ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

安来市加納美術館特別展「名品と出会う」関連イベント「みるみると見てみる?」ラストレポート!(2018,5,27開催)

2018-06-17 21:38:14 | 対話型鑑賞
安来市加納美術館にて、4・5月に特別展「名品と出会う」の関連イベントとして開催された「みるみると見てみる?」のラスト(4・5月合わせて6作品目)のレポートをお届けします。

安来市加納美術館特別展「名品と出会う」関連イベント「みるみると見てみる?」
5月27日(日)14:30~15:00  森芳雄 「春の窓」 1955年 油彩
ナビゲーター:松田 淳  参加者:8名(内みるみる会員3名)

 人物が真ん中に描かれている。さらに左右に鉢植えの植物が描かれている。タイトルは「春の窓」とあり、私にはこれがただの肖像画とは思えず“なんだか不思議な絵”であり、ストーリーを想像することを楽しめそうな作品だと思ってこの作品を選びました。

 3名のみるみる会員は少し後ろの方から見ていましたが、その他の4名の鑑賞者は作品にかなり近いところに椅子を寄せて座られました。小さい作品なので仕方ないかと思い、そのまま始めましたが、始まってみると鑑賞者と作品の間にナビがいる感じがせず、しっくりこない感覚がありました。鑑賞者同士の距離が近く、誰かのつぶやきもみんなに聞こえ、ナビを介さずに話が進むことも何度か起きてしまいました。また、これはみるみる会員からの振り返りコメントで気づかされたのですが、鑑賞者と作品の距離がずっと近かったために、部分にしか目がいかず、全体的な作品の捉えができていなかったことも反省でした。作品と鑑賞者、鑑賞者とナビなどの物質的な距離感も大事なのだと改めて勉強しました。


 トークが始まるとすぐに、作品の近くに座られた4人の鑑賞者がどんどん気づいたことを話してくれました。「真ん中の人物はネックレスのようなものをしているから女性だと思う」「人物は彫りが深いから外国の人だと思う」「人物の視線の先がはっきりせず、遠くを見ているよう」などと続けて出たところで、一人の方が「人物の右側に描かれているのは、子犬の顔だと思う」と発言されました。正直なところ、全く予想していない発言だったので、みるみる会員の指摘にもあるように、肯定的な反応をしていなかったと思い、反省しています。幸いにもその方はその後も発言を何度もしてくれましたが、嫌な思いをされても不思議ではなかったと思います。
 続いて、「左側のチューリップの葉が不自然に上に伸びていて、紐か何かで縛られているように見える」という発言から、春の窓というタイトルであり、四角の枠の向こうは海と空に見えて島のようなものも見えるから、ここは船の中ではないのか、だから倒れないように縛られているのではないかというように想像が広がっていきました。そこで2人の鑑賞者が時間の都合で退席されたのですが、「この後の続きが気になって、帰らないといけないのが残念だわ」と言いながら席を立たれました。トークを楽しんでくださっていたことがよくわかり、うれしい言葉でした。

 その後も、「人物も周りの植物も、窓の向こうの景色も、そこにあるものを描いたわけではなく、それぞれが何かの象徴として描かれているのではないか」「隣のこの作家の別の作品からもわかるように、この作品も描かれているものにあまり意味はなく、構成的に描かれているのだと思う」など、鑑賞者のそれぞれのおもしろい解釈が交換され、トークは終わりました。人物、植物(静物)、風景という描かれたモチーフは一般的なのに、どこか不思議な雰囲気のある作品で、予想通りに鑑賞者は想像を膨らませながらトークを楽しむことができたのではないかと思いました。一方で、それぞれの発言をつなげられていただろうかというナビの反省は、毎度のことながら今回もありました。

 最後に、鑑賞が終わってから、途中退席されたお二人がまだ別の展示室で展覧会を鑑賞しておられたのを見つけたので、その後の流れを簡単に伝えさせてもらいました。そうすると、「最後もいろんな見方ができるという終わり方なのですね。初めてあんなふうに話しながらじっくり絵をみたけど、すごくよかったです。ありがとうございました」とお礼を言われました。教科書に載るような作家の絵がズラリと展示された素敵な会場で、このような機会をつくってくださった加納美術館に感謝します。ありがとうございました。

<みるみる会員の感想>
金谷
「もうちょっと時間がありますよ」と何度か言っておられました。鑑賞会の終わりの時間を気にしておられたのか、それとも参加者に「もっと発言しても大丈夫ですよ!」といったメッセージなのかなと思いながらきいていました。もし、発言を促すのなら、どんな言葉がいいのだろうかと考えたときに、金谷がナビをした「女と犬」の(鑑賞時間の)後半から終わり頃のことを思い出しました。
数名の参加者さんが「ちょっと違うこと言っていいですか?」等、言いながら発言してくださいました。その話題から視点が広がったり繋がったりしていき、ナビをしながら本当に「なるほど!」と思いながらお話を聴きました。なぜそんなことが起こったのかな?と考えたときに、もしかすると参加者の方々の中に少しずつ、ご自身や周りの方が発見されたことや考えたことなどが積み重なっていって、「もっとこんな見方や考え方ができるんじゃないか!?」ということに繋がったのかもしれないと思いました。
そう思って「春の窓」をふり返ってみると、それぞれのモチーフについては話せているけど積み上げる、つなぎ合わせるというのが少し難しかったのかなぁと思ったときに、ふと作品と鑑賞しておられる方々との距離感が思い出されました。ずいぶん熱心に、かぶりつくように作品をみておられました(ありがたいことです!)。近いからこそ、それぞれの部分についてよくみて考えることができたように思います。
ここからは「たら・れば」になりますが、たとえば、「遠くに半島のようなものがみえる」「(中央の人は)遠くを見ているようだ」などの距離にかかわる発言に際し、実際に少し離れてみてみることを提案したら、作品全体をとらえることができて、新たな気づきや発見がうまれるかもしれません。作品との物理的距離を変えてみることで、思考にも「俯瞰」という風が通り抜けるかも。そして「もう、ちょっと時間がありません」っていうことになったら、いいですよね。  

房野
・この作品を選んだときのナビの解釈はどのようであったのか聞いてみたいと思いました。わかりやすいテーマがみつからない不思議な作品で、結論としてナビが「何かわからないということがわかった。」と締めくくられていたのがおもしろいと思いました。解釈が収束していくのではなく、拡散していくというナビもなかなかないことだと思います。また、そこに価値を見出したのも鑑賞の在り方としてはアリなのかな、と感じました。
・挙手をしないでどんどん発言していく参加者を前に戸惑っておられましたが、中盤に、さりげなく注意されていました。もっと早い段階で「挙手をされて発言をしてください」と伝えても良かったかもしれません。
・積極的に発言されていた参加者がやむなく途中で退席される時に「最後まで聞きたかったんですが…」と残念がっておられたので、この鑑賞をとても楽しまれていたことがわかります。
・モチーフの花を「子犬の顔」に見えるという発言に対してナビが少し怪訝な様子に見えました。「それはないのでは?」と思う場面でも否定的にとらえず丁寧にパラフレーズすると、おのずと他の参加者から別の解釈が出てきます。今回もすぐ後に「あれはパンジーでしょう」という意見が出ました。ですので、ナビはどんな時も公平に発言を尊重して誰もが安心して発言できる場を作ることが大切ではないでしょうか。

春日
 私のお気に入り№1の作品を選んでくださり鑑賞会の期待感が高まった。一般の方は女性4名の参加で始まったが、お茶飲みながらの雑談みたいな気軽さがあって、話しやすい雰囲気が醸成されていると感じた。しかし、発言者の話をきちんと聞かずに他者が話し始める場面もあり、そこを嫌味にならないように制したのは大事にしたいところだと感じた。
 窓と思われるものの近くに置かれたものについて『「子犬」が居る』といった発言があったが、その発言に戸惑う様子が感じられたので、その発言を先入観なしに受けとめることはできなかったか?と感じた。(おそらくそれは花鉢でパンジーのような花が咲いているのだと思われるのではあるが。)初めて「鑑賞して語る」という行為をする時、人は大人でも子どもでも自分の先入観なしにみることはできないと思うので、先入観を否定せず、さらに客観的にみることを促すように働きかけていくのがナビの役割ではないかと思う。途中で、残念そうに席を立たれていたことから「みて語ること」の楽しさを体感できる場になっていたのだと思う。



さて、次回のみるみるの会の鑑賞会は…

7月7日(土)14:00~15:00
浜田市世界こども美術館での企画展「はまだの風景画展」の関連イベント「みるみるとみて話そう」にて開催します。
(事前申し込みなく、当日どなたでもご参加いただけますが、展覧会の観覧料が必要です)

「はまだの風景画展」にて、みるみるの会メンバーとともに「みて語ること」の楽しさを体感してみませんか?
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