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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

秒速5センチメートル(V)

2011-01-17 23:13:09 | 映画(は)
評価点:57点/2007年/日本

監督:新海誠

いつまでもまぶしすぎる初恋。

小学5年生の貴樹(声:水橋研二)と明里(声:近藤好美)は転校生という共通点から惹かれあっていた。
しかし、明里は小学校卒業と同時に栃木へ転校し、貴樹も中学校2年生を前にして鹿児島へ転校することになった。
離ればなれになってしまう前に、栃木へ明里に会いに行こうと貴樹は計画する。
東京では雪がちらつく3月4日、次第に雲行きは怪しくなり、貴樹は不安になっていく。

「ほしのこえ」で全ての制作を一人でこなしたアニメ監督が描く短編アニメ映画。
僕は彼の存在だけは知っていたが、見たことはなかった。
何か短いものを借りようとしてアニメコーナーにいったらあったので、手に取ってみた。

この映画も少数だけでちまちま作ったという作品。
短い作品だし、GEOなら100円だし、借りてみるのもいいかもしれない。
肯定も否定も、おそらく大きく評価が分かれるのではないか、と思われる。

▼以下はネタバレあり▼

泣くだろうと言われていたので、ちょっと期待して観たのがいけなかったのかもしれない。
僕にはそれほどおもしろいとは思えなかった。

新鋭アニメ監督として話題になったことだけのことはある。
こういった感覚でアニメを作ろうとした人は稀だろう。
この映画がおもしろいのは、距離と距離感に自分の想いを象徴化させようとした点だ。
タイトル「秒速5センチメートル」というとおり、相手への想いが伝わらないもどかしさを距離で示している。

吹雪で停まる電車、東京と栃木、栃木と鹿児島、通学路の距離、別れた彼女からのメールなど、距離を示す描写が効果的だ。
美しい情景描写とあいまってセンチメンタルな恋を描き出している。
また、山崎まさよしの主題歌がみごとに映画の内容に合致していて、ラストのシークエンスでは涙を誘う。

が、それまでだ。
描写の目新しさよりも、物語や見せ方の荒削りな部分が目立ってしまい、感情がそがれてしまった。
描写のことを言うならば、時系列に見せているわりには、色に変化がない。
美しすぎる描写はどこか一途さを象徴している一方、僕にはいつまでも過去にすがるような印象をもった。
とくに第3話になって現在と過去の関係に焦点化されてしまい、というより現在と過去しか描かれないために、いつまでも中学校の思い出を引きずっている愚直な大人に見えてしまう。
そのわりにはなぜそこまで惹かれたのか、なぜ今の自分を肯定できないのかが全く描かれないため、感情移入しがたい。
「愛を読む人」では、数週間の交感が一生に影響を及ぼすという結構で説得力もあったが、こちらはそうはいかない。
手紙を効果的に使いながら恋を描いているものの、一生を左右するほどの関係だったとは言い難い。

描写はその物語のテーマを浮き彫りにする。
というより、描写以外に頼りにするものがない観客は、そのように観ざるをえない。
だから、美しすぎる過去は、現在の貴樹を余計に見え無くさせてしまっている。

また、彼の語りがいちいち蛇足だ。
小説家のような精密な語りはもはや語りの域を超えている。
それが新しいスタイルだというのなら、それもまた良いだろう。
けれども、この語りが蛇足なのは、やたらと言葉を尽くす割には語る〈いま〉〈ここ〉がいつまでもわからないことだ。
語るがそれがどの時点での語りなのか、みえてこない。
だから、それが単なる憧憬なのか、それとも決定的な出来事で社会人になった現在まで引きずっていることなのか、わかりにくい。
もちろんもし後者であるなら、もっと現在についての説明が必要だし、そうでなければ気持ち悪い奴にすぎない。
ふとした瞬間によみがえってきた記憶というのなら、もっと語りをぼやかせるべきだ。

要するに、彼が立つ位置が不明確なので、どういう語りなのか捉えられない。
そんな語りを入れるくらいなら、得意の映像的表現でそれをみせるべきだった。

描写がおもしろく、モティーフも悪くない。
けれども、それを見せるだけの基本的な映像への造形が浅すぎる印象を受ける。
もっときちんと勉強して、映像がどうあるべきなのか、物語とはどういうものなのか、知ってほしい。
どこか壊れた、どこかアンバランスに感じてしまう。
そのアンバランスさや不安定さが彼の魅力といえば聞こえはいいが、僕はそれでは満足できない。

山崎まさよしの主題歌がなければ、きっと映画として成り立たなかっただろう。
結局PV程度の出来というわけだ。

可能性を感じる映像やモティーフだっただけに、非常に残念な作品だ。

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