クリスマスの思い出 | |
山本 容子,村上 春樹 | |
文藝春秋 |
A Christmas Memory | |
Beth Peck | |
Knopf Books for Young Readers |
トルーマン・カポーティは『ティファニーで朝食を』がとても有名ですが、
恐ろしいノンフィクション・ノベル『冷血』も有名です。英語で小説を読
むのが何とかでき始めた頃、最初に読んだのが『冷血』でした。おぞま
しい内容なのに、文体が簡潔明瞭で、英語力より感覚で読めたので
しょうか、長編を瞬く間に読み終えた記憶があります。
それに比べてこの『クリスマスの思い出』のやさしさは何でしょう?
今度はじっくりじっくり味わって読んでいます。村上春樹が「イノセ
ント・ストーリーズ』と名付けて、カポーティーの小品を6作集めて
訳を出しています。そのうちには山本容子のユニークな銅版画がつい
ている版も出ています。どれもカポーティの子どもの頃の体験が背
後にあるようです。彼は享楽的な両親に言わば見捨てられ、幼いこ
ろ親戚の家を転々として過ごしたのだそうです。この『クリスマスの
思い出』の主人公の親友で年の離れた従姉(60才を過ぎた、世間
的にはちょっと知恵遅れの、それだけに子どもの心を失っていない)
のモデルになった人もきっといたのでしょうね。カポーティは大人に
なって、社交界の寵児となり、結局は社交界から追放されてといっ
たスキャンダラスで自堕落な生活を送ったようですが、それだけに
イノセントな子ども時代を取り戻したい気持ちが強く、このような
一連の作品を書いたのでしょうか。『クリスマスの思い出』は原作
で読んでも村上春樹訳で読んでも、ピュアで、切なくて、チャーミ
ングな、心が悲しみと同時に喜びで満たされるようなお話です。