secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

THE GUILTY/ギルティ(V)

2023-09-06 21:19:01 | 映画(か)
評価点:76点/2018年/デンマーク/85分

監督・脚本:グスタフ・モーラー

見事なスリラー作品。

緊急通報室のオペレーターのアスガー(ヤコブ・セーダーグレン)は、元刑事で最後のオペレーターとしての仕事に就いていた。
この日が終われば、翌日晴れて刑事に復帰する予定だった。
あと数時間で勤務が終了するという段階で、女性イーベン(イェシカ・ディナウエ)から電話がかかってくる。
元夫に捕まってどこかに誘拐されている、という内容だった。
異常な様子を察知したアスガーは、パトカーに出動を要請するが、詳しい状況がつかめない。
機転を利かせたアスガーは、彼女の自宅に電話を入れるが。

公開当初、見に行きたいと思っていたが、結局いけなかった作品。
すでにネトフリで、ハリウッド・リメイクもされているらしい。
いわゆるシチュエーション・スリラーであり、「セルラー」や「Search」などと同じような限定された場面によるサスペンスだ。

すべて緊急通報室でのやりとりで展開されて、それ以外の情報はない。
けれどもそこから様々な音が聞こえてきて、話がつながっていく。
展開がわかりやすいので、それほど理解が難しい映画でもないだろう。

▼以下はネタバレあり▼

この映画のポイントは聞き手がどんどん話し手に変わっていく、というところだ。
平凡な話に見える事件で、「こういう話はよくあるよね」という発端からひっくり返される。
そのひっくり返しと同時に、「聞き手」だったアスガーが「話し手」として当事者になっていく。
その展開が見事だ。

男に連れ去られてどこかに向かっている、という緊急コールは、よくあるDV男の話を彷彿とさせる。
しかもその男は、元夫で、幼い子どもがいる。
アスガーが最初につかんだ情報である。
単なる一本の電話だが、そこにある文脈は、現代なら容易に想像できる。
しかも、幼い子どもが殺された可能性すらある。
その断片的な情報からつなぎ合わされる事件の全貌は、男が女を今まさに殺そうとしているというものだ。

そのとき、聞き手であるアスガーはその窮地を救うべく立ち上がるヒーローである。
彼は彼女の電話を受けながら、自分がヒーローになろうとするのだ。
もちろん、そういう状況ならだれもが救いたいと思うだろう。
けれども、彼にはそれ以外の抜き差しならない理由があった。
それは、公聴会にかけられていたからだ。

断片的にしか彼が起こした事件は分からないが、無実の人間を射殺していた。
同僚に口裏を合わせてもらって、なんとか刑事としての職場に復帰できる見込みが立っていた。
緊急通報室のオペレーターという仕事は、彼にとっては我慢ならない退屈な場所だった。
同僚に不遜な態度を取り、「一時的な」職場だと高をくくっていた。

重大事件が起ころうとしているのに、パトカーはまったく危機感がない。
そのことに腹を立てる彼は、まさに向こう側にいた人間であることを突きつけられる。
つまり、自分こそがオペレーターを軽んじていた張本人だったのだ。
事件の危機が迫るほど、そのことを悟っていく。

ついには個室にこもり、「オペレーター」としてではなく、一人の人間としてこの事件を解決させようとする。
だから、同僚に犯人である元夫の自宅に行かせて、手がかりを探させる。
この明から暗へ、そして事件の解決が目前になったとき、また明へと転換させる。
これが、この作品の往来を象徴する。

事件の真相は真逆だった。
心神耗弱に陥った妻が、子どもを殺し、それを知った夫が急いで精神病院に連れて行こうとしていた。
殺された子どもの、幼い姉には絶対に子ども部屋を覗くな、と言い聞かせていた。
弟が殺された現場を見せたくなかったからだ。
真相が分かったとき、アスガーは、自分がヒロイックな気分に陥ることで、罪滅ぼしをしようとしていたことに気づく。
救いたかったのは、自分であり、イーベンではなかったのだ。

何でもない事件だったのかもしれない。
けれども、単なる聞き手だった男が、事件と関わることで、当事者になっていく。
この転倒が非常にうまく描かれている。


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