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あのとき飛び降りようと思ったビルの屋上に 今日は夕陽を見に上がる

2014-08-09 08:00:00 | 編集手帳

8月7日 編集手帳

 

細川たかしさんが『心のこり』でデビューしたとき、
曲名を見てつぶやいた人がいる。
「肩だけでなく、
 心の凝りもあるんだ」。
須磨野波彦さんが『日本語探 偵出動』(冬花社)に書いている。

「心残り」の誤読ではあるが、
たしかに心にも凝りは生じる。
ストレスがそうだろう。
趣味や、
酒や、
家族との団欒(だんらん)をもってしても揉(も)みほぐせないほどの重症に陥ると、
悲しいことだが、
ときには死に至る病にもなる。

「生物学の常識を覆す大発見」から「幻獣ネッシーもどき」に世評が堕(お)ち ていくなかで、
その人のストレスは尋常でなかったらしい。
理化学研究所の笹井芳樹氏(52)がみずから命を絶った。
疑惑が噴出したSTAP細胞論文の主要 著者の一人である。
「疲れました」と遺書にあったという。

『日本一短い手紙』の優秀作を思い出す。
〈あのとき/飛び降りようと思ったビルの屋上に/今日は夕陽(ゆうひ)を見に上がる〉。
心の凝りには、
“時間”という名の再生医療もある。
疲れ果てたその人には酷だとしても、
残された人たちの心痛を思うとき、
ただ一つのことしか胸に浮かばない。
つらくとも生きてほしかった。

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