リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

バターピーナッツ

2020-06-10 05:41:20 | オヤジの日記

今回も、まとまらない話を。

 

新型コロナの影響で、在宅ワークを余儀なくされている方。

運動不足になっていませんか。

 

2ヶ月も在宅ワークしていると、足腰が弱ります。それは歴然としています。若い人でも在宅が続くと3週間程度で足腰が衰えます。

衰えた足腰を元に戻すのは、結構難儀なものなんです。

私は、フリーランスなので、基本在宅ワークだ。22年間の在宅ワークベテラン。

外に出るのは、得意先への営業と食材の買い出し、ランニングだけ。

ランニングは、週に3から3回はしたいが、残念ながら仕事優先なので、せいぜい週に2回程度しかできない。

コロナ君が我が物顔で居座っている今は、3ヶ月ランニングをしていない。マスクをしてランニングをするという方法もあるが、私は、それを考えていない。

ランニングは、マスクをしてまでするものではない。するのは自由だが、暑くなってきたとき、マスクをして走るのは、合理的ではない。だって、息苦しいじゃん。

ということで、私は室内トレーニングとウォーキングで体力を維持している。

室内トレーニングは、スクワット100回、腿上げ(蹴りも含む)50回、腹筋30回、ストレッチ10分。全体を30分以内でできるように調整している。それ以上だと飽きてしまうからだ。

 

ウォーキングは、国立駅前の大学通り700メートリを2往復。これプラス、マンションから大学通りまで往復600メートル。合計で⒊4キロを30分くらいで歩く。この程度では、真夏でもあまり汗はかかないのだが、爽快感はある。

本当は坂道があれば効果的なのだが、国立は坂が少ない。駅からかなり離れると忌野清志郎御大ゆかりの「たまらん坂」という急傾斜の坂があるのだが、遠いので避けている。

ウォーキングは、毎日ではない。週に3〜3回だ。私は、毎日走るとか歩くのを自分に義務付けるのは、好まない。自分で自分を縛るって、窮屈すぎますよね。

長く続けるコツは、「テキトー」だと思っている。今日は気分がのらないな、と思ったらやめる。嫌々やっていたり、義務感だけでするスポーツは、ちっとも楽しくない。

仕事は、毎日イヤイヤやってますがね。イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤーハン!

 

月曜日、ウォーキングをした。

気温は28度程度。天気よし。

ウォーキングの最後に駅前のローソンに寄って、クリアアサヒの500缶とバターピーナッツを買った。

それをロイヤルホストのそばの木のベンチで飲むのが私のルーティンだ。

午前11時過ぎ。ベンチは木陰になっているので、暑さは感じない。脱力しながら、クリアアサヒのプルトップをプシュー。

フリーランスの特権ですね。飲もうと思えば、いつでも酒が飲める。「お気楽だな、おまえ」という批難は、甘んじて受けますよ。

 

だけど、俺だって、懸命に働いているんだから。懸命に働いた結果のプシューなんだから。

言っておきますが、俺はそこらへんのサラリーマンより働いているぞ。俺一人の働きに家族の生活がかかっているんだから、ノンストップに近いんだよ(息子や娘の稼ぎは当てにしていない。でもヨボヨボのジイさんになったら、少しよろしくね)。

63分くらいストップするののどこがいけないのさ。

フリーランスを怒らすなよ。全部の木に花を咲かせるぞ。花咲じじいになるぞ。鼻にも花を咲かせちまうぞ。

 

セキトリ、君はいつ生まれ変わって、お父さんの前に現れてくれるんだい? お父さんは待っているのに(唐突な願望)。

 

そんなことを涙目で思っていたとき、バターピーナッツを食っていた私の前に、おっさんが来て私のベンチの隣を指差して「ちょっといいですか」と遠慮がちに言って座った。

少し猫背の50から56歳に見える小太りの小柄な人だった。

そして、私のことを「先生」と呼んだ。先生が「先に生まれた」という意味なら、私は、きっとこの人に対しては先生だ。

彼は、パグ犬を連れていた。右から見ても左から見ても上から見ても肛門を見てもパグにしか見えないパグ犬だった。

そのパグ犬を繋ぐリードを私のほうに差し出して、彼は言った。

「ちょっと西友で買い物をしますんで、こいつを預かってもらえませんか。15分もかからないはずです」

「いつもなら、西友前のガードレールに止めておくんですが、先生なら信じられる気がして。この子、人を怖がることは滅多にないですから先生に迷惑はかけないと思います。どうでしょう」

パグちゃん、可愛いね。

で、この子のお名前は?

「さとみ、って言います。私が、石原さとみのファンなんで、そう名付けました」

ああ、その情報いらないですね。

 

預かった。

しかし、隣のベンチに座っていた、50歳前後に見える男の人が、彼が消えたら私のそばにわざわざやってきて耳打ちをしたのだ。

「あの人ヤクザなんですよ。気をつけてください」

え? 国立にもヤクザがいるの? 嘘でしょ。

男は、神妙な顔をしてうなずき、すぐ離れていった。

ロイヤルホスト前のベンチは花壇を挟んで、2列2列に配置されていた。私はロイヤルホスト側に近い右のベンチにいた。

男は左側。そして、向かいのベンチにも座っている人がいたが、2人とも足早に席を立った。

「ヤクザ」に反応したの?

 

パグ犬のお父さんは、約束通り、15分以内に帰ってきた。

パグは大人しかった。ほぼ私の足元を動かずに、静かに待っていた。

私が「さとみちゃん」と呼ぶと、面倒くさそうに、目だけ開けて私を見上げた。

おとなしいんだね。

 

男が帰ってきて「さとみ、いい子してたか」とパグの頭を撫でた。

パグは無表情だったが、嬉しそうだった。丸まった尻尾を思い切り振っていた。

男が私の前に、クリアアサヒの500缶を差し出した。「先生、留守番のお礼なんだけど、受け取ってくれるかな」

まあ、拒む理由はないわな。

「俺、さとみを他の人に預けたのは初めてなんだよね」

あ、そう? 俺もなかなか犬を預かることはないわな、アロワナ。

「先生、アロワナ飼っているのかい」

飼ってないよね。

「俺んち、アロワナが2匹いるんだよね」

どんな自慢や!

 

男が、肩から息を大きく吐いて、目の前の空気に語りかけるように言った。

「俺、30半ばまで役に立たない稼業をしていたんですよ。でも、結婚を機に抜けたんですよね。先生いま何歳?」

オレは、62だね。

「ああ、じゃあ、本当に先生だね、じゅっこ上だ。俺、52。いまだにガキだよ。先生から見たら、バカにしか見えないよね」

初めて会って、そんなのわからんよ。

「だけど、俺は先生を初めて見たとき安心したんだよ。先生ならさとみを預けられるって」

 

気のせいだよね。

 

「30半ばで結婚した俺の奥さん、働き者でさ。いつもおいしい朝ごはんと晩ごはんを作ってくれるんだ。裁縫も得意でね。だけど、少しだけでも休んでほしいと思って、昼ごはんは西友の弁当を犬の散歩のついでに、俺が買って帰るんだ」

「あ、こんな話、ちっとも楽しくないよな」

 

いや、すんごく、面白かったよ(棒読み)。

 

あらまあ、バターピーナッツがなくなっちまった。

ローソンで買ってこようかな(逃げる口実)。

 

「あ、俺が行きます。気が利かなくて、すみません。先生」

舎弟は、ローソンまで走っていった。

元ゴクドーさん(推定)をパシリに使ってしまった。

よく殴られなかったもんだ。

 

 

うまいな、バターピーナッツ。

 

 

 

ところで、久しぶりに電車で仕事場に行った娘が驚いた、

中央線が密密密密だったからだ。

 

密は怖いぞな。

だから、娘は上司に相談した。

「こんな状態で通勤するのは、働く意欲が削がれます。時間差出勤をお願いします」

上司も通勤電車が過酷なことを身をもって知っていた。

なので、娘はまた在宅ワークに戻った。

 

あの朝の密密密密密密は、なんとかならないんですか、東京都さん、JR東日本さん。

 

解決方法は、企業に丸投げですかい?

 

 

 

余計な話だが、白人警官による黒人殺人事件に関して思い出したこと。

白人警官にシンパシーを感じている人(俺は白人警官側だよ。あれはもともと黒人が罪を犯していたからじゃん)という人は、これから先はすっ飛ばしてください。

ただ、言っておきますがね、警官に裁く権利は与えられていないいんですよ。警官に与えられているのは、治安維持が主なんですよね。その先に殺人なんて、正当防衛以外あり得ないんですよ。

 

今回の事件を知ったとき、私はダイアナロスとシュープリームスのヒット曲「ラブチャイルド」を思い出した。

3人の黒人女性が歌うプロテストソングだ。

ほぼ国民的グループになりかけていた黒人女性3人が歌う社会的な内容の歌。

当時は、勇気がいったと思う。まだ歴然と黒人差別が全米を覆っていた50年以上前の曲だ。

 

ラブチャイルド、私生児。

社会から虐げられて、明日さえも定かではない女性が私生児を生む決心をしたのだ。

社会から嘲られ、白人と比べられ、罪の意識に苛まれ、誤解されてきた。

でも、私はそのすべてをあなたに背負わせはしない。

 

なぜなら、私はあなたを愛しているから。

ずっと愛しているから。

生まれてきたら、愛し続けるから。

 

 

アメリカの白人世界は、50年前とちっとも変わっていないんですね。

 

これは、トランプだけのせいではないよね。

 

白人って、どこが偉いんだ?

 

白人至上主義のクー・クラックス・クランに聞いたら、「白人だからだよ」という白痴的な答えが返ってくるんだろうな。

 

キミたち、ただ黒人が怖いだけだろ。

実は、黒人が自分たちと同じくらい優秀だったと認めるのが怖いんだろ。

 

安心してください。

履いてますよ。

 

白人も黒人もアジア人も、みんな履いてる仲間じゃないですか。

動物みたいに、全裸じゃないんだから。

 

 


過剰な愛情は異常

2020-06-07 05:41:04 | オヤジの日記

私の住んでいるマンションの駐輪場に、最近よくハクセキレイがやってくる。私は勝手に「つるとんたん」と名前をつけた。

私が、駐輪場で自転車を取り出そうとすると気配を察して、私のそばに降り立つのだ。スピースピーと鳴きながら、テケテケテケテケと歩く姿は、結構可愛い。

 

木曜日の午前、買い物から帰ってきたとき、駐輪場に自転車を止めた。そのとき、つるとんたんが買い物袋を置いたカゴに舞い降りてきた。

腹減っているのかと思った。ちょうどパンを買ってきた。パンの耳の角を細かく千切って、駐輪場の開いたスペースに置いた。つるとんたんは、遠慮なく啄ばみ始めた。

こんな小さな触れ合いでも、心は温かくなるものですね。和んだ。

しかし、和んでいる場合ではなかった。怒られたのだ。

「何をしているんですか、あなた」

振り返ると、同じマンションに住む50歳前後に見える女性が眉をひそめて私を見ていた。

「野鳥に餌をやるなんて、非常識すぎますよ。これ以上都会に野鳥を増やしたら、害にしかならないのがわからないんですか」

あんた、動物との共存共栄を考えたことがないんか。すべての野鳥に害があるわけではない。都会でバードウォッチングする人たちの楽しみを、あんたは否定するのか。

と思ったが、同じマンションの住民と揉め事を起こしても厄介なだけだ。

はいはい、ごもっともです、ちゅみましぇん、と言って、私は駐輪場から逃げ出した。つるとんたん、ゴメンな。

後ろから、女の人の舌打ちが聞こえた。え? 俺、舌打ちされるほどのことした? コロナストレスでっか。

 

そのことをヨメに言ったら、「パパはね、愛情が過剰なのよ」と言われた。「武蔵野のアパートにいたとき、ヤモリが家に入ってきたよね。みんな気持ち悪がっていたけど、パパは、割り箸で捕まえて使っていない小さな水槽で飼ってたね。水槽は庭に置いて毎日様子を見ていた。あれ、変だよ」と言われた。

「なんで、ヤモリに愛情を注げるの?」

 

だって、生きものだから。

私は、生きもの係ではなかったが、彼らの歌う「ブルーバード」は好きだ。

 

ヨメが言う。「子どもたちへの愛情もすごいよね。子どもたちの友だちにも愛情を注ぐんだから」

フリーランスということもあって、有効な時間の使い方をすれば、子どもたちの学校行事に参加することはできた。大学まで、すべての行事に参加した。

息子、娘に疎まれるかと思ったが、それはなかった。

学校に行くと息子のお友だちからは「まっちゃんのお父さん。オッス」と声をかけられた。娘のお友だちからも「夏帆ちゃんのお父さん。オッス」と声をかけられた。

オッス、というのは、いつも私がお友だちににかける挨拶の言葉だ。みんなそれを真似ているのだ。嬉しいことだ。

息子や娘のお友だちとは、ボウリングに行ったり、プールに行ったり、河川敷でバーベキューをしたり、ラジバンダリした。

今なら、親でもない他人のガイコツがそんなことをしたら、誘拐罪で捕まっていたかもしれない。そしてSNSで盛大に叩かれただろう。「あいつを殺せ」。警察と児童相談所の出番だね。

 

娘の高校時代や大学時代のお友だちは、今でも我が家にやってくる。みんな今は亡きセキトリを可愛がってくれた。愛すべき子たちだ。

そして、餃子パーティーやタコ焼きパーティー、焼き肉パーティーを今でもよく開く。

先週の日曜日。マリアちゃんが一人でやってきた。「パピー、私、結婚するんだ。昨日プロポーズされた。即答したよ。これ、うちの親にも言ってないんだけど、1番最初にパピーに報告したくて」

2人で泣きながら、エアーハグをした。

 

俺の愛情は過剰で異常だよな。

 

きっと子どもたちは、私の愛情を鬱陶しく思っているだろうな。

息子29歳。娘24歳。もう独立してもいい頃だ。

2年前に、娘に聞いてみた。

一人暮らしをしたいとは思わんか。

娘が答えた。「今は無理だ。セキトリ(我が家のブス猫)がいる。セキトリのいない生活は考えられん。ボクは、いまセキトリが趣味なんだ」

息子も娘もセキトリを溺愛していた。2人とも仕事から帰ってくると、まず「セキトリは?」と必ず聞いた。セキトリが起きていたら、2人とも抱きしめて、頬ずりをした。スーツにセキトリの毛が付いてしまうがお構いなしだ。

 

しかし、いまセキトリはいない。子どもたちを家に繋ぎ止めるものは、いなくなった。

そこで、かなり勇気がいったが、金曜日に私は、天津飯とシュウマイを食いながら、子どもたちに直球で聞いてみた。

ひとり暮らしをする予定はあるかい?

息子は即答だった。

「俺は、結婚するまでは、この家にいるよ。だって、パパとママが心配だもの」

娘も即答に近かった。

「ひとり暮らしは考えたことがある。このマンションの近くにアパートを借りて、都合よく晩ご飯だけ食べに来ようかなってな」

「でもな、セキトリが死んだときのパピーとマミーの尋常じゃない落ち込み具合を見たら、それは無理だってわかった。今まで支えてもらったボクたちが、今度はおまえたちを支える番だって気づいたんだ」

 

俺の過剰な愛情は異常じゃなかったか。

「もちろん異常だ。だけど、それがなければ、今のボクたちはない。過剰な愛情に慣れてしまったんだよ」

君たち、大人になったねえ。

 

さて、私の愛するセキトリの月命日が迫っている。9日だ。

またミニ祭壇を花で華々しく飾って追悼しようと思う。

今にして思うと、セキトリも私の過剰な愛情を鬱陶しく思っていたのではないか。

「もっと俺をそっとしておいてくれないか」と。

 

どうなんだ、セキトリ。

 

「オワンオワンダニャー(そんなことはないぞ)」と答えてくれたら嬉しいけど、セキトリはもう答えてくれないんだよな。

 

 

セキトリ、I  love。

 

 

 

 

ところで、いま世界中で抗議の声が高らかに上がっている「ジョージ・フロイドさん殺人事件」。

殺された人にも殺した人にもきっと家族はいる。

どちらもイコールなのに、なぜ黒人が殺されることが多いのか。

黒人を殺した白人は、その家族も殺したのと同然だ。

 

白いだけで、なんの根拠もないプライドを振りかざして、一つの家族を圧殺する資格を与えたのは誰だ!

黒人に対する過剰な殺意を多くの白人警官に埋め込んだやつは一体誰だ!

民主主義のない世界で、人民を抑圧する法律を作ったのは誰だ!

 

もちろん・・・いま民衆に銃を向けることを命令している、おまえらだよな。

 

 

BLACK LIVES MATTER

HONG KONG INDEPENDENCE MATTER

 


マカフジミ

2020-06-03 05:34:04 | オヤジの日記

唐突ですが、ここのブログに頻繁に登場するイナバ君の本当の名字は「イナバ」では、ありません。

 

イナ●君です。

これは、以前このブログに書いたことがありますが、ブログに登場する人たちを特定されて迷惑をかけないようにフィルターをかけているからです。

たとえば、杉並の建設会社の顔デカ社長は、当たり前のことながら「顔デカ社長」という名字ではありません。

人類史上最も馬に激似のお馬さんの名字も「お馬さん」ではありません。

上記のように、私の場合は、人の特徴を主語にすることが多いですね。

大学時代の友人を「ハゲ」と呼んだり、「カツラ」と呼んだりしています。

そのことで、彼らのプライバシーを守っているんです(名誉毀損スレスレですが)。

 

テクニカルイラストの達人・アホのイナバもプライバシーを守らなければ池無いいけないひとりだ。

イナバ君をブログに登場させるとき、私はイナバ君に事前にいつも了解を得ていた。

書いちゃうけどいい?

「あー、全然オッケーですよ。Mさんが炎上しないなら、僕は全然オケですから」

器がでかいね、イナバ君。

 

今回のブログもイナバ君に了承を取った。

「Mさん、最後のオチ、鮮やかに決めてくださいね。若いころのフェルナンド・トーレスみたいに」

サッパリ、意味がわからん。

 

了承を取ったので、ややこしいことを書こうと思う。

驚きの驚愕の事実だが、実はイナバ君の本名は「イナバ」ではない。

何を訳のわからんことを、と思った方は、頭が正常です。

私とイナバ君が、頭がおかしいのです。

 

イナバ君の本名は実は「シマ」というのです。漢字では「島」(これは本当です)。少し、珍しい名字かもしれない。

イナバ君は、自分のこの名字を子どものころから気に入っていた。

長年生きていて「シマ」という名字の人に出くわさなかったからだ。

小学校、中学校、高校、専門学校、社会人になってからもシマさんはいなかった。

私の狭い交際範囲でもシマさんは、過去も今もイナバ君以外いない。

もちろんシマさんはいるのだろうが、積極的に探す気にはならない。街を歩いてプラカードを掲げ「シマさんを探しています」などということをやる気力が今の私にはない。

そんな理由で、私はシマさん探しを諦めた。

 

イナバ君が言う。

「そんなふうに、僕の人生の中でシマという名前に今まで1度も出会ったことがなかったんです。でも、結婚して何年か経って、日野市の分譲住宅を買うことになったんです。環境が良くて、奥さんが望んでいたレンタルの家庭菜園が近くにあったので、即決でした」

「でも、引っ越しの日、左隣の家に挨拶に行ったとき、その家の表札を見て驚きました。『島』だったんですよ。え? ここで同じ名字が出てくるの? 今まで、1度も出てこなかったのに」

「パニックですよ。よりによって、引っ越し先の隣が同じ島さんだなんて。うろたえた僕は、玄関先に出てきた島さんに、とっさに『今度隣に引っ越してきたイナバです』と言っちゃったんですよね」

イナバというのは、奥さんの旧姓だ。

 

それから、アホのイナバは、「イナバ」になった。得意先でも「イナバ」で通すことにした(まわりからは婿養子? と聞かれたらしい)。

表札も「イナバ」にした。ただ、横に小さく「島」という字も書いておいたが。

奥さんも子どもたちも名字は、シマだ。世間でも学校でも、彼らは「島さん」「島くん」と呼ばれる。郵便は、「イナバ内 島」で届く。

面倒臭くねえか。

だが、イナバ君の奥さんもお子さんたちも、別に不自由は感じていないという。

奥さんが言う。「だって、犯罪というわけではないですもんね。芸名みたいなものですから」

 

面白い家族だねえ。イナバ君。

イナバ君の奥さんは今、レンタル菜園ではなく、近所の農地を買い取って、本格的な農業に汗して、色々なものを栽培していた。

トマト、きゅうり、ナス、長ネギ、枝豆、キャベツ、カボチャ、ニンジン、トウモコロモコシ、ブロッコリー、サツマイモなどの旬な野菜を毎年我が家にトド届けてくれた。

ありがたいことだ。

先日は、ズッキーニとナス、カリフラワー、枝豆が届いた。ラタトゥイユを作った。うまかっちゃん。

箱の中には、他にガーゼで作ったマスクが12枚入っていた。ボランティアで老人ホームに届けるマスクと一緒に作ったらしい。ありがとうございます。

 

「ところてん」とモニターの中で、イナバ君が言った。

「ところてん」というのは「ところで」の意味だ。昔から、私がイナバ君の前だけで使う言葉だ。

6月から9月までしか使わない。この期間に「ところてん」を私が頻繁に使うので、イナバ君も私を真似て使っているのである。

「でも、Mさん、なんで6月から9月までなんですか」

ところてんは、暑くなるとお店の棚に顔を出すよね。だから暑くなる6月から使うんだ。俳句でいう季語みたいなものだよ。

「ああ、バイクのキーですね。何となくわかりました」

え? わかったの? ほんまにアルマーニ?

 

ところてんのあと、イナバ君が言った。

「6月1日に、奥さんと車でハチジョージのラーメン屋に行ったんですよ」(八王子だね)

イナバ君の車はメルセデスだった。しかし、そのときは奥さんの四輪駆動の軽トラックで行った。災害地に物資を運ぶとき、でかい荷台があった方が便利だから、奥さんはその車を愛用していた。

今回は、八王子のラーメン屋さんに行く途中に、老人ホームがあったので、ついでに野菜を届けることにしたのだ。

八王子では、懇意にしているボランティア仲間の人の敷地に車を止めた。荷台には、野菜の端切れが入ったダンボールをそのまま置いてきた。

そして、念願の八王子ラーメンを夫婦して、堪能した。

「やっぱり、ハチジョージラーメンはうまいよね。来てよかったなあ」

「そうね、さすがハチジョージは期待を裏切らないわね」

イナバ君の奥さんは、よほどの間違いでない限りは、イナバ君の言葉を訂正しない。そんなことをしていたら、キリがないからだ。

よかったね、美味しいラーメンが食べられて。少しは、自粛生活から気分が解放されたかな。

「気分そうそうでしたね」(爽快ね)。

 

満足して、車を止めた場所に帰ったら、荷台に置いた端切れの入ったダンボールがなくなっていた。

野菜の端切れですよ。そんなのを人の敷地にわざわざ入って持っていくかねえ。

「どうせ捨てるものだから、構いませんけど、マカフジミだと思いませんか」(摩訶不思議だよね。ちなみに不可思議は数の単位で2番目に大きい単位を表します。どーでもいいか)。

しかし、私はそれを聞いてオロドイタ。その言葉、私はつい2週間前、我がヨメの口から聞いたことがあったのだ。

長らく使っていなかったアナログプレーヤーがあった。壊れたと思って、クローゼットの奥にしまっておいたのだ。場所を取るから、とりあえず捨てちまおうかということで意見が一致した。

ただ、捨てるにしても今まで頑張ってくれたのだから、綺麗にしてから捨てようと思った。綺麗にしたのち、一応タップに繋いでみるかと思って、繋いでスイッチを入れてみた。

あらまあ、ターンテーブルさんが回り始めたぞ。ミニコンポに繋いでみた。宇多田ヒカルパイセンの「First Love」をかけたら、普通に再生してくれたのだ。

 

そのとき放ったヨメの言葉。

「あんらあ、マカフジミだわ」

 

 

そのとき、私は、身近にマカフジミが2人いることに、気づいた。