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獣(けだもの)以下の心をもった人間め!

2014-08-31 15:30:00 | 編集手帳

8月30日 編集手帳

 

人間嫌いで知られたドイツの哲学者、ショーペンハウアーは飼い犬のプードルを友とした。
〈アトマ〉(世界精神)という立派な名前を与えたが、
その犬に腹 を立てたときだけは〈人間め!〉と呼んだと、
『この哲学者を見よ』(中央公論新社)に挿話がある。

偏屈な哲学者ほどには人間が嫌いではないつもりだが、
犬よりもはるかに下等な心をもった人間がこの世にはたしかにいる。

さいたま市の男性が連れていた盲導犬が何者かに鋭利な物で刺された。
全盲の男性は変事に気 づくすべがない。
パートナーに危険を伝える際を除いては吠(ほ)えないよう訓練されている盲導犬は、
凶行に無言で耐えて黙々と導き役を務めたようである。

通勤の駅で時どき、
訓練中の盲導犬を見かける。
調教の人に伴われ、
ホームで電車の轟音(ごうおん)に慣れる練習をしている。
大切な仕事であるのは子供も知っているから、
大きな声を出したり、
悪ふざけを仕掛けたりはしない。
ほんの幼い子供でも、
である。

よく刺さるようにか、
盲導犬の服をめくり上げて肌をじかに刺したらしい。
どこにいる。
人間の姿をして、
獣(けだもの)以下の心をもった人間め!

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ちょっと浮世離れした人物を演じて、 余人の遠く及ばぬ芝居を見せてくれた人

2014-08-31 07:15:00 | 編集手帳

8月28日 編集手帳

 

知り合って間もない男女が、
喫茶店で会話を交わす。
男性が尋ねた。
「おいくつですか?」。
戸惑いつつ、
女性が答えた。
「26です」

「に、にじゅうろくッ!」。
男性が驚愕(きょうがく)した顔で叫んだ。
店内の目が一斉に二人に向く。
男性の手には砂糖をすくったスプーンが。
「あッ、二つ…」。
女性が消え入りそうな声で言った。

40年ほど前のテレビドラマで、
題名は記憶にない。
「26」もウロ憶(おぼ)えである。
北海道小樽市を舞台にした一話完結の物語で山田洋次さんの脚本だったこと、
男性を米倉斉加年(まさかね)さ んが演じたことは覚えている。

純粋で、
不器用で、
晴朗で、
ちょっと浮世離れした人物を演じて、
余人の遠く及ばぬ芝居を見せてくれた人である。
米倉さんが80歳で急逝した。
大河ドラマ『三姉妹』の中村半次郎。
同じく『勝海舟』の佐久間象山。
舞台『放浪記』の白坂五郎。
味のある役者がまた一人、
消えた。

はる か昔の、
コント風の一場面をもって偲(しの)ぶことが、
晩年はとくに深みのある演技で観客を魅了した人を悼むのに適当かどうかは知らない。
きのうは気がつくと何度か、
雪景色の小樽にある幻の喫茶店にいた。

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