ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

12月のオンラインみるみるは2019年制作の鉛筆画を鑑賞しました

2024-01-28 21:59:57 | 対話型鑑賞

2023.12.16 

オンライン鑑賞会(みるみるの会)5名

鑑賞作品:谷平博「船小屋 佇む男 意味不明1」(制作:2019年) グラファイトによる鉛筆画

ファシリテーター・レポーター:正田裕子

以下、当日の鑑賞の様子の概略です。

(アルファベットは鑑賞者/※はファシリテーター )

 

▼対話型鑑賞の流れの概略

見えていること・主として中央に立っている存在からその存在と背景の廃屋との関係について

  • 人が画面中央にいると思ったが、よく見てみると、顔や手の部分に植物が見えていて、だけど、服を着てい

るので、完全に植物かそれとも人に植物が生い茂っているのかよく分からない。 持ち物が植物であることや背景に植物が多くあることから。

B)真ん中の人物が人ではなくなっている。背景に小屋が朽ち果てていっている様子からも、全体に怖い印象

をもった。

C)話題となっている人らしきものが動きそうだ。案山子の様なものに植物が巻き付いたものではなく、植物型の人らしきものに感じている。植物なら、根を生やして動くことはないが、ゲートボールのスティックのようなものを右手と左手でしっかり持っている様子から、(中央に立っているものは)で、固定していない感じ。 長い年月を経て、植物が生えてきたのなら、身に付けている衣服の所々から植物が突き出てきても良さそうだし、持ち物のボディバッグも覆われていると予想されるが、人間の体が、植物に置き換わっているから動き出しそう。

 

C)逆で、植物型人間に見える。

D)漫画のワンシーンに見える。中央の人物は持ち物の様子から身構えて防御しているように見える。杖のよ

うな物の加工されていない部分を上にして持っていることから、攻撃性も感じる。葉っぱに見えている部分は装具なのか?緊迫感のようなものを感じる。

E)後の風景がなんとも言えない。放ったらかしだったように見える。建物が崩れかかっているようだ。(画面

右側の建物による詳細な叙述)しかし、扉を開けられないようにしてしまった人も、もうこの場に来ていないの

ではないか。手入れのしていない壁や屋根の様子から。(左後方の建物の詳細な叙述)柱も落ちかけている

し、後の木々も鬱蒼としている。手前の草も荒れており、人の入ってきた痕跡がない。だから人の手入れがなされていない。

C)左奥の倒れかけた建物の中にあるのは、使わなくなった舟ではないか。船外機であるエンジンをとりつけるような簡易な舟で、それさえももう外れている。そこから、手前にある草地は浜であったところで、船小屋が

あったのではないか。だが、手前の人が着ている物は、漁師のような服に見えない。のど元にあるのはTシャツに見える。70年代のヒッピーの服装っぽくて、昭和の時代の服装に見える。あれ果てた船小屋とどういう関係があるのか分からない。

※背景と手前の人物らしき人について述べていただいた。時代背景についても発言があった。

 

中央に描かれている人物らしき存在の解釈について

※この人物らしきものは、皆さんどのような存在と考えますか。

A)まっすぐ立っている様子から、門番のようなイメージを受けたが、人間が植物になった様に見えることからそれだけ長い間立っていたと言えると思う。やはり、持ち物が気になっていて、反対にこの持ち物で、後方の建物を壊そうともしているか侵略者とも考えられるかもしれない。(※前述の鑑賞者Dさんの発言にもふれる)

B)背景の小屋と前に立っている人の格好がそぐわない。漁師や農業をする人の格好ではない。だから、この人はふらりとこの場に来たように見える。そして、長い時間の経過がこの画面に表れている。

※(「時間の経過」という発言をうけて)この作品の題名ですが、「船小屋、佇む男」と言う作品です。それを聞かれて、皆さんどう思われましたか。

(しばしの沈黙)

D)十代の少年、高校生くらいかと思っていたけれど、「佇む男」と聞いて、二十歳を超える青年くらいなのかと思った。どちらにしても世間から隠れたい青少年の心境が姿に表れているのではないか。佇むまま居続けるのか疑問である。自分が考えていた姿とは違和感がある。(※若さを感じるのは、どこからか)服装や、持ち物のボディバッグが十分に膨れていることと、姿(の植物の部分)が枯れていないことからエネルギーを感じる。

B)限界集落が散見する現代、人口流出する地域も多くある。この場所は、そのような場所で、残って守ろうと思っていた人ではないか。事情があってふるさとを離れたが、かつてのふるさとに戻り、朽ち果てた小屋や荒れた風景を見て愕然としている。しかし、背景の小屋の姿にもある様に、そのままふるさとを離れずにいたとしても小屋と同様で、どうにもならなかったのではないか。だから都会に行くしかなかった。ふるさとと疎遠になってしまった姿ではないか。

C)それを聞いて、中央の人は生身のまま描く気持ちになれなかった。自画像に見えてきた。この人の姿は、生身では描けない心境にみえる。

D)反対に、Iターンしてきた印象がある。都会の人間関係やさまざまなしがらみの中で、そこを捨ててこの場にいる。ポジティブな印象をどうしても持ってしまう。この場を自分の聖地にしたいと思い、自ら好んでこの姿をしているのではないか。

B)時間や見えている物からギャップを感じる。小屋を背にして前を向いているということは、やはり小屋を守りたいと思っていたし防御の姿でいることから守るべき物であったと思われる。それが、今では崩れているものを背にしていて、悔やむ気持ちがあらわれていて、画面中央に描かれていることからも、それをアピールしているようだ。

D)描かれている背景はどうしたって朽ちていくしかないこの状況の中で、現代人の服装を着ている姿から裸にはな現代人の性を感じた。そしてここで生き抜いていく強い覚悟を感じた。

※みなさんで、中央に立つ人の姿に相反する心境を読みとっていただきました。この作品は、鉛筆で綿密にかなりの時間をかけて描かれている作品作者の強い想いもあると思います。それを皆さんの発言で読み解きほぐして頂いたのではないかと思います。貴重な時間をありがとうございました。

 

▼鑑賞参加者より

・ファシリテーターの知っている作者の作品だということだが,作品制作の意図等については,ファシリから明かされない状態で鑑賞に臨めたのはよかった。

・前出の参加者の発言を途中でコネクトできていた点はよかった。

・タイトルの情報が出る前に、徐々に中心人物らしき物に対する解釈が構築されつつある流れができていたところだったので、情報が出された後にどのように考えていったらよいか迷った。また、ある鑑賞者の「中央に描かれている存在が動きそう」という発言が印象的で、この場を守り抜く存在と軽やかさを持つ存在とのギャップでまとめられてもおもしろかったのではないか。

・「中央に描かれているもののどこから植物と感じたのか」「背景と中央に描かれている存在の関係性やギャップ」についての問いかけが印象に残った。

・対話の中に、ズバリタイトルである「船小屋」というキーワードもあったので、そのタイミングで情報を出しても良かった。鉛筆で描かれている作品であるという情報をだすことで、作者の作品に対する執念や強い意志など、新たな解釈が生まれたかもしれない。

 

▼考察

・ひととき、類似した発言が繰り返されていた時があった。もっと見るべき所と、要素の小まとめが十分出来ていれば、作品に対する意見が散逸せずに、解釈に深まりが生まれたであろうと思われる。

・話題の中で出したタイトルの情報の中で、「意味不明1」という言葉自体に対話の流れが引っ張られるのではないかと危惧したため伏せたが、それをキーワードとして鑑賞していく方が、作品に対する解釈に深みが生じた可能性があったと思われる。

・鑑賞のまとめとして、中央に描かれている存在の心境を「相反する」とまとめてしまったが、対話で発言があった「時の経過」「栄枯盛衰」「疎遠」「聖地」などキーワードとして、まとめられたら良かった。

・鑑賞者の思考がつながり積み重なるように、焦点化すべきことと小まとめを的確にできるようにスキルを磨いていく必要がある。

 

▼まとめ  

要素が多く含まれる作品でしたので、どこまで皆さんの意見をまとめきれるかと、自分への挑戦となりました。エネルギーあふれる鉛筆画の作品でしたが、作品の力強さを実感していただくファシリテーションが十分できなく、リベンジをしたいと思いました。課題として、 鑑賞者の意見を集約し切れなかった点と情報提供するタイミングにもっと配慮が必要だった点です。作品の深い解釈にむけて「そこからどう思う?」への鑑賞者の発言を関連付けていく力をもっと磨いていきたいと思います。そして、今後も同じ作品を鑑賞する機会をもち、この作品の魅力をさらに見いだしていくことの出来るファシリテーションを目指していきたいです。

なお、鑑賞者の同意を得て、この度の鑑賞会に作品データを提供くださった作者である谷平博さんにも記録の様子を見ていただきました。「自身の作品について多くの意見を聞くことができて、とても嬉しく、また参考になりました。」とのことでした。

みなさん、貴重な学びの機会をありがとうございました。 

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