ガラガラヘビの味――アメリカ子ども詩集 (岩波少年文庫) | |
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岩波書店 |
アメリカ子ども詩集という副題ですが、子ども向けに書かれた詩という訳ではあ
りません。かと言って、子どもには難解すぎるような複雑な詩集でもありません。
もっとも、詩は頭で考えて理解するという性質のものではありませんが。
ビナードと木坂涼という二人の詩人が、推敲に推敲を重ねて日本語に訳した詩
集です。今時の言葉遣いで、翻訳ものの詩集を読みなれた人には、語彙が散文
的に過ぎると感じるかもしれません。例えば、エミリー・ディキンソンのよく知られ
た詩"I'm Nobody! Who are you?"
I'm Nobody! Who are you?
Are you- Nobody- Too?
Then there's a pair of us?
Don't tell! They advertise- You know!
How dreary-to be-Somebody!
How public-like a Frog-
To tell one's name-the livelong June-
To an admiring Bog!
はこうです、
わたしは無名! あなたは?
もしかしてあなたも無名かしら? それなら
わたしたち仲間ね!でもいわないでおいて
ー彼らはすぐに宣伝するから。
有名になるって、いったいなにがおもしろいの?
まるで沼地の真ん中の蛙みたい。
自分の名前を大声で連呼して、6月のあいだじゅう
見わたすかぎりの泥に拝まれて!
nobodyとpublicを無名、有名としちゃったんですね。分かりやすい。これが岩波
文庫のディキンソン詩集だと、
わたしは誰でもない人! あなたは誰?
あなたも-また-誰でもないひと?
それならわたし達お似合いね?
黙ってて!ばれちゃうわ-いいこと!
まっぴらね-誰かである-なんてこと!
ひと騒がせね-蛙のように-
聞きほれてくれる沼地に向かって-6月じゅう-
自分の名前を唱えるなんて!
亀井俊介編「対訳ディキンソン詩集」
同じ詩の邦訳ですが、全く感じが違います。どちらが良いかは人それぞれでしょうが
違う言語の翻訳の難しさを感じます。nobodyって日本語にはないんですよね。直訳す
れば「誰でもない人」ですが、「無名」と訳してしまう潔さに、わたしは一票。あなたは?