長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

138.キレンジャーが、やって来た!!

2014-03-27 20:52:37 | 野鳥・自然

…とは言ってもヒーローの話ではない。渡り鳥の話題である。

キレンジャクというスズメ目、レンジャク科に属する野鳥がいる。漢字で『黄連雀』、英語名を『Bohemian Waxwing』という。ユーラシア大陸、北アメリカ大陸など北半球に広く分布、繁殖しているムクドリより小さく、初列風切先端と尾羽の先端が黄色い美しい小鳥である。日本には冬鳥として日本全国に渡来し、特に本州中部以北に多い。珍鳥というほど珍しくはないが、僕の住んでいる千葉県ではそんなに多い野鳥ではない。「いる所にいけば会える鳥」というところだろうか。寄生植物のヤドリギや蔦植物のキヅタなど冬から春にかけて実をつける植物を好物としている。つまり、この種の実のなる植物を探しておいて時々パトロールしていれば出会う可能性は高いというわけだ。今の工房のあるこの土地に引っ越して来て27年ほどになる。同じレンジャク科のヒレンジャク(下尾筒と尾羽の先端が赤い)、漢字名『緋連雀』、英語名『Japanese Waxwing』のほうは偶然、沼で探鳥中にヨシ原を移動する群れに遭遇したのだが、キレンジャクを地元で見たことがなかった。信州など県外に鳥を見に行った時に偶然、遭遇したのが最後だろうか。「なんとか地元でキレンジャクを観たい!!」、一時期、冬が来るたびに広域にヤドリギの実のなる大木にあたりをつけて、探したこともあったが、なかなかキレンジャーは現れてくれなかった。ちなみにこの「キレンジャー、ヒレンジャー」というニックネームは知人の同世代バーダーがレンジャク類の黒い過眼線(かがんせん)のある顔がヒーローのマスクのように見えるので、つけたものである。

あれから随分時間も経ち、キレンジャー氏のことはもう忘れていた。ところが、「…本当の願い事というのは、そのことを忘れてしまった時にやってくる」とリルケの言葉にもあるように、それは突然眼前に現われたのだった。今週の初め、いつものように近所の里山に昼食前のウォーキングにでかけた。明るい林にさしかかったところ「チリチリチリ…チー、チー」という金属的で小さな声が頭上から降ってきた。「もしやっ!!」と思い声のする方向に視線を移すと2-3mの至近距離に見覚えのある鳥がとまっている。じっくり見てやろうと背中のザックから素早く6倍の単眼鏡を取り出して細部を観察すると「キレンジャーだっ!!」とうとう念願の地元でのキレンジャク観察を成し遂げたのだった。苦節27年…興奮する気持ちを抑えつつ周囲の枝に5羽を発見。合計6羽の小群だった。落ち着いてよく観察していると大木の幹に絡みついているキヅタの実が熟していて、これを一つ一つくわえては食べていた。

僕は野鳥の中でも特に渡りをする種類に魅力を感じる。目の前のキレンジャクはいったいどこで繁殖し、日本に渡ってきたのだろうか。カムチャッカ半島あたりだろうか、それとも中国の北部だろうか。想像を巡らすのは楽しい一時だ。小鳥の寿命はせいぜい数年、人の寿命は数十年、まさに悠久の時の流れの中での奇跡的な一瞬の出会い。何度経験しても不思議である。ひさびさに胸を高鳴らせてくれたキレンジャー氏に感謝。画像はトップが後日、同じ場所で撮影したキレンジャク、良く見ると特長である尾羽の黄色が見える。下は同じくキレンジャクと好物のキヅタの実。

 

    


121.新潟県福島潟 探鳥記

2013-12-22 17:15:42 | 野鳥・自然

今月13日。2つの個展のため新潟入りしたおり14日午前、15日終日とフリーの時間ができたので、展覧会会場の目前に広がる福島潟に、今後の版画制作の取材も兼ね野鳥を求めて訪れた。『水の公園 福島潟』は新潟市北区に含まれる広大な国営干拓地と湖沼である。現在までに220種類の野鳥や450種類以上の植物が確認されている自然の宝庫。中でも直径2mの葉を持つ巨大な水生植物「オニバス」の日本北限の自生地である他、国の天然記念物「オオヒシクイ」の越冬数は日本一を誇り、シーズン最盛期には5000羽以上が越冬している。

特に今の季節はなんといっても冬鳥のシーズン。雁類や白鳥類との出会いを期待したい。14日の早朝、寒波の到来で雪がちらつく中、連れ合いと2人、朝食前に宿を出た。放水路に架けられた「雁かけ橋」を渡ると夕べから降り続く雪で白銀の世界と化した福島潟が目前に姿を現した。「寒いっ!!」 家を出発してくる時、千葉も寒くなっていたが、なんと言うのか寒さの質が違う。ちょっと湿気をおびていて体の芯まで冷える寒さである。ポケットに手を突っ込んで固まっていると、僕よりベテランバーダーである連れ合いに「厳寒期の釧路湿原はこんなもんじゃないわよっ!!」と、しかられた。曇り空の下、南側のヨシ原の上を雁類のすごい群れが西の方向に飛んで行くのが見えた。双眼鏡で見るとほとんどがオオヒシクイのようだ。ざっと目算で、800羽以上。こんな数のオオヒシクイの飛翔を見るのは初めてである。よく追って見ていくと白鳥類の群れもかなりの数が飛んでいる。ほんとんどがコハクチョウのようだ。「ここをねぐらにしている群れが周囲の餌場にちょうど、出ていくところだね」と話しかけると「もたもたしていると観察小屋にたどり着く前に全部出て行っちゃうわよ!」と、連れ合い。

しばらく観察路を歩いていくとヨシ原の奥から一つ、また一つと雁のファミリーが次々に餌場を目指し頭上を飛翔して行く。「ガハァン、ガハハーン」と太く濁った低い声で鳴くのはオオヒシクイ、その中に「クワハン、クワハハン」と高めのかわいらしい声が聞こえた。はっと、気が付いて上を見上げるとオオヒシクイの家族の後を一回り小さいマガンが5羽ついて飛んで行った。ここでは少数派である。そして「コォー、コォー」と良く通る声で鳴くのはコハクチョウ。だいぶ賑やかになってきた。30分弱ぐらいだろうか、屋根付きの2階建て観察舎「雁晴舎(がんばれしゃ)」に到着。見晴らしいの良い二階にあがると3人の地元バーダーが来ていた。僕らもさっそく双眼鏡と施設にセットされている望遠鏡で水鳥の観察を始めた。

沼の水面にはまだオオヒシクイやコハクチョウの群れが残っている。数えきれないぐらい浮かんでいるカモ類の多くはマガモとコガモが優先種。丁寧に望遠鏡で水面を追って観ていくとオナガガモ、ヨシガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、ハシビロガモ、ミコアイサ、そして日本海側に多いトモエガモやコガモ郡中に1羽のみ発見したアメリカコガモの♂(15日)などが観察できた。それからカイツブリ類はカイツブリ、ハジロカイツブリ、ミミカイツブリ、カンムリカイツブリが観られた。寒さをこらえてじっと観察していると猛禽類が時々飛翔する。オオタカ幼鳥、ノスリ、チュウヒ、僕は観られなかったがハイイロチュウヒの♂も出たらしい。タカの仲間が飛ぶとカモ類が落ち着かず騒がしい。正面の泥地にチドリ科の冬鳥、タゲリが20羽ほど飛んできた。沼中央のカモ類がザザーッと一斉に飛び立った時、遠方を双眼鏡で追っていた地元バーダーの一人が叫んだ「オジロワシだっ!!」みんないっせいに指差す方向に双眼鏡を向けると黒い大きなシルエットがカモの群れの上方をゆったりと飛んでいる。北日本や日本海側に冬鳥として渡ってくる大型のワシで翼開長は2mを超える。「大きいなぁ、畳一畳が飛んでるみたいだ」 その姿はバックが雪化粧した越後の山並だったので、一際雄大に見えた。モノクロームの世界、一幅の墨絵のようでもある。 2日間で42種の野鳥を観察することができた。寒さは厳しかったが、ほっこりとした気分で千葉に帰ってきたのでした。 画像はトップが吹雪の中、水面を泳ぐオオヒシクイとコハクチョウ。下が『ビュー福島潟』から見下ろした一面雪化粧の福島潟、雪の中を飛翔するオオヒシクイとコハクチョウ、観察路の風景。

 

            

 

 


100.アオバズクの巣立ち

2013-08-23 13:33:24 | 野鳥・自然

当ブログも記念すべき100回目を迎えた。その100回目はやはり野鳥の話題。このところ仕事の関係でブログの更新が遅れている。ネタはそろっているのだが話題が少し前のことになってしまう。と、言うことで今回も先月の末の話。

地元、鳥仲間のS氏より連絡をいただいた。「今年も例の場所でアオバズクの雛が無事に巣立ったよ。」 さっそくカメラ片手に散歩がてら近くの場所に見に行って来た。『アオバズク』というのはフクロウ科のハトよりも少し小さい渡り鳥である。夏鳥で、ちょうど木々の青葉が繁る季節に東南アジアや中国東部から日本に渡って来るので、この名がつけられた。人里近くの平野部や低山の林で繁殖し、渡って来たばかりの頃は夕刻からホッホーッ、ホッホーッと繰り返しよく通る声で鳴いている。一般的にはこれをフクロウの声と思っている人が多いが、フクロウ科の『フクロウ』はホホッ、ゴロスク、ホホッともう少し野太い声で鳴き、途中にこのゴロスクが入るので区別することができる。大木のウロ(空洞)などで繁殖するので、街中の公園や神社などでもウロのある大木があれば観察することがある。主な餌は小さなネズミやヒミズなどの哺乳類や昆虫で、夜間巣の近くの街灯で明かりにやってくるガやカブトムシなどを狙って飛び回る姿を観察することもある。

この日、大木の下の小さな空き地にはギャラリー(野鳥観察者)が60人ほど詰めかけていた。携帯電話とインターネットの普及であっという間に情報が広がってしまう。人の数の多さにまず驚いた。雛は3羽が巣立ったようである。僕は2羽しか見つけることができなかった。雛のうち1羽は木の下の草むらに落ちていた。誰かが助けてここに移動したようだ。雛から少し離れた高い横枝に親鳥が2羽、心配そうに見守っていたのが印象的だった。近年、アオバズクやサンコウチョウ、ヒクイナなど平野部で繁殖する夏鳥の日本への渡来数が激減している。いつまでも、こうした野鳥が渡って来れるような環境が残されていってほしい。一フクロウファンの僕としても切に願う毎日である。画像はトップが巣立ちの時、地面に落ちてしまった幼鳥。下が渡って来た頃の成鳥と繁殖した巨木。

  

 

 


95.トンボ王国へ。

2013-07-24 17:45:55 | 野鳥・自然

梅雨明け以来、酷暑が続く毎日だ。先月中旬のことである。美術家で友人のF氏と千葉県の北東部に自然観察に出かけた。F氏とは野鳥を通じて知り合ったのだが、昆虫や天体にも造詣が深く話をしていて楽しい。F氏の愛車で移動する道すがら興味深い話をたくさん聞くことができた。

最初に訪れたのはF氏ご推薦のトンボ観察スポットでH町のH沼という場所。現地に到着すると、バス・フィッシングの人や昆虫採集の親子連れなどが忙しなく動き回っていた。さっそく車を止めて、はやる気持ちを抑えつつ、観察用具やカメラを担いで繰り出した。頭上を見覚えのあるトンボが群れで飛んでいる。「チョウトンボだ!最近、農薬散布の影響か近所の印旛沼周辺でも少なくなったなぁ…」 紫、青、緑と光の方向によって微妙に色彩が変化する金属光沢の美しい羽をキラキラと輝かせて飛び回っていた。幸先が良い。始めにF氏が『秘密の水路』を案内してくれた。「ここは全国的にも数少ないイトトンボ科のオオセスジイトトンボ(Paracercion plagiosum)とオオモノサシトンボ(Copera tokyoensis Asashima,1948) の貴重な生息地なんだよ」と、F氏。僕はトンボの中でもイトトンボは似ている種類が多く同定が難しいので苦手としているグループだ。

F氏は野鳥を観察するときでもかなりジックリと見る方だが、今回も水面をジーッと静かに見つめている。「いたよ!オオセスジイトトンボの雌雄が交尾をしている、とても近い」指を指してもらったがヨシや浮草に紛れてなかなか見つけることができない。ようやく周囲の目印を教えてもらって見ることができた。繊細なトンボである。♂は明るいブルー、♀はイエローグリーンとなかなか美しい体色をしている。1カップルを見つけると環境に目が慣れ昆虫の目線になってくるせいか次々に見つかってくる。結構数がいる。そーっと近づいて夢中でカメラのシャッターを押した。次はオオモノサシトンボである。こちらもしばらくして見つかった。体色に黒が多いせいかなかなか渋い装いのトンボだ。一頭、じっとしていて逃げない個体がいたのでじっくりと撮影することができた。

木陰で昼食を済ませてから再びF氏の案内で今度はブッシュを掻き分けてミドリシジミの観察ポイントに移動するが、時期が早いのか、時間帯なのか見つけることができなかった。あきらめて沼の奥地を探検することにする。釣り人がつけた狭い道をたどりながら沼沿いに移動するのだが、ここは周囲が林に囲まれその中を小沼がいくつも連続していて散策しているだけでも楽しい。上記の他にショウジョウトンボ、コシアキトンボ、クロイトトンボ、ノシメトンボ、ウスバキトンボ、ギンヤンマ、コフキトンボ、などこの地域の普通種のトンボやその他、昆虫、クモなどを数多く観察できた。ここはまさに『トンボ王国』である。元来た道を車までもどるが引き上げるにはまだ早い。このあと、九十九里方面に移動し海岸の砂丘地帯にあるコアジサシとシロチドリのコロニーを観察、さらに移動しつつゴールは北印旛沼でサンカノゴイ、ヨシゴイなどヨシ原のサギ類を観察して帰路に着いた。梅雨の晴れ間、ひさびさにゆったりと自然を堪能する時間を持つことができた。案内をしてくれたF氏に感謝。画像はトップがオオイトトンボの交尾。下がオオモノサシトンボ、チョウトンボとH沼風景。