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夏恒例の観劇「ハンディマン」~「忘れたいこと」が「忘れたこと」になる記憶の物語

2019-08-02 23:45:28 | 感動の出来事(演劇)
夏の恒例となった、贔屓の劇団の「ハンディマン」という公演を観てきました。
急激に暑くなりすぎた夏に期待通りの熱い芝居を観て、感動と共に今もずっとその答えを探し続けています。

この作品は、「戦場のピアニスト」でアカデミー脚色賞を受賞した「ロナルド・ハーウッド」の名作の一つですが、
ユダヤ人でもあり、第二次世界大戦中のナチスドイツのユダヤ人大虐殺に関係した作品も多い劇作家です。

「ハンディマン」と言うのは「便利屋」のことで、今で言う「ハウスキーパー」・・・
ロンドン郊外ののどかな街で、50年以上もある家庭に住み込んで家族同然に過ごしてきた78歳の「ハンディマン」

そして、彼が夫婦二人と穏やかに過ごす家にある日突然現れた警察・・・
彼の出身地であるウクライナで起きた55年前のユダヤ人大虐殺に、彼が関与していた疑いがかけられることに。

その出来事から当惑し混乱する夫婦と、その疑いを激しく否定する彼・・・
幸せであった家庭は突然難題を抱え、警察や弁護士も巻き込んでお互いの関係が微妙に崩れていきます。

ついに、彼はユダヤ人大虐殺に荷担した容疑者として裁判にかけられ、
その一部始終を見ていたと言う老婆のリアルな証言に、激しくうろたえる。

その証言が本当なのか嘘なのか、大虐殺という凄惨な戦争犯罪とは言え55年も前の出来事の証言として、
どこまで正確性があるのか、人間はこれ程長い時間が経過しても細部まで明瞭に覚えているものなのか・・・

その疑いがもし真実だとしても、長年家庭の一員として人に尽くして生きてきた78歳の彼が、
なぜ今頃になって戦争犯罪の裁きを受けて罪を償わなければならないのか・・・との思いの奥さん。

そうであったとしても、何の罪もなく理不尽に命を奪われた多くの人や家族のことを考えると、
その虐殺に関わったことが立証されれば罪を償うべき・・・という考えのご主人。

もしも自分が裁判官として判決を下さなければならなかったとしたらどう言う答えを出すのだろう・・・
「昔の戦争中の出来事だから」で許すのか、「多くの人の命を奪ったのは疑いない」と有罪にするのか・・・

仲の良かった夫婦がそのことをきっかけにどんどん関係が悪化し、奥さんはいよいよ精神状態も悪くなる。
そして最後は、奥さんの次のような激しい言葉で終わります。

「結局、そう言う出来事はなかったのよ。全部作り話。」
「55年も経った今、その作り話のお陰でなぜこんなに家庭を滅茶苦茶にされなければいけないの?」

戦後74年経った今、ドイツでも「ユダヤ人の大虐殺などなかった」と言い張る人もいるようです。

「記憶は風化する」・・・これは誰もが実感していることだと思います。
「悲しい出来事も忘れられるから生きていける」・・・そうでなかったら前向きに生きていくことが出来ません。

そして、人間にとって都合が良いのは、「忘れたいこと」はいつか「忘れたこと」になる・・・

犯罪者の心理として「自分はやっていない」と思い込めば、「本当にやっていない」ことになることが、
犯罪心理学でも証明されています。

「過去と現在」、「記憶と現実」
・・・この折り合いをどうつけるのか、なかなか難しい問題です。

2019年8月2日


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