杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

御殿場みなみ妙見 食と酒の会

2010-05-02 11:54:06 | 地酒

 前回記事のとおり、4月29日(木・祝)は、静岡市藁科地区の地産地消拠点を訪問した後、夜は御殿場まで遠征して酒の会に参加しました。

 しずおか地酒研究会会員&吟醸王国しずおか映像製作委員会会員でもある御殿場市の料理店『みなみ妙見』さんが主催する『金華豚純粋種と白隠正宗生酛純米酒Imgp2340 の会』です。

 

 

 金華豚とは、中国浙江省金華地方を中心に飼育される中国豚の在来種。成熟サイズでも体重70~90kgと小型で、頭とお尻が黒く、見た目がパンダみたいな特徴ある豚さんです。

 

 以下は、いただいた解説書の抜粋です。昭和61年11月に、静岡県の友好姉妹都市である浙江省から金華豚のオス1頭、メス2頭が寄贈されたことがきっかけで、静岡県中小家畜試験場において繁殖、発育、産肉、食味等の試験が行われ、飼育や管理方法を確立。平成元年に御殿場地域の養豚農家4軒が地域活性化の一環として、静岡県の厳しい条件をクリアして本格導入しました。同時に「御殿場金華豚研究会」を結成し、行政の指導や協力のもと、今日まで手厚く大切に守り育てられています。

Imgp2348  金華豚は早熟で子育てがうまく、基本的には育てやすいそうです。飼育方法や餌も一般の豚と変わりません。ただ、一般の豚なら20頭ぐらい収容できるスペースでも5~6頭しか入れません。また他の豚とは一緒の豚舎にしないほうが良いとされます。普通の作業にも気を配り、雑菌などが入らないよう常に清潔にしています。・・・つまりデリケートな豚さんということですね。

 「純粋種」という表記の理由を訊くと、他県で金華豚と一般豚の交雑種が「金華豚」として堂々と売られているとか。・・・食の世界ではあり得そうな話です。まともに作っている産地がわざわざ「純粋種」と表記しなければならないなんてね。

 

 

 白隠正宗は、若き蔵元杜氏高嶋一孝さんが静岡酵母「NEW-5」のみを使って、いろいろな酒米や製法に挑戦しています。地元沼津でも静岡県の酒米・誉富士の栽培に取り組み、今では県内蔵元の中で誉富士使用量がナンバーワン。「うちの蔵には合う米のようです」と太鼓判を押します。

 

Imgp2343  この日、披露してくれた酒は3種。

①白隠正宗 生酛純米酒 (麹米・誉富士60%精米、掛米・あいちのかおり65%精米)日本酒度+2、酸度1.7

②白隠正宗 少汲水純米酒(麹米・誉富士60%精米、掛米・あいちのかおり65%精米)日本酒度+0、酸度1.7

③白隠正宗 山廃純米大吟醸雄町(雄町45%精米)日本酒度+4、酸度1.5

 

 ①は、高嶋さんが初めて挑戦した生酛。7~10日で酒母ができる一般的な速醸酛と違い、酒母ができるまでゆうに1カ月かかる生酛づくり。厚みのある“骨太”な酒母が醸し出す酒は、軽快な静岡吟醸とはまったくタイプの違う味に仕上がります。それでいて、後口に雑味が残らないのは静岡酵母と造りや管理の丁寧さによるものでしょう。

 ぬる燗でもいただきましたが、燗にするとわりと平坦で小さくまとまってしまった感じがしました。…たぶん、ほかの生酛はこれほど後口がきれいではないので、そのマイナス面が燗付けによってカバーされ、燗上がりするのではないかな。高嶋さんの生酛はもともとがきれいに仕上がっているので、その特徴がわかるのは冷酒のほうだと思います。この酒をさまざまな温度帯で試した方は、ぜひご意見をお聞かせください。

 

②は、少汲水(しょうくみみず)という高嶋さん独自の製法。仕込み水を、通常の3分の1程度に減らす造り方です。通常、仕込み水は、米1トンに対して300~400?使うところ、1トンあたり110?で仕込んだそうです。

 この水量ではアルコール醗酵させるのにかなり苦労すると思われますが、上手に造ればアミノ酸が多い旨みのある酒に仕上がります。江戸時代に灘から下ってきた酒がそうで、江戸庶民は燗をつけるときに水を1割足して飲んでいたそうです。確かに水割りにすれば軽~い甘酒感覚でスイスイ呑めたかも! 落語好きで歴史書や昔の文献を読むのが趣味だという高嶋さんは、これを現代風に復活させようとしたわけです。

 彼に、「生酛と少汲水で造ったら江戸の酒を完全再現できるね!」とけしかけたら、ものすご~く難しいとのこと。でも彼のことだから、いつかやってのけるでしょう!

 

③は雄町の山廃純米大吟醸。高嶋さんはこれを今年の静岡県清酒鑑評会に出品したそうです。雄町の酒、しかも山廃の酒を鑑評会に出品したのは、彼が初めてではないかしら!? 鑑評会の審査は、山田錦を使うことが大前提になっていて、酵母の使い方を競い合う場になってしまっていますが、高嶋さんの挑戦は一石を投じたはず。

 静岡県の鑑評会なら、前提にするのは県で開発した静岡酵母あるいは誉富士の使用と定め、あとは、蔵元が自分の蔵の造りに最も適していると判断した製法で、堂々と競い合う場にすべき時期に来ているのでは…と、私も思います。審査員の力量が問われるかもしれませんが・・・。

 

 

 このような個性的な酒に合わせる料理を考えたみなみ妙見の池谷さんも、かなり準備に時間をかけたようです。

◎先付 フカヒレ茶碗蒸し(金華豚のスープダシ)

◎前菜 金華豚の塩梅煮、地玉子、のびる・ふき・地こんにゃく

◎刺身 沼津港直送イサキ・サヨリ(泡醤油)

◎揚物 琵琶湖の天然稚鮎、地たらめ、鈴木差し入れの新茶の天ぷら

◎酒肴 沼津カツオの黄身醤油漬、辛み味噌

◎金華豚しゃぶしゃぶ(戸田塩・ヒマラヤ岩塩・ポン酢・御殿場田代耕一さんのわさび)、新玉ねぎ、レタス、キノコ

◎寿司 下田キンメ鯛、沼津桜鯛、キハダ鮪

◎御殿場コシヒカリの筍ごはん

◎金華豚スープの稲庭うどん

Imgp2346  

 このうち、金華豚しゃぶしゃぶのとろけるような美味しさはもちろんのこと、お刺身で、泡醤油と御殿場わさびでいただいたサヨリの美味しさと言ったら…! 生酛の冷酒がすいすい進みました。

 泡醤油というのはメレンゲ状の醤油のことで、京都の芸妓さんが着物の裾の醤油のシミだれを気にせず食べられるように工夫されたつけ醤油です。会席料理をきちんと修業したご主人ならではのきめ細やかな配慮です。

 

 

 これだけの食材をそろえ、下ごしらえするだけでも凄いし、白隠正宗3種をちゃんと試飲して味付けを考えた手間も凄い。この料理と酒代込みで会費5250円というのがもっと凄い。しかも日中、ネクトさんで手摘みした新茶の茶葉を差し入れたら、ご招待扱いにしてもらっちゃいました・・・(謝)。

 

 みなみ妙見さんの酒と料理の会、昨年1回目は初亀の橋本さんがゲストで、2回目・3回目(今回)は白隠正宗の高嶋さん。同じく御殿場で地酒伝道師として頑張っておられる酒のいわせさんと一緒に、不定期ながら企画開催しています。内容を考えたら、御殿場まで遠征する価値は大いにアリ!です。

 なお、こちらの報告も併せてご覧くださいまし!