1月16日 編集手帳
言葉は時代により意味を変える。
他の多くの辞書とちがって「広辞苑」が特徴的なのは、
古い順に意味を紹介することだろう。
例えば【優しい】は<〈1〉身も痩せるように感じる>と始まる。
このあと<つつましい><おだやか>といった変化が紹介され、
5番目にようやく<情深い>と現代の意に近い記述が出てくる。
人の気持ちもよく似ていよう。
本当に優しい人は、
身も痩せるような苦悩を過去にしているものである。
その人は幼い頃、
貧困に苦しんだという。
平成の二つの大震災で、
遺児の心のケアに尽力した元あしなが育英会職員、
林田吉司(よしじ)さんが病気のため65歳で亡くなった。
育英会が神戸に築いたケア施設で初代館長を務めた。
ねじりはちまき姿で遺児らに接し共に涙を流した。
東日本大震災後には施設建設のため東北事務所長として赴任した。
そのおり、
何より心強かったのは阪神の遺児たちが成長し、
ボランティアとして東北の遺児の助けに向かったことだろう。
若者たちの胸には“神戸のお父さん”の言葉があったにちがいない。
「つらい体験をした人は、
優しくなれる。
人のために生きなさい」