評価点:87点/2013年/アメリカ・イギリス/90分
監督:アルフォンソ・キュアロン
私たちは「重力」なしでは生きられない。
宇宙飛行士たちは船外活動で新たな研究を重ねようとしていた。
計画は順調に進んでいるはずだった。
しかし、そこへ初めて宇宙飛行士として搭乗したライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)の元へ緊急連絡が入る。
スペースデブリと呼ばれる宇宙ゴミが急速に接近し、シャトルに直撃する可能性があるということだった。
スペースデブリは容赦なくクルーに襲いかかり、ストーンはシャトルから切り離され、吹き飛ばされてしまう……。
全くノーマークだったが、予告編がおもしろそうだったので気になっていた。
他のブロガーさんたちの記事を見ていても絶賛されていたので、急遽見に行くことにした。
監督は「トゥモロー・ワールド」のアルフォンソ・キュアロンである。
いつまで経っても覚えられないのは、言いにくいからに違いない。
キャストは、「私かわいいわよね」という演技が鼻についていつも好きになれないサンドラ・ブロックと、「顔がどうみても女たらし」のジョージ・クルーニーである。
この二人が嫌いでもこの映画は大丈夫。
半分は顔が見えない宇宙服を着ているから、問題ない。
それでもきちんと演じきっているのは、二人の役者根性が半端ではないからだろう。
私は3Dで見に行った。
この映画は絶対に映画館で見に行った方がよい。
そういう類の映画だし、映像そのものがこの映画のテーマそのものであるとい言っても良い。
年末だけれど、この映画は今年一本の映画だ。
▼以下はネタバレあり▼
アルフォンソ・キュアロンと言えば「トゥモロー・ワールド」で子どもが全く生まれなくなってしまった近未来を描いたあの監督だ。
そこでは長回しが多用され、圧倒的な迫力をもってディストピアを描いていた。
その監督が、今度は宇宙空間を撮るという。
予告編からはほとんど物語性がないような映画だと思われたが、なかなかどうして、こいつはすごい傑作ができあがった。
地上60万キロでの船外活動。
そこには空気も重力もなく、音も伝わることはない。
全く抵抗がないその場所では、空中を泳ぐといった動作も不可能である。
一つの動きは外部からの圧力がなければ永遠に運動し続ける。
映画史上、最大の密室空間となる。
「127時間」ではたった1人の動かないアクション映画だったのに対し、この映画はたった2人の登場人物による、最も「動く」密室劇になっている。
とにかく映像がすばらしい。
しかし、そんなことを延々と書き連ねても、実際に見る感動には遠く及ばない。
この映画の最大の特徴の一つは、無重力空間で撮影したとしか思えない映像の説得力に加えて、監督の特徴的な「筆癖」による長回し映像である。
「トゥモロー・ワールド」でも触れたが、この監督は長回しに強いこだわりを持っている。
それはアクション映画に鳩を必ず登場させるとか、監督自身がカメオ出演するといったレベルのこだわりではない。
彼は長回しするべきテーマ性をきちんとわきまえて撮っている。
この映画は長回しでなければ撮れなかったと言ってもおかしくないほど、長回しによる演出効果が絶大なのだ。
この広すぎる残酷な密室を縦横無尽に動くカメラで長回しすることによって、この空間が果てしのないものであることを観客も味わうことになる。
これが細かいカット割りによって撮影されていたとすると、そこにはスタイリッシュ性があったとしても、無限に広がる孤独は表現できなかっただろう。
この映画のテーマはまさに「孤独」なのだ。
私はこの邦題「ゼロ・グラビティ」よりも、やはり原題の「グラビティ」のほうがよりこの映画を言い得ているような気がする。
この映画は、1人の女性が宇宙に飛び出て、やがて地球に帰ってくる物語だ。
それは娘を失った悲しみを抱いた、孤独な女性が、やがて自分は1人ではない、あらゆる重力に支えられて生きているのだと知る物語なのだ。
このグラビティ(=重力)には、人間としてのあらゆる関係性を示している。
地球が美しいように、人は放り投げられた宇宙空間を漂いながら、それでも大きな重力に支えられている。
娘という重力を失ったとしても、それでも人は重力の中で生きている。
そのテーマ性をしっかりと描いている。
それはこの映像作家とも言えるこのアルフォンソ・キュアロン監督でなければ描けなかったことだろう。
うまく撮ったのではない。
しっかりと精確に描いたのだと思う。
時おり、私たちはこの重力から逃れたいと願う。
どうしようもない柵から逃げ出したいと願う。
しかし、私たちはこの重たい重力をなくしては生きられない。
生きるというその単純な営みを、どれだけ悩み、どれだけ悲しみ、どれだけ喜んできたのか。
何度も見たい映画だ。
監督:アルフォンソ・キュアロン
私たちは「重力」なしでは生きられない。
宇宙飛行士たちは船外活動で新たな研究を重ねようとしていた。
計画は順調に進んでいるはずだった。
しかし、そこへ初めて宇宙飛行士として搭乗したライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)の元へ緊急連絡が入る。
スペースデブリと呼ばれる宇宙ゴミが急速に接近し、シャトルに直撃する可能性があるということだった。
スペースデブリは容赦なくクルーに襲いかかり、ストーンはシャトルから切り離され、吹き飛ばされてしまう……。
全くノーマークだったが、予告編がおもしろそうだったので気になっていた。
他のブロガーさんたちの記事を見ていても絶賛されていたので、急遽見に行くことにした。
監督は「トゥモロー・ワールド」のアルフォンソ・キュアロンである。
いつまで経っても覚えられないのは、言いにくいからに違いない。
キャストは、「私かわいいわよね」という演技が鼻についていつも好きになれないサンドラ・ブロックと、「顔がどうみても女たらし」のジョージ・クルーニーである。
この二人が嫌いでもこの映画は大丈夫。
半分は顔が見えない宇宙服を着ているから、問題ない。
それでもきちんと演じきっているのは、二人の役者根性が半端ではないからだろう。
私は3Dで見に行った。
この映画は絶対に映画館で見に行った方がよい。
そういう類の映画だし、映像そのものがこの映画のテーマそのものであるとい言っても良い。
年末だけれど、この映画は今年一本の映画だ。
▼以下はネタバレあり▼
アルフォンソ・キュアロンと言えば「トゥモロー・ワールド」で子どもが全く生まれなくなってしまった近未来を描いたあの監督だ。
そこでは長回しが多用され、圧倒的な迫力をもってディストピアを描いていた。
その監督が、今度は宇宙空間を撮るという。
予告編からはほとんど物語性がないような映画だと思われたが、なかなかどうして、こいつはすごい傑作ができあがった。
地上60万キロでの船外活動。
そこには空気も重力もなく、音も伝わることはない。
全く抵抗がないその場所では、空中を泳ぐといった動作も不可能である。
一つの動きは外部からの圧力がなければ永遠に運動し続ける。
映画史上、最大の密室空間となる。
「127時間」ではたった1人の動かないアクション映画だったのに対し、この映画はたった2人の登場人物による、最も「動く」密室劇になっている。
とにかく映像がすばらしい。
しかし、そんなことを延々と書き連ねても、実際に見る感動には遠く及ばない。
この映画の最大の特徴の一つは、無重力空間で撮影したとしか思えない映像の説得力に加えて、監督の特徴的な「筆癖」による長回し映像である。
「トゥモロー・ワールド」でも触れたが、この監督は長回しに強いこだわりを持っている。
それはアクション映画に鳩を必ず登場させるとか、監督自身がカメオ出演するといったレベルのこだわりではない。
彼は長回しするべきテーマ性をきちんとわきまえて撮っている。
この映画は長回しでなければ撮れなかったと言ってもおかしくないほど、長回しによる演出効果が絶大なのだ。
この広すぎる残酷な密室を縦横無尽に動くカメラで長回しすることによって、この空間が果てしのないものであることを観客も味わうことになる。
これが細かいカット割りによって撮影されていたとすると、そこにはスタイリッシュ性があったとしても、無限に広がる孤独は表現できなかっただろう。
この映画のテーマはまさに「孤独」なのだ。
私はこの邦題「ゼロ・グラビティ」よりも、やはり原題の「グラビティ」のほうがよりこの映画を言い得ているような気がする。
この映画は、1人の女性が宇宙に飛び出て、やがて地球に帰ってくる物語だ。
それは娘を失った悲しみを抱いた、孤独な女性が、やがて自分は1人ではない、あらゆる重力に支えられて生きているのだと知る物語なのだ。
このグラビティ(=重力)には、人間としてのあらゆる関係性を示している。
地球が美しいように、人は放り投げられた宇宙空間を漂いながら、それでも大きな重力に支えられている。
娘という重力を失ったとしても、それでも人は重力の中で生きている。
そのテーマ性をしっかりと描いている。
それはこの映像作家とも言えるこのアルフォンソ・キュアロン監督でなければ描けなかったことだろう。
うまく撮ったのではない。
しっかりと精確に描いたのだと思う。
時おり、私たちはこの重力から逃れたいと願う。
どうしようもない柵から逃げ出したいと願う。
しかし、私たちはこの重たい重力をなくしては生きられない。
生きるというその単純な営みを、どれだけ悩み、どれだけ悲しみ、どれだけ喜んできたのか。
何度も見たい映画だ。
氏のおっしゃる「長回しの妙」については、なるほど納得させられました。さすが映画をたくさん観ている人は、気づきのポイントが分析的ですな。
正直なところ、期待して観た分(『インターステラー』を先に観てしまったせいが大きい)、衝撃が少なかったかな。もうちょっとしてから観ればよかった。
なんだかまとまらない感想ですんません。
この夏、二本とりあえず行きました。
近々アップする予定です。
それにしても最近眠い。
>おゆばさん
コメントありがとうございます。
「ゼロ・グラビティ」はブルーレイを買う予定でしたが、結局買わずじまいでここまできています。
映画館と自宅では印象が違うのでしょうね。
「インターステラー」は内容も時間も重厚なので、そういう意味では、さらっとしているかもしれません。
私としては大気圏突入のところは、完全に「ガンダム」とかぶってしまうのでより感動してしまったのかもしれません。
最近、風の谷のナウシカ見ましたがあれはいいね。
更新が再び滞っています。
一本記事が待機中です。
今更ながら「沈黙」も読んでいます。
しばしおまちを。
>セガールさん
返信遅くなりました。
宇宙空間をぐるんぐるんする感じがすごいですね。
テレビでやっていたのを見ましたが、確かに機内やタブレットなどの小さい画面のほうが酔うかもしれません。