ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

平成29年度島根県立石見美術館「みるみると見てみる?」③レポートをお届けします!(2018,1,27開催)

2018-02-18 22:39:24 | 対話型鑑賞

日時:平成30年1月27日(土) 14:40~15:00
場所:(グラントワ内)島根県立石見美術館 A室
作品①:「裸体」中村不折 1903~04(明治36-37)年  
作品②「裸体」黒田清輝 1889(明治22)年     ともにカンヴァス・油彩
 ナビゲーター:房野伸枝   参加者:6名(内みるみる会員5名)

 今回は参加者が一般の方おひとり…。私と同じ職場の方で、日ごろから、小学校で読み聞かせのボランティアをしてらっしゃる女性のHさんです。お誘いしたところ、初めてこうした鑑賞会に参加されたとのこと。ありがたいです!せっかくなので、ご本人に作品を選んでいただきました。選ばれたのは、明治の洋画界をリードした二人の画家の「裸体」でした。一つは若い女性の後ろ姿の全身像。もう一つは壮年男性の上半身像。二つ並べられていて、裸体であるという共通項があるだけに、見比べるとそれぞれの違いが際立つような作品なので、一つずつ鑑賞するのではなく、最初から二つを比べながら、その違いについて語ってもらおうと思いました。そうすることで、より一層それぞれの作品を深く読み取れるのでは、と考えたのです。
 みるみるメンバーは私の意図を感じてか、すぐに2つの作品の相違点を語り始めました。反省会で今回はこの方法が適していたとの意見をいただきました。「明るい室内の中、逆光で描かれた女性と、闇に浮かび上がる男性」「若い女性と年老いた男性」「年を取ってはいるけれど、その腕や手から、この男性が肉体労働をしてきたような力強さ、年齢を重ねてきたことからにじみ出るやさしさ、人生の重みを感じる」などなど。だんだん女性よりも男性の絵のほうにエネルギーや魅力を感じる、何か物語を感じるという意見が多くなり、後半は男性像の方に話が深まっていきました。その中で、Hさんが「この老人は、自分を描いた画家を気遣いながらモデルをしている」と語り始めました。私は、なぜ、ここには描かれていない画家を気遣っていると感じたのか、その根拠を知りたいと思いました。そこで「どこからそう思いましたか?」と聞き返したところ、「目のあたり…」とのことでした。それが、画家とどう結びつくのか、根拠が曖昧だと感じながら進めていくと、Hさんは「以前、読んだことのある『木を植えた男』という絵本に出てくる老人に似ていると感じて、そこから、画家との関係を想像した」と言われました。なるほど!そこで、腑に落ちました。その絵本には、実直に木を植え続けた老人と、それを見守った若い男性が出てきます。絵本の老人も絵の老人も豊かなひげをたくわえ、節くれだった大きな手がよく似ています。きっと、Hさんの中で、絵本の老人と絵の老人とがオーバーラップしたのでしょう。だから絵本に出てきた若い男性の存在が、画家に通じ、絵を鑑賞するときに「老人と青年画家」という物語を紡いだのだと考えられます。これはあくまでHさん個人の解釈で、作品の中に根拠を得て解釈するというよりは、個人的な経験や情報が作品とは離れた物語を創造したということです。
 対話型鑑賞では、見えたものを根拠に作品を読み取り、味わうことを大事にしますが、それが「fact」ファクト=客観的事実を根拠にしているのか、「truth」トゥルース=鑑賞者が主観的に感じた事実を根拠にしているのか、ナビは理解し、整理することが重要です。Hさんが語った「老人と青年画家」の物語は、彼女が絵本を読んだという個人的な経験や情報から想像されたものだとわかりました。画家が<若い男>だと断定していたことはfactとは言えないけれど、Hさんにとってはイメージの中の一つのtruthであったという訳です。Hさんの鑑賞は作品をfactから読み解くという味わい方ではありませんが、自分なりに自由に連想を広げて物語を作るという味わい方であったことがわかります。
 後日、Hさんが私に「みんなで話しながら鑑賞すると、いろんな見方があることがわかってとても楽しかった。自分はどうしても『木を植えた男』の老人に見えてしまったけれど、画家が若い男だとは限らない、という意見を聞いて、画家といえば男性だと決めつけた自分の既成概念に気付くこともできた。この鑑賞は価値観を広げるのにもとてもいいですね。」と感想を言ってくれました。絵本とオーバーラップして自分なりに作品を味わえたことや、自分の感じたことを伝えられたことに、とても満足されている様子でした。
 鑑賞に正解も不正解もありません。見た人がそれまでの経験を踏まえて想像を広げ、自由に味わい楽しみながら作品の解釈をしていく。そういう鑑賞もあるのだと再認識させてくれたHさんとの鑑賞会でした。対話型鑑賞も一期一会。その時、そのメンバーで語り合う喜びを感じたひと時でした。

参考:「木を植えた男」ジャン・ジオノ原作 フレデリック・バック 絵



※29年度のみるみるの会の活動(鑑賞会)は先日2月10日(土)の「みるみると見てみる?」をもって終了いたしました。
 30年度の活動予定については、またこちらでお伝えします。

 29年度の「みるみると見てみる?」レポートは④、⑤・・・とお届けする予定です。お楽しみに!
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