キッチン・トランスレーターつれづれ日記

つれづれなるままに日々のよしなしごとを綴ります。本、風景や花や料理、愛犬の写真などをご紹介。

ガラガラヘビの味

2011-04-25 08:40:08 | 
ガラガラヘビの味――アメリカ子ども詩集 (岩波少年文庫)
アーサー・ビナード,アーサー・ビナード,木坂 涼,木坂 涼,しりあがり 寿
岩波書店


            アメリカ子ども詩集という副題ですが、子ども向けに書かれた詩という訳ではあ

            りません。かと言って、子どもには難解すぎるような複雑な詩集でもありません。

            もっとも、詩は頭で考えて理解するという性質のものではありませんが。

            ビナードと木坂涼という二人の詩人が、推敲に推敲を重ねて日本語に訳した詩

            集です。今時の言葉遣いで、翻訳ものの詩集を読みなれた人には、語彙が散文

            的に過ぎると感じるかもしれません。例えば、エミリー・ディキンソンのよく知られ

            た詩"I'm Nobody! Who are you?"
                     
                       I'm Nobody! Who are you?
                       Are you- Nobody- Too?
                       Then there's a pair of us?
                       Don't tell! They advertise- You know!

                       How dreary-to be-Somebody!
                       How public-like a Frog-
                       To tell one's name-the livelong June-
                       To an admiring Bog!

            はこうです、

                       わたしは無名! あなたは?
                       もしかしてあなたも無名かしら? それなら
                       わたしたち仲間ね!でもいわないでおいて
                       ー彼らはすぐに宣伝するから。

                       有名になるって、いったいなにがおもしろいの?
                       まるで沼地の真ん中の蛙みたい。
                       自分の名前を大声で連呼して、6月のあいだじゅう
                       見わたすかぎりの泥に拝まれて!

            nobodyとpublicを無名、有名としちゃったんですね。分かりやすい。これが岩波

            文庫のディキンソン詩集だと、

                       わたしは誰でもない人! あなたは誰?
                       あなたも-また-誰でもないひと?
                       それならわたし達お似合いね?
                       黙ってて!ばれちゃうわ-いいこと!
                       
                       まっぴらね-誰かである-なんてこと!
                       ひと騒がせね-蛙のように-
                       聞きほれてくれる沼地に向かって-6月じゅう-
                       自分の名前を唱えるなんて!
                                   亀井俊介編「対訳ディキンソン詩集」

            同じ詩の邦訳ですが、全く感じが違います。どちらが良いかは人それぞれでしょうが

            違う言語の翻訳の難しさを感じます。nobodyって日本語にはないんですよね。直訳す

            れば「誰でもない人」ですが、「無名」と訳してしまう潔さに、わたしは一票。あなたは?
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