
貯金は増えないけどな。チョキーン! 老後が心配ダンス。
「でも、髪があるだけいいさ。俺なんか、40前から頭皮がスカスカだぜ」
(俺だったら、金があれば、スカスカでもいいが)
確かに、カノウの頭皮はずっとスカスカだった。
だが、この2ヶ月のひそかな経過観察によると、カノウの頭皮が少し密になったような気がする。
いいシャンプーを使い出したのだろうか。それともリアップであろうか。あるいは、子どもに頭を叩かせて毛根を刺激したのか。
ワカメを主食にしたという可能性もある。
毎日、生卵で頭皮をマッサージしている可能性もある。
あるいは、頭皮がスカスカなのは、実は擬態で、その下には本物の毛が隠されていた可能性もある。
どのカノウが、本当なのだろうか。
ただ、「増毛」という最新技術を導入した可能性も否定できない。
はたして、2人のカノウは増毛をしたのか。
その可能性を探るのは、カノウだろうか。