7月31日 編集手帳
吉田松陰は和歌一首から遺書『留魂録』の筆を起こしている。
〈身はたとひ武蔵の野辺に朽(くち)ぬとも留置(とどめおか)ま し大和魂〉。
身は朽ち果てようとも、
国を思う心だけは残そう、
と。
黒船来航で波乱と転変の生涯を送った人である。
久しぶりにその言葉を聞いた。
「これからも大和魂を貫いて参ります」。
大相撲の新大関、
豪栄道関(28)の口上である。
辛抱強く潔い日本人の精神を忘れずに土俵を務める気持ちを
、“大和魂”の一 語にこめたという。
かつて米国ハワイ出身の力士たちが土俵を席巻したとき、
「黒船来襲」と騒がれた。
モンゴル出身の白鵬関のような風格と実力を併せ持つ大横綱・名横綱が大相撲の屋台骨を支えている今
黒船うんぬんのつまらない比喩を口にする日本人ファンはもういないだろう。
それはそうだとしても、
豪栄道関 の語る大和魂のなかに「次は自分が日本人横綱に」というひそやかな闘志が隠されているとすれば、
その意気やよし、
である。
〈日の本を踏み固むるは相撲かな〉(江見水蔭(えみすいいん))。
新大関には、
あの重量感みなぎる鋭い出足がある。
夢に続く相撲道を大和魂で踏み固めてもらおう。